13.研究
俺の魔力を分け与えたことで、元気を取り戻した患者が言う。
「す……すげえ~! この誰にも使われず、何十年も汚かった孤児院が綺麗になった!」
「あの小さいのがやったらしいぞ!」
指をさされ、雑草ズが顔を赤くして照れる。
「あ、あい……」
「うおおお! うちに来ない!?」
「マジで一家に一人欲しいぜ!」
「可愛い!」
……なんか、狂信的な熱さを感じる。
怖いから関わらないでおこう。
俺が開発した魔法の中に、【魔力解析】というものがある。
これは対象の魔力数値や魔力性質を測るというものだ。
魔力消費はなんと驚異のほぼゼロだ。
(まぁ、ただ見るだけの物だからね)
研究では大いに役に立つ魔法で、愛用している。
「【魔力解析】」
【魔灰水病】に罹った人間を検査する。
「アルム様、どうですか?」
「……魔力の流れは正常だけど、なんか変だ」
「変、というのは……?」
なんと表現したものか、と悩む。
しばらく悩んだのち、こう答えた。
「うーん……穴の開いた袋にずっと空気を送り込んでる感じかな」
その穴が大きくなればなるほど、病の速度も上がる。
かと言って、それによって育っている生物が居る訳でもない。
体内の中で虫が育っているのではないか、という恐ろしい想像をしていたのだけど、違うようだ。
魔力の流れ……これが問題だ。
(まるで、どこかに魔力を供給してるみたいな……そんな動きを感じる)
死ぬまで魔力を吸い取るなんて、悪徳業者にも程がある。
「アグニ、ちょっと魔力貸してね」
「はい!」
いちいち許可を取らなくても良いんだろうけど、やはり自分のものという感覚がない。
アグニはアグニだ。一人の人間として扱っている。
それに、魔力を貸してと聞くたびにアグニが喜ぶんだ。
「さてと……いくらでも魔力を喰え、【追跡】」
俺の魔力を流し込む。
その映像が脳裏に現れた。
(……この場所から、エーティア街を抜けて……山のその奥……ここか)
映像が見えた。
俺たちが最初に薬草採取をした近くの山だ。
そこにある池の奥深くに、流れ込んでいる。
「……なるほど。シアン!」
「はいはーい! なに? どうかした?」
孤児院で元気になった患者たちを看病していたシアンが、洗濯物を抱えながら顔を出す。
俺はシアンのおでこを、人差し指で叩く。
「ん? おぉ! なんか頭の中に映像が出てくる!」
「俺がさっき見た光景。魔力に光景を記憶させて、シアンの中に流した。ここに行くよ」
「うんうん! もう一回やって!」
……ツン。
「おぉ! おぉぉぉっ! 凄い! もう一回!」
面白い感覚のようで、シアンは何度もせがんで来る。
……全然飽きないね、シアン。
*
おでこに真っ赤な点を作りながら、シアンは俺たちの横を歩いていた。
到着した先はもちろん、さきほど見た魔力が流れて来ている所だ。
シアンが言う。
「でも、足軽山に原因があるなんて知らなかった」
エーティア街では、そこは足軽山と呼ばれているらしく、冒険者の間でもあまり近寄られない場所なのだとか。
「おそらく、だよ。何が魔力を吸収してるのか知らないけど、元凶を叩き潰せば、あとは治癒するだけだ」
問題の場所に到着した俺たちは、池の中を覗き込む。
魔力の流れも外からだと違和感を覚えない。
でも、脳裏で見た映像は間違いなくここだ。
「アルム~、この池は別に対して問題なさそうだけど」
シアンはその場にしゃがみ、池に指を入れる。
冷たいようで、「冷たっ!」とひっこめた。
「アルム様、いっそのこと池ごと蒸発させてみましょうか?」
「いや……それはやり過ぎ」
「むー……」
不服そうにアグニが、頬を膨らませた。
最終手段ということにしておこうね。
でも、変だ。
頬に吹きつける風を冷たく感じながら、ふと思う。
(……魔物や動物の気配が感じない。妙に静かなのもおかしい)
ポツン、と雫がシアンの頬に落ちる。
「あれ……雨?」
そう言って、シアンが顔を挙げた刹那────。
「ッ!?」
スパッ────。
時が止まり、音が消えた。
鋭い一閃が、周囲を蹴散らしていた。
木々に囲まれていたはずなのに、一気に視界が開ける。
池を中心に、まるで巨大な鎌を振り回したような跡が出来上がっていた。
(ここら辺一帯の木は全部斬られたな)
冷静にアルムが状況を判断した。
土煙が舞っている中で、俺はシアンに声を掛ける。
「大丈夫か、シアン」
「……っ、へ?」
何が起こったかあまり理解できていないシアンが、尻餅をついていた。
(俺が咄嗟に引っ張ってなかったら危なかったな)
「アルム様、お怪我は?」
「俺はないよ、ありがとう」
一瞬の魔力の揺らぎ。
それがなければ、今頃シアンの頸は真っ二つだろう。
シアンの気が緩んだ瞬間を狙って来た。
雨なんか降っちゃいない。空は快晴も良い所だ。
わざと、雫をシアンの頬に落とした。
その隙に、鋭利な斬撃を広範囲に放ってきた。
知性のある……敵だ。
シアンが思う。
(たった一瞬……気を抜いた瞬間に、何が起きたのか分からなかった。もしもアルムが私のことを助けてくれなかったら……死んでた……)
そして、シアンは青ざめる。
先ほどまで、何もいなかったはずの池の水面に……鎌を持ち、首の折れた魔女が佇んでいた。
「嘘……でしょ……【怨水の大魔女】だ」
リッチか。
確か魔物図鑑によれば、何年も魔物の怨念や自然の憎しみを吸収し、ようやく生まれる魔物だ。
討伐難易度もかなり高く、遭遇する確率は低い。
でも、シアンの言葉から察するに、ただのリッチではなさそうだな……。
「カ……カカカ……ヒヒッ! ハズシタ」
俺は静かに、魔女を見据えた。




