7.帰る家
俺はヴェルファイアに告げる。
「元の場所に帰りなよ。【煉獄山】にさ」
そう言うと、ヴェルファイアは顔を暗くした。
『どうしてだ。我が戻ったところで、誰にも受け入れられぬし、主を見捨てた竜だぞ。帰ったところで居場所もない。ならば、帰りたくもないわ』
「帰りたくないなら、なんで気にしてるんだ」
『それは……』
きっと、ヴェルファイアはどう謝ればいいか分からないんだ。
自分のやってしまった行いに責任を感じている。だから、ずっと申し訳ないと思っているんだ。
いまだに四天王の名を捨てきれないのも、帰りたいと思っている証拠だ。
「ちゃんと帰って謝ってきなよ」
『……だが我は、どうせ恨まれておる』
アグニが俺の横に立つ。
「ヴェルファイア。【炎龍王】は貴様を恨んでなどいない」
『なに……?』
「四天王で真っ先に逃げ出した貴様だが、【炎龍王】は敗北寸前にこう言った」
『我が四天王よ。ヴェルファイアを憎んではならない。奴の帰る場所はここしかないのだ。だから、帰ってきたら許してやってくれぬか』
ヴェルファイアが目を見開いた。
『【炎龍王】は……死んだのか?』
「私を何だと思っているんだ。家族想いで情に厚い【炎龍王】を殺せば、アルム様の倫理観に背くことになる。感謝をするのなら、心優しいアルム様に感謝するんだな」
ヴェルファイアが「くぅ……」と下唇を噛み締める。
次第に涙を溜め、つぶやいた。
『我は、家に帰っても……良いのだな』
人間だって、恐怖を目の前にしたら逃げ出してしまうことがある。
そこは人間も竜も変わらないのだろう。
ヴェルファイアは、ただ居場所が欲しかったんだ。
帰る場所があるなんて、羨ましいなと思ってしまう。
アグニが俺の傍に近寄る。
ああいや、そうか。アグニにとっては、俺が帰る場所だったよな。
ニシッと俺が笑うと、アグニが小さく頷いた。




