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2.初の仲間


 マイクロ家の屋敷はかなり広く、徒歩で屋敷を出るだけでも数分は掛った。

 最低限の荷物と、最低限のお金。それだけを持たされ、俺は歩いていた。


 そして、俺を待ち構えるように兄、フィムが立って居た。

 フィムは黒髪で横柄な物言いで喋る。


「アルム。やっと追放を言い渡されたんだろう?」

「フィム兄さん……」


 俺と兄の関係は最悪だった。

 

 俺とは違い、【炎帝】という能力を持っているフィムは炎魔法において王国最強の力を持っていた。


 将来は騎士団長の地位も約束されており、社交場でも名だたる令嬢からお見合いの話が上がるほどだ。


 自分の屋敷だというのに、フィムの背後には数人の取り巻きがいる。


 それに対して、俺の後ろには誰もいない。


 冷遇され、落ちこぼれと揶揄されてきた俺とは対照的な姿だった。


「魔法の才能もないお前が、どうやって外に出て行くというんだ?」


 嫌みったらしくヘラヘラと笑う。

 いつも俺のことを馬鹿にして、下に見る。それもそうだろう、家の中で罵倒できる人間がいるならしたくなる。自分の方が優位であると証明する最も楽な方法だから。


 それに、フィムにとって俺は自分を輝かせる道具なのだろう。


「出て行く前に、もう一回イジメてやるよ」

「……」


 フィムが構える。


 フィムはよく、俺が魔法を使えないことを知るや否や、実力差を自慢するように攻撃魔法をしてきていた。

 それは週に一回の頻度で、俺はいつも怪我を負っていた。


 家族や使用人は誰も助けてくれず、俺の味方はいない。


「フィム兄さん、今はやめておいた方が良いよ」

「なんだ!? 父上が窓から見ている、とでも言うか!? この前だって見ていたが無視していただろう!?」


 ……そうだったのか。

 家庭内でイジメられているのに、知らんぷりか……。


 もうこの家に俺の居場所はないらしい。

 

「これが【炎帝】の魔法だ! 喰らえ!」


 フィムが大きく腕を振るう。


「【炎帝・業火(フィム・ファイア)】!!」


 フィムから弾けでた爆炎が、アルムの目前に迫る。

 取り巻きが叫ぶ。


「出たぞ! 王国最強の炎魔法だ!」

「宮廷の魔法使いでも十人がかりでやっと止められた魔法だろ!? 俺知ってるぜ!」


 ボォッと炎がアルムへ向かう。


 【炎帝・業火(フィム・ファイア)】が直撃する刹那────空から爆炎が落ちる。


 ドゴォォォンッ。


 とてつもない爆音が響き、地面が割れる。


「す、すげぇ……! フィム君すげえよ!」


 フィムが声大きく笑う。


「ふっ……はははっ! 俺はまた強くなってしまったらしい! アルム、お前がいつも俺の魔法を喰らってくれたお陰だ。最後に俺の役に立てて良かったな、アルム」


 フィムは自分の才能に酔いしれ、気付いていなかった。

 【炎帝・業火(フィム・ファイア)】に地面を割るほどの威力はなく、宮廷の魔法使いたちが十人がかりで止めたのは公爵家であるフィムに、名を担がせるためであった。


 実際の威力は、壁に小さな穴を開ける程度の魔法だ。


 つまり、アルムを直撃した爆炎は違う物だった。


「……アルム様」


 女の声が響く。

 煙幕の中から、次第に人影が見え始めた。


 赤髪に、赤いドレスに身を包む胸の大きい女が居た。


「大変長らく、お待たせ致しました」

「……! アグニ……」


 俺は【擬人化】が発現した時、様々な物を擬人化した。


 そんなある日、俺は偶然にも体内にある魔法の属性を擬人化することに成功した。

 能力と魔法は別物なのだ。

 

