19.クライバとの食事
翌日。
エーティア街の領主であるクライバに食事に誘われた俺たちは、豪勢な屋敷の中でご飯を食べていた。
俺も、秘密書庫から借りた本を返すためにちょうど良いと思い快く食卓に着く。
(あの借りた本、付与魔法やら属性魔法について書いてあった。有益ではあるんだけど、肝心の魔女が使っていた魔法の情報はなかったなぁ〜)
「食器の装飾すご……これが伯爵……ゴクリっ」
俺とアグニだけだと寂しいと思い、シアンも誘っていた。
シアンが言う。
「わ、私、貴族の食卓って初めてなんだよね。私なんかも、本当に良いんですか?」
「ええ、是非とも。Aランク冒険者であるシアンさんも、僕の領民だからね。この街を良くしてくれようと努力してる人たちに少しでも恩返しをすることは、領主としての勤めだよ」
へぇ〜、シアンってAランク冒険者なんだ。
まぁ、熟練って感じはそこそこ思ってはいた。
身のこなしや雰囲気としては実力もそこまで弱くないだろう。
比較的楽しい食事なんだけど……老執事のじいがすごい俺のことを見てくるんだけど……。
「アルムくん」
「っ! はい?」
「君、貴族の食事初めてじゃないよね?」
鋭い視線を向けてくるクライバの言葉に、思わず背筋を伸ばした。
しまった────と思う。
フォークの使い方やナフキンの折り方。そういった面での礼儀作法を体に叩き込んでいたからこそ、無意識に動いてしまった。
老執事の視線に気を取られすぎた……。
俺が元公爵家だということは、できる限り隠しておきたい。もしも隣国であるエルドラド王国と戦争とかになった時、下手すると人質とかになるかもしれないし……。
考えすぎかな?
いや……ここは、念には念だ。
「じ、実は本を読んで勉強したんです。クライバ伯爵様に失礼があってはいけませんから」
「そんな気にしなくてもいいのに。でも、僕から見ても、文句のつけようがないくらい完璧なマナーだ。それに……アグニさんも礼儀作法が完璧みたいだけど? どこで習ったの?」
肉を口に含む寸前の、アグニがこちらを見る。
ま、まずい……アグニの知識の中にも、礼儀作法は完璧にマスターされている。
数秒の逡巡、されど、アグニにとっては熟考に値する思考でアグニも悩んだ。
た、頼むアグニ……誤魔化して。
「わ、私は……ほ、本で知ったんだ。そう、アルム様と同じ本だ」
アグニが、本を絶対に読まないことは俺は知っている。
だが、クライバはそれで納得した様子を見せた。
「ほぉ……流石はアルムくんのそばにいる人だね。優秀だ。うん、確かにアルムくんなら礼儀作法が完璧なのも納得だよ」
あ、危ない。
なんとか誤魔化せたことに安堵する。
まさか、こんなことで疑問を持たれるとは思ってもいなかった。
どうすればよかったんだろう、と向かいにいるシアンに目を向ける。
「……えいっ!」
肉を丸ごとフォークで刺して食べていた。
まさか、あれをしろと!?
後でちゃんと、シアンに礼儀作法のマナーを教えてあげよう。
生きていくのに礼儀作法なんかいらないよ、って言われそうな気がするけど……シアンのためだ。
クライバが言う。
「それにしても、本当にアルムくんとアグニさんは家族みたいだね」
「そうでしょうか?」
「うん、髪の色が違うし、顔立ちも全然似てないけど……悩む時の姿勢がそっくりだ」
クライバは他人をよく観察する癖があるらしく、アグニもその対象であったらしい。
アグニの癖……か。悩んでいる時は顎に手を置く癖があるけど。
俺もそうだったんだ。
他人から言われて初めて気づいたことだった。
「……はい。クライバ様の言う通り、俺とアグニに血の繋がりはありません。だけど、家族以上に大事に思ってますよ」
「アルム様……」
感極まった様子で、アグニが眼を輝かせる。
クライバはその言葉を聞いて、ニコリと笑う。
「君たちを見ていると羨ましくなるね。僕の両親は小さい時に亡くなったから、家族に憧れが強いんだ」
そういえば、エーティア家が没落しかけたのはクライバの両親が亡くなったからだ。
馬車で移動中に魔物に襲われたらしく、病で屋敷にいたクライバだけが助かった。
その後、悪徳業者にハメられて財産を大きく失い、エーティア家は破滅の寸前だった。
「幼い頃から苦労ばかりで、頼れる人間も少なかったからね。アルムくんも苦労人に見えちゃって手を差し伸べたくなるんだ。不思議だよな、ははは……」
「……クライバ様、あなたが頑張ってきたからエーティア街の住民は笑顔なんですよ」
「アルムくん、君に言われると凄く嬉しいよ。なんでだろうね?」
ふふっとクライバが笑う。
俺はクライバに対して、強く共感を抱いていた。
小さい頃から家のために頑張って、ようやく信頼と地位を手に入れた。
尽くして報われる。これほど嬉しいことはない。
それに対して俺は……とそこまで考えてやめる。
「でさ、シアンさん。君の頭に乗せてるのはなんだい?」
「あっ、この子ですか? アンズと言って、アルムが作ってくれた相棒なんです」
「あい!」
クライバがあんぐりと口を開く。
「か、可愛い……! ねぇねぇ! その子は何ができるんだい!?」
「えーっと、掃除洗濯、草刈りとか探し物とかもやってくれます! 物凄く優秀で、この子一人いるだけで生活が変わるんです!」
「へぇ! アルムくんが作ったものなんだね! 凄いな!」
「あい!」
褒められたことが嬉しいようで、アンズが短い腕を伸ばした。
メロメロになった様子のクライバは、数秒ほど黙る。
そうして、老執事のじいに視線を向けた。
「……ねぇ、じい。僕もアンズちゃんみたいなのが欲し────」
「ダメです」
「じいのケチ! こんなに可愛いんだよ!?」
アンズの可愛さはじいも理解しているようで、多少たじろいだものの、頑固な意志を変えることはなかった。
「クライバ様、一人の民に肩入れしすぎですぞ。我々は民に対し平等に接するべきです」
「むー……」
それ以上は言えないようで、クライバはため息を漏らして諦めた。
頼まれたら、俺は作るつもりだったが、そういう事情なら仕方ない。
クライバは、手のひらにアンズを乗せて愛でる。
「ふふっ、うちの子にならないかい? お金や食べ物、なんでもあるよ?」
「あい?」
「ちょっとクライバ様! アンズは私の相棒なんです! 誘惑しないでください!」
そうしていると、老執事のじいがクライバに近寄る。
「クライバ様。たった今、王都からの連絡が」
「えぇ……今楽しいところなんだけど」
不満を漏らしながら、上がってきた報告書に目を通す。
「……ごめん、みんな。僕は仕事で王都へ向かうよ」
俺が聞き返す。
「仕事?」
「どうやら、王都に水神が現れたらしいんだ」
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