プロローグ 幼い頃の記憶
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真っ白なノートに絵を描いた。
自分たちが望む理想の世界。
この先、たどり着けるはずだと信じた未来。
「できたね!モカちゃん」
「うん!これでようやく完成だね、リゼちゃん」
二人の少女は目を輝かせながら、作った『絵本』の出来栄えを再確認する。
「モカちゃんはやっぱり絵が上手だよね!将来はきっとすごい絵本作家になれるよ」
「リゼちゃんは物知りだよね!これ作るときも色々教えてもらったし。リゼちゃんがいなかったらこんなの作れなかったよ」
お互いのことを褒め合っては、照れくさそうに笑い合う。
この絵本の制作は二人の共同作業。リゼがアイデアを出し、モカがそれを絵に表現する。
力を合わせて、二人の少女は理想の世界を小さなノートに作り上げた。
たったそれだけのことで、とてつもない全能感に包まれた。
『世界は自分たちの望むままだ』と、勘違いできるほどに。
ひと通り絵本を眺めた後、ある大切なものが抜け落ちていることに気づいた。
「モカちゃん。この絵本、タイトルがないよ」
「ホントだ! 描くのに夢中ですっかり忘れてた!」
二人で頭を悩ませる。
ようやく完成した絵本に、とびっきり素敵な名前をつけてあげたい。
「なんか良い名前ないかな〜」
「そういえばね。この前読んだ本でね。幸せな世界のことを『アルカディア』って呼んでたよ」
「『アルカディア』。素敵な名前! さすがリゼちゃん。この本にピッタリかも!」
「えへへ。じゃあタイトルは『アルカディア』にする?」
モカはうーんと少し考え込んだ後に、パッと顔を上げて、今思いついたとっておきのアイディアをリゼに伝える。
「私たち二人とも名字が『クオン』だから……『クオンのアルカディア』にしよう!」
だってこれは、二人で作った世界だから。
そのモカの提案に、リゼは笑顔でうんと頷く。
「いつかこの絵本のような世界に、私たちも行けるのかな?」
リゼは期待に満ちた