 そして、万物を擬人化できる俺にとって、魔法も例外ではない。


 俺はすべての魔力を使い、七つの属性を擬人化し、世界へ放った。


「このアグニ、世界の果て『煉獄山(マルタ・ミナ)』より修行を終えて帰ってまいりました」


 フィムが言う。


「なんだお前……どこから入ってきた! ここは俺の屋敷だ! 勝手に入ってくるなんて許さないぞ!」

「……貴様」


 アグニは酷く激高した様子で、アルムを守るように立っている。

 睨まれたフィムが数歩下がる。


「アルム様を炎で攻撃したな……!」

「だ、だからなんだって言うんだ! 俺は【炎帝】フィム様だ! 王国最強の炎魔法使いなんだ!」

「その程度の炎で何を……っ!」

  

 歯を牙のように見せるアグニに、俺は肩を叩く。


「アグニ、数年もの間、修行疲れたよね」

「……っ! アルム様! はい! 邪龍や炎龍とか戦いましたが、頑張って倒してきました!」


 俺は軽く微笑んで頭を撫でると、「くぅ~」とした表情をアグニがする。


 俺の夢は世界最強の魔法使いになることだ。そのために、最適な手段を選んだ。

 自分の魔法を擬人化させ、最果ての地で修行させること。


 俺一人では、できることに限界がある。

 一つの魔法を極めて、果たしてそれが本当に世界最強と呼べるのだろうか。


「擬人化された中で、私が一番最初に帰ってきたようですね……! アルム様の元へ!」


 数年以上も魔法が使えない、という制限があったものの、俺はその間に知恵や勉強をしてきた。


「おい! お前ら、俺を無視してイチャイチャするな! 【炎帝・業火(フィム・ファイア)】」


 俺とアグニの会話を邪魔するフィム。

 俺との数年ぶりの会話に感動していたアグニが、表情を暗くした。


 アグニが手を突き出す。

 

「邪魔は貴様だ。【逆焔】」


 【炎帝・業火(フィム・ファイア)】の何十倍もある炎を突き出す。

 屋敷を覆うほどの炎球に、フィムたちが驚愕する。


「な、なんだよその大きさ……!」

「ば、化け物……!!」

「フィム様何とかしてくださいよ……!」


 だが、あまりの大きさに、既にフィムは気絶していた。


「ふぃ、フィム様ぁぁぁっ!」

「無理だ! に、逃げろ!」


 アグニが言う。


「貴様ら、死を以ってアルム様をイジメた罪を償うがい────っ!?」


 突如、【逆焔】が消滅する。

 隣に立っていたアルムがアグニの肩に手を置いていた。

 

「十分だよ、アグニ。ありがとう」

「い、今なにを……い、いえ! 本当によろしいのですか……?」

「フィム兄さんは気絶しているしね、他の人たちも逃げ出しちゃったよ」

 

 決着は着いた。それに、人を殺すのは主義じゃない。ここまでやれば十分だ。

 そう思い、俺はアグニの先を歩く。


 公爵家を追放されたからと言って、悲観する必要はないんだ。


「行こう、アグニ!」


 世界最強を目指しながら旅してみるのも、凄く楽しそうだし!


 後ろ姿を眺めていたアグニが思う。


(あの一瞬で……【逆焔】が消えた。私はアルム様の魔法。だから主導権が奪われるのは当然だけど……膨大な量の魔力の主導権を握って、瞬時に消すなんて……とんでもない魔力操作が必要なのに)


 アグニが思う。


(一体、魔力がない間にどんな修行を……)


 アルムは魔力がないから弱いと認識していたアグニは、あの一瞬で感じた恐ろしさを思い出す。


「……っ!」


 気が付けば遠ざかっていくアルムを、アグニは追いかけようとする。

 だが、やはりフィムが気に入らず、気絶しているフィムを数発蹴ってから追いかけた。


「待ってください! アルム様~!」


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