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15.金髪の男/任務完了


 エーティア街、エーティア伯爵家当主の執務室にて報告が入る。

 隻眼で金髪の男が、上がってきた報告書に目を通す。


 顔を傾け、金髪が揺れる。

 

「へぇ……不治の病と言われている【魔灰水病(ミスリル)】を治した男か。凄いじゃん」


 アルムが完全に【魔灰水病(ミスリル)】を治癒したことは、すぐさまエーティア街に広がっていた。

 病に罹った者たちが、アルムへの感謝を込めて必死に広めていたのだ。


 その事実に、街の住民は驚きでいっぱいだった。


「まさか僕らが手を焼いていた悩みの種を、こうもあっさり解決するなんてね。名前はアルムか、覚えやすくて良いね」


 クライバが乾いた笑い声をあげた。


 もはや、アルムはエーティア街の有名人になりつつあった。

 従者が問いかける。


「クライバ様、いかがいたしましょうか」

「うん? あぁ、まだ王都には報告しないで」

「はい……? それは一体……」

「本当に彼が【魔灰水病】を治癒したかどうか、僕の眼で確かめてから報告するよ」

 

(書類だけの報告で、そのまま上へ流してしまうのはあまりにも勿体ないじゃないか。薄汚い王都の連中らが目を付ける前に……)


 それに、とアルムに関する上がってきた情報に、クライバは目を通す。


「Sランクの【万能草】をタダで渡すこの豪胆さ。本当に彼、何者なんだろうね」


 興味深そうに、微笑む。


 普通じゃ考えられない。だって、一生遊んで暮らせるんだ。

 他人の命と自分の将来、天秤に掛ければ、誰だって自分の将来に傾くさ。


 それが余計にアルムという人物像を想像させづらくした。


「こんな面白そ────ごほんっ、重要なことは足を運ぶべきだろ?」

「素性も知れぬ相手です。ここは慎重に……」

「それなら尚のこと、上へは報告できないね。だろう?」


 物言わせぬ視線に、従者は言葉を返せなくなる。


(報告せずとも、自然と王都へ話は流れていくさ。その前に、彼がどういう人物か知っておきたい)


「ですが……」


 従者が不服そうな顔をしていた。


「じいは堅物すぎるんだよ。どうせ【煉獄山(マルタ・ミナ)】から消えた炎神で王都はこっちに興味なんかないさ!」


(まぁ、僕としては都合が良いけど)


 没落しかけていたエーティア伯爵家を復興させ、若くしてエーティア街の領主となった。

 さらにポーションの流通を安定させ、街の発展に大きく貢献した人物が彼であった。


 俗に街の人々は、クライバのことを【若き天才】と称していた。

 

「座って書類に目を通して終わり、なら誰でも出来るのさ。自分の眼で確かめて知る。それこそ、エーティア家の家訓だろ?」


 クライバ・エーティアが立ち上がり、外套を羽織る。

 どうやら、アルムへ会いに行くらしい。


「まったく……小さい頃から変わりませぬな。せめて、気を付けて行ってらっしゃいませ、クライバ様」

「うん、行ってくるよ。じい」

 

 金髪を揺らしながら、クライバは微笑んでいた。


(面白そうな人、見つけちゃった。どんな奴なんだろうなぁ、アルムって)


 *

 

 あれから【怨水の大魔女(エルダーリッチ)】を討伐したアルムたちは、孤児院へと帰る。

 最後に患者たちの容態を確認し、もう一度、雑草ズに治癒させる。


 そうして数日掛けて様子を見る。


 もちろん数日後になっても、灰色模様が出現することはなかった。


(数日経過したけど、再発の恐れなし。やはり【怨水の大魔女(エルダーリッチ)】が病気の原因だったみたいだ)


 だがどうやって……とアルムは悩む。

 すると、声を掛けられた。

 

「これで……本当に俺らは、死なないのか?」

「えぇ、大丈夫です。魔力を吸い上げていた【怨水の大魔女(エルダーリッチ)】は倒したので、安心してください」


 そう言うと、「おぉぉぉっ!」と感嘆の声が漏れだした。


「お、俺たち治っちまった!」

「誰も治せないって言われてた病気なのに!」

「俺たち死なない! すげぇぇぇっ! やったー!」


 興奮した様子で、彼らはお互いを抱き合っている。

 俺にも抱き着こうとしてきたが、隣にいたアグニの睨みにビビり、やめる。


 一緒になってシアンも喜んでいたが、同時に落ち込んでもいた。


「良かった……病気だった子どもたちも治った……けど、剣がぁ~……」


 シアンがデロデロに溶けた剣を握っている。


「ご、ごめんってば……弁償するから」


 【怨水の大魔女(エルダーリッチ)】の戦闘で使用したシアンの剣は、俺が魔法の依り代に使って溶かしてしまった。


 まさか剣が溶けるとは思わなかった。アグニの火力、恐るべし。


「お気に入りだったのにぃ……こことか、ハートっぽい模様が入ってて可愛かったんだよ~……」

「シアン、あまり泣くな。アルム様のお陰で、魔女は倒せたんだぞ」

「アグニさん……うん、そうだね! アルムのお陰だってすっかり忘れてた! 剣なんかよりも命あってだもんね!」

  

 切り替えの早いシアンが、鼻を鳴らす。


「……【万能草】のこともあるし、ここにいるみんなもアルムが救ってくれた。どうお返しすればいいか、もう分かんないや、アハハ……」


 そう言って、シアンは微笑んでいる。


 俺としては、当然のことをしたまでだと思っている。仮にも俺だって元は公爵家で、そこで暮らす人々を見ていた。


 辛い思いをしないように、少しでも暮らしている人々を助けてあげようとするのは、領主のような考え方なのだろうか。

 

 楽しければ分け与え、辛ければ一緒に背負う。


 そういう、最強の魔法使いを目指すとは言いながら、たぶん……凄く遠回りな生き方だろうけど。

 俺は好きな生き方だ。


 シアンが言う。


「今日はアルムへの感謝と病気が治ったことを祝して、腕を振るって宴にするよ~!」


 患者たちが手を突きあげる。


「「「おぉ~!!」」」



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