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しらぬひシリーズ  作者: なにがし
2/3

sss part1「五鈴と島田の恋愛事情」

episode1「丁半ばくち(前編)」に出てくる五鈴と島田の小話。

本編は次話。


どうやら島田には好いたおなごがいるようで、五鈴はいつものように煮売り屋(居酒屋)で相談を受けているが・・・・・・


「お前、あの人と別れたというじゃないか」

 惣菜が多く並べられた煮売り屋で、家に買って帰る女もいれば、店に備えられた横長の腰掛け台に居座り、その場で買った惣菜をつまんで酒をかわす男達が数組いた。

 五鈴と仕事を終えた島田は、行きつけの煮売り屋でいつものように冷酒を頼む。

「何だねえ、あなたまであたしをなじるんですか」

 給仕女が足早にあちらこちらへ駆けまわり、店奥にある四畳半ほどの座敷にいる大工の飲みっぷりにあくせくしていた。

「まだ何も言ってないだろうが」

「そうですけどねえ」

 ちびり、五鈴はおちょこを口にあてる。

 なまじ顔の広い五鈴は、なんやかんやと構ってくる人間が多い。それも今回はここらで噂になるほどの美人な後家さんである。

 四条通りにある扇子問屋に嫁ぎ、何不自由ない生活から一変して大旦那が亡くなりどうなるかと噂になったが、倅が育つまでの間は、番頭が切り盛りする運びとなったらしい。

「泣かせたんじゃないだろうな」

「あたしが振られたんですよ」

「だから、悲しませるようなことをしたから振られたんじゃないのか」

 島田は大真面目な顔で、五鈴に問う。その真剣なまなざしに五鈴はため息を隠さない。

「そんなに気になるなら、ご本人に聞いたら良いじゃないですか」

「そんな不躾なことをできるか」

 ああ、面倒くさい。

 そこに店主の男が煮豆と刻みするめを持ってきた。

「俺も気になるね、あの後家さんがどう男を袖にするのか」

「煮売り屋さん、あなたね」

「そうだろう、心配だ」

 賭場仲間の煮売り屋は、にやにやと人を揶揄う色を隠しもせずにいる。島田は協力者を得たと大きく頷き、空いた五鈴のおちょこに酒を注ぐ。どうせ島田にいらぬ知恵を与えたのはこの店主なのだ。

「人の色恋よりも自分はどうなんですか」

「俺はそんな浮っついた男ではない」

「なら、なおさらあの人を慰めてあげたらいいじゃないですかねえ、話を聞いておやりなさいよ。あたしのような浮ついた、賭場を住処にするような男に懲りたんだ、あたなが適任ですよ」

 そう一息に言えば、島田は口をまごつかせて何やら要領を得ない。

 煮売り屋が笑って島田の肩を叩き去っていくと、奥にいた大工の一人が向かいの床几にどかりと座った。

「そうだぜ島ちゃん、おめえさんが支えてやれよ」

「吉五郎さん、そんな俺は・・・・・・」

 大工の吉五郎をきっかけに、周りにいた顔見知りがやんやと口出ししてくる。

 昼の仕事が終わり、日が暮れる前の時間帯は人の出入りが多い。夜になれば家族のいる男は帰るし、浪人が増えてくるため町人達は気持ち避ける傾向にある。もちろん気にせず飲む人間もある。ただやはり、こういった身内の話題は周りに顔見知りが多いときがしやすい。

「五鈴、それで一体どうなんだ」

「さあてねえ・・・・・・——それはそれは朝露に負けない、憂い顔がお綺麗でしたねえ」

 五鈴は件の朝を思い出し、多いにその場を沸かせたのであった。




島田は不器用な男なのです。

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