1.追放
マイクロ家は公爵家の家系だ。
王族の血筋を引いている俺の家系は、必ず特殊な能力を持って生まれた。
その日、執務室に呼び出された俺は父に告げられる。
「正式な手続きが済んだ。アルム・マイクロ。今日をもって、お前を我が家から追放する」
気だるげそうに言う父に、俺ことアルムは小さく俯いた。
拳を握る。
王家の血筋を持ちながら、魔法の才能もなく、俺は誰からも理解されない能力を持っている。
「アルム、私は大きく期待していたのだ。それを裏切り、失望させた罪は重いのだぞ!」
「話を聞いてください! 何度も説明はしたはずです。『今は魔法が使えない』と、魔法を擬────」
「ええい! 黙れ! その説明は聞き飽きたわ! そうやって、無能を曝け出すな! この恥晒しが!」
いくら取り繕うとするも、父は聞く耳を持とうとはしなかった。
俺は幼少期、【擬人化】が発現した。
その能力は、触れた物や概念に人の言語と知恵を与えるというものだった。
だが、俺の魔力や知恵によって知能が変わってしまう特性があった。
持っている能力がなんであれ、使い方次第ではきっと役に立つと信じているし、俺は将来、父の誇りになりたいと思っていた。
それに、俺はこのマイクロ家でかなり働いている。
「【擬人化】した草や石たちは、庭の手入れや屋敷の掃除に活躍してくれています。俺の能力だって、使いようによっては……」
「それで、私が大事にしていた壺を割ったのか?」
俺は言葉に詰まる。
俺の追放が決定的になったのは、父上が大事にしている壺を俺が割ったと言われたからだ。
だが、そんなことは記憶になく、俺がやるはずがない。
「俺じゃありません!」
「お前の兄、フィムがそう言ったのだ。それに雑用など使用人でも雇えば済む話ではないか。お前に居場所を与えてやっているのだ。この広い屋敷の全ての雑用をするのは当然のことだ!」
確かに、その通りだ。
俺のやってきた仕事に代わりは存在する。
マイクロ公爵家の広さは使用人100人居て、四日で掃除が終わるかどうかだ。
俺はそれを一日で終わらせることができる。
本当に俺は要らない子なのか……?
「……父上、俺が小さい頃に言った約束を覚えてますか」
「はっ、子どもの戯言など忘れたわ」
唾を吐き捨てるように言う父に、俺は言う。
「……最強の魔法使いになる、です。そのために、ひたすら努力をしてきました」
父上が唯一、その言葉を聞いて喜んでくれた。
だから目指そうと思った。
「どうか、もう一度待ってくれませんか……? 必ず、必ず父上の期待に応えて見せます……」
マイクロ公爵家という名に恥を欠かせぬよう、死に物狂いで本や勉強を重ねた。
父や家族からも信じてもらえず、追い出される。
そんなのはあんまりだ。
「ふんっ図々しい餓鬼だな。我が子ながら恥ずかしい。即刻出て行くが良い。アルム・マイクロ。いや、ただのアルムか」
付け加え、父上が言う。
「お前の夢なぞ、叶う筈もないだろう。現実を見ろ、この無能が」
*
俺はそれから、家を出るための準備をする。
手に持っていた雑草を握る。
そうして、唱えた。
「【擬人化】」
今の俺は魔力がほぼなく、ゼロに等しい量しかない。
幼少期に魔力のほとんどを使った後遺症に、魔力が回復しなくなっていた。
「あい~!」
光に包まれ、手のひらサイズの小さな生き物が現れる。
俺は雑草を【擬人化】した。
「ごめんな……今の魔力じゃ、一体しか作れないんだ。一体じゃ大変だろうけど、屋敷の雑草たちに『自由に暮らせ』って伝えに言ってくれ」
「あい……? あい!」
【擬人化】した雑草がスタタ……と走り去っていく。
彼らは、俺の言うことを聞いてくれる。
せめて、これまでの苦労を考えると自由にさせてやるべきだろう。
たくさん仕事して、頑張ったもんな……。




