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23.元冒険者


 雑草ズの徹底的な掃除は、ボロ屋に近かった宿屋を新品同様にしてしまうほどだった。

 天井の隅にあった蜘蛛の巣や、天井裏でも雑草ズにとっては入りやすい場所だ。


 小人のように体が小さいからこそ、掃除が人よりも有利にできる。


 宿屋の女将であるメイおばさんが言う。


「まぁ……! こりゃまた凄い……! 宿が綺麗になってしまった……!」


 色々と昔のことを思い出したようで、優しい眼差しで部屋を眺めていた。

 雑草ズの一体が、俺の裾を引っ張る。


「ん? どうかしたか?」

「あい!」


 一枚の紙を手渡してくる。

 どうやら絵のようで、若い男性が描かれている。


「……誰だろう。あの……すみません、これって……」


 そう言って、メイに声を掛けて絵を渡す。

 

「あ……これは……失くしたと思ってた……」

「旦那さん、ですか?」

「えぇ、そうじゃよ。亡くなった旦那の若い頃の絵じゃ……もう二度と、見ることができないと思っておったのじゃが……」


 僅かに涙ぐんだ様子を見せている。


 雑草ズは部屋の隅から隅まで掃除ができる。

 その過程で絵がきっと見つかったんだ。


「……良かったですね。あ、お礼はこの子に」


 俺に言われたら、気まずくて仕方ない。

 きちんと見つけた人が評価されるべきだ。


 俺の手のひらに雑草ズが乗る。

 メイは目を丸くて、驚いた様子を見せる。 

 

「小さいのに働き者だねぇ」

「あい!」

「可愛いのぉ。ありがとう」

「あ、あい……」


 まるで孫に声を掛けるような様子に、俺は微笑む。

 宿こそボロいものの、メイおばさんの手が届く所は綺麗にされている。


 おそらく、長いこと一人でやってきたのだろう。


「メイさんは、ここをずっと一人で?」

「メイさんだなんて……メイおばさんでも、おばあちゃんでも良いんだよ」


 思わず、驚く。

 お、おばあちゃん……。


 確かにメイさんは老婆のような風貌だけど、血の繋がりがない人におばあちゃんは……でも、俺にはそういう存在が居なかったからなぁ。


 居たら、少しは違ったのだろうか。

 シアンはおばさんって呼んでたけど、俺はおばあちゃんと呼ぶことにした。


「じゃ、じゃあ……メイおばあちゃん」

「ほっほっ、ええそうじゃよ。旦那が数年前に死んでから、ずっと一人でやっておる」

「一人なんて、大変じゃ……」

「旦那が大事にしてきた宿じゃから……私が代わりに守らないと」

 

 皺くちゃになった指を、メイは触っている。手には指輪を嵌めていた。

 結婚指輪……ぽいな、それも大事にしているのだろう。綺麗に磨かれている。


 隣にいるアグニは、それを少し羨ましそうに見ていた。


 シアンが言う。


「あっ、メイおばさんの恋愛とか凄くロマンチックだったんだよ。私も聞いた時は泣いたなぁ……」

「そ、そうなのか……? どんな話なんだ」

 

 予想外にも、アグニがこの手の話に食いついていた。

 恋愛事にはあまり興味が無さそうだと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。


 まぁ、そのことを無神経に聞くことはしないけど。

 そう思っていると、シアンが言う。


「意外、アグニさんってこういう話に興味あるんだ」

「馬鹿にしているのか。私だって恋愛に興味はある。人の心を持っていれば当然のことだ」


 人の心か。

 将来はアグニも人としての幸せを持つことができるのだろうか。

 うん、親的な立場にいる俺が、しっかりと見届けないとな。

 

 感慨深げにアグニを見る。

 

「な、なんですかアルム様……」

「いや、将来はアグニもちゃんと良い人が見つかると良いなって」

「……むっ」


 何やら不満そうに、頬を膨らませる。

 え……一気にアグニの雰囲気が怖くなったんだけど。


 何かダメなことを言ったか!?

 ……もしかして、将来のことを気にしたからか!?


 あー……本で読んだことがある。

 子どもは親に『魔法の勉強をしろ!』や『剣の訓練しろ!』と言われると腹が立ってしまう。


 必要以上に干渉的な言葉も、同様に子どもを腹立たせてしまう原因だ。


 つまり、俺は厄介な親になっている可能性がある。

 

「ご、ごめんアグニ……アグニのことはあんまり干渉しないから……」

「違います! もう」


 さらに機嫌を悪くしたようで、そっぽを向かれてしまう。

 そ、そんな……何が正解だったんだ……。


 若くして、反抗期の娘を持ったような気分になる。

 

「ほっほ! 若いのぉ……さて、掃除のお礼もあるしのぉ。部屋は用意してあるから────」


 突然ガタッ!と音が天井からする。

 何かが落ちたような音だ。


「……またか」


 メイは音の正体を知っているようで、近くにある箒を手に取った。


「追い払って来るからの、少し待ってておくれ」


 そう言って、階段を上って天井に行く。

 何事か理解できず、俺とアグニはキョトンとしていた。


「何事でしょうか……?」

「分かんないけど、慣れた様子だったね。にしても、こんなに温かい宿なのに、人が来ないなんて珍しいこともあるんだね」

「えーっとね……アルム。言おうか悩んでたんだけど……」


 シアンが言い淀んで、俺に教える。


「ここ、王都だとゴースト宿って有名なんだよね……」

「ゴースト……宿?」


 すると天井に続く階段から、半泣きになった数体の雑草ズが帰ってくる。


「あ゛い゛~!!」

「や゛い゛~!!」


 雑草ズが泣いてる……!

 そのまま俺の胸にぴょいっと飛び込んできて、泣きじゃくっている。


「あいあい! あい!」


 ……泣きながら言っているせいで、全く意味が分からない。

 ゆっくりと意図を読み取る。

 

「えぇっと……お化けがでた……?」


 傍で見ていたシアンが、目を輝かせた。


「アルムって雑草ズと会話できるんだ……! 後で教えてもらおう……」


 後でね、と心の中で思う。

 

「アグニ」

「いえ……邪悪な気配は感じませんでしたが……」

 

 ふむ……俺よりも魔力感知や把握は得意なアグニが気配を感じ取れないのなら、敵じゃないのか?

 

「一応俺たちも行った方が……」


 なんであれ、危険な奴ならメイおばあちゃんが心配だ。

 老人に怪我を負わせる訳にはいかない。

 

 シアンが言う。


「それは大丈夫。だって、メイおばさん……」


 そこまでシアンが言うと、大きな音がした。

 バゴンッ! と、音が響いて階段からゴーストが落ちてくる。


 転がったまま、ゴーストが壁に頭を打ち付ける。


「あぎゃ! ふぎゃ! はぎゃっ! 痛っ~!」


 ゴーストがぶつけた頭を手で押さえている。

 メイおばあちゃんは、箒を片手に「ほっほっほ!」と笑っていた。


「メイおばさんは一応、元冒険者だから」


 俺とアグニは、目を見開いた。


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