17.〜フィム視点〜
その日、フィムはマイクロ家の父上との約束を果たしに、エーティア街がある隣国のフェイド国にきていた。
そこで開催される【魔法剣術大会】に、フィムは参加していた。
他の参加者もいる中で、フィムは自信満々に会場を歩く。
自身の後ろに何人もの取り巻きをつけ、外套を羽織らせる。
そして、その場にいた会場の控え室にいる全員に向かって叫んだ。
「俺はマイクロ公爵家次期当主、ベルドラド王国の宮廷魔法使いたちが認めた【炎帝】だ! 凡愚である君たちに、言っておこうと思う」
何事だ、と思い会場の控え室にいた冒険者や荒くれ者、力自慢たちの視線が集まる。
(ふふ……視線が集まっているな。これぞ、俺の輝きに相応しい)
「優勝するのはこのフィム、つまり俺だ。だから、君たちは棄権しておくといい。怪我をしないうちにね」
横柄な物言いに、その場にいた選手がイラッとする。
その中でも、特に図体の大きい男が立ち上がる。
比べてみると何倍もある身長差だが、自分の力を信じて疑わないフィムは腰に手を当てる。
「おいハゲ。俺の前に立つな、邪魔だぞ」
「あぁ……? 俺は【堅牢のファング】だ。最近、結婚したばかりで嫁は俺のスキンヘッドを気に入っている」
彼こそ、【堅牢のファング】で『帰ったら結婚するんだ』と言って死にかけ、アルムが放った三体の精霊によって救われた一人であった。
「趣味の悪い女だな? お前の妻は」
「ガキが舐めた口聞いてんじゃねえぞ……世の中にはな、この大会のために長く訓練してきた奴がいっぱいいるんだ。そういう奴らをリスペクトできねえなら、てめえこそ帰れ」
【魔法剣術大会】は、単純な大会ではなかった。
武を極めた者たちの集まり、そこには選手同士の尊敬や認め合う関係性があった。
ただの荒くれ者が集うだけの大会ではない。武を重んじる人々の大会なのだ。
それを土足で踏み込み、フィムは無視をした。
「ふむっ、馬鹿馬鹿しい。図体だけデカくなっても、強いとは限らないだろ。【炎帝】の力、見せてやるよ」
そうして、試合の組み合わせが発表される。
初戦の発表にはこうあった。
【炎帝・フィム】VS【堅牢のファング】
フィムはこの時、勝った!と確信した。
(ははは! 初戦は余裕じゃないか! あの図体がデカいくせに大口を叩いたハゲを叩きのめしてやる!)
だが、試合が始まって数分後……フィムは【堅牢のファング】に手も足も出せず敗北した。
「お、おい……おめえ、弱すぎじゃねえか……?」




