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6.実力行使


 【炎龍王】の四天王と呼称するヴェルファイアは、アグニの姿をみて固まっていた。


『な、なぜ……なぜ【煉獄山(マルタ・ミナ)】に居るはずの炎神アグニがここに……っ!』


 大して興味もなさそうに、アグニは平然とした様子で言う。


「なぜと聞かれても、私は主の元へ戻っただけだ。【煉獄山(マルタ・ミナ)】は修行場でしかないからな」


 何やら、俺は話しが掴めずに混乱する。

 ヴェルファイアはアグニを知ってるっぽいけど、どんな関係なんだろう。


『そ、そうなのですね! いやはや、これは失礼をした炎神アグニ殿! 我は飛び去る故、見なかったことにして頂けぬか!』

 

 酷く焦った様子のヴェルファイアは、汗をかいていた。

 アグニが俺を見る。


「と、申していますがどうしますか?」

「え、俺に聞くの?」

「当然です。私はアルム様の配下、重要なことはアルム様が決めるべきかと」


 後ろを振り向くと、【蒼月】のメンバーが全員首を縦に振る。

 『帰ってもらえ』という意味らしい。


 俺としては、どっちでも良いんだけど。

 でも人間を支配する、みたいなこと言ってたしなぁ。


 ヴェルファイアが視線をアルムに向けていた。

 ヴェルファイアが思う。


(なんだこの餓鬼は……炎神アグニと比べ、凄まじい魔力も感じないし弱そうだ。ただの子供じゃないか。それが炎神アグニの主だと……? 我でも簡単に倒せそうだ)


 アルムが悩んだ素振りを見せると、アグニに問いかけた。


「なぁ……ヴェルファイアってどんな竜なんだ?」

「はて……そうですね。確か、私と【炎龍王】との戦いで、【炎龍王】に勝機がないと見るや否や、真っ先に逃げ出した四天王の一人ですね」


 ヴェルファイアがビクッと跳ねる。

 

『あ、あれは違うのだ! アハハ、命あっての物種と言うではありませぬか、アグニ殿。他の四天王だって、きっと理解してくれるはず……!』

「いや、思いっきり『後でぶっ殺す』と言っていたぞ」


 ヴェルファイアが『ぬぉぉぉっ、やはり帰れぬ……』と声を漏らした。

 俺は、ヴェルファイアに問いかけた。

 

「ヴェルファイア。あなたは人を何だと思っている?」


 ヴェルファイアが嫌みったらしく、ニンマリと笑う。


『……はんっ、人など単純にして脆弱な生き物よ。死して我の恐怖を知らしめる存在だ。そんな当然のことを聞いてどうする?』

 

 アルムは出掛かった言葉を口にしようとして、やめる。


「そっか。良かったよ……分かりやすくて」  

 

 空気が変わる。


 風が吹き、薄暗い雲が空を包んだ。


「人に害を成すなら、消すよ」

『────ッ!!』


 ヴェルファイアが突如飛び立つ。


(ふざけるな! どこが弱そうな餓鬼だ! 奴がふと放った気配の中に、炎神アグニの力を感じたではないか! どうなっておる! 少しでも遠くへ────)


 月夜の明かりの空で、影が走る。


「アルム様が消すと言った以上、見逃すことはできない」


 アグニが目前に現れる。

 アグニは足の裏に炎を出現させ、空を飛んでいた。


(速すぎる────っ! 炎神アグニめ!!)


 アグニが手を振るうと、爆炎が広がった。

 ヴェルファイアの胴を直撃し、落下する。


 衝撃が地上に伝わる。


 【蒼月】のカインが叫んだ。

 

「に、人間の戦いじゃねえよ……あの嬢ちゃん化け物かよ……!」


 土煙が激しく舞い上がる。


 ヴェルファイアの落ちてきた傍へアルムが寄る。


 煙が晴れる。

 その中から、ヴェルファイアが高密度の魔力を口に集め、咆哮を放った。


『人間如きの決定で、我の命を奪えると思うな! その不敬、死を以って贖え!』


 高温度に達した炎は色を変え、体内で魔力と混ざり紫色になっていた。


(……この技で我は【炎龍王】の四天王入りしたのだ! 一点集中し山を二つも吹き飛ばすほどの高威力! これなら人間と言えども……!)


 アルムに向けて放たれた攻撃は、激しい雷鳴を立てて直撃していた。

 パラパラ……と瓦礫が落ちる。


 静かな声が響いた。


「……アルム様、お怪我はありませんか」

「うん、ありがとう」


 アグニが、手のひらで攻撃を防いでいた。


『なっ……! ば、化け物が……!』


 アルムが前に立つ。


「アルム様? 何を」

「そろそろ俺も魔法を使ってみようと思ってさ。魔力直結もだいぶ安定してきたし」


 俺はアグニと再会しても、すぐに魔法を使うことはできなかった。

 今までずっと離れていた影響で、魔力がすぐに繋がらなかったからだ。


 時間が経ち、ずっと一緒にいたことで少しずつアグニの力が流れ込んできている。


(魔力だけじゃない……戦闘の経験や記憶も少しずつ入ってきている)


 一緒にいることで俺は魔力を取り戻しつつあった。


 炎系限定だけど……十分だ。

 集中しろ。


(数年間、魔法が使えないと虐げられてきた。フィム兄さんの魔法を喰らいながら、俺は耐え抜いたんだ)


 風が吹き荒れる。

 アグニが感動して両手を合わせた。


「アルム様の魔法……!」

 

 アルムは集中しながら、考えていた。


(俺がどこまでのアグニの魔力を扱えるか分からない。最大限の威力で、最も効率よく魔法を放つ)


「【灼滅】」


 太陽の炎とも遜色のない魔法が、瞬く間にヴェルファイアの頭上をぶち抜く。

 

 バゴォォォンッ!!

 

 爆音を立て、雲を突き破る。

 

「流石アルム様……! 山が、三つほど消し飛びました!」


 やけに嬉しそうなアグニとは対照的に、アルムは少し落ち込んでいた。


「……照準が分からなくて外しちゃった」


 自身の後ろにあった山々を見つめ、ヴェルファイアが腰を抜かしていた。


(あ、あんな魔法を我に直撃させるつもりだったのか!? 山を三つ!? 三つも消し飛ばしておるのか!? 我より狂っておるではないか!)

 

「もう一発いけるかな……あ、無理だ。まだこの程度しか使えないのか……」


 ホッとするヴェルファイアは、即座に行動へ移す。


『た、頼む! 我は死にたくないのだ! 人間に危害は加えないと約束する故、見逃してくれぬか!』

 

 アルムがその言葉を聞いて、腕を組んだ。


「うーん……そっか。それならまぁ……」


(約束破ったら、アグニや俺が倒しに行けば良いし。大丈夫か)


 今の戦いで実力差も分かったはずだ。

 うん、ヴェルファイアも凄い涙目で怖がってるし、大丈夫かな。


「ヴェルファイア。見逃してもいいけど、一つ条件がある」

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 山三つ吹き飛ばしたら、山を生活の基盤にしてた人は困るでは済まないわけで…… 主人公の方が明確に害獣だなぁ
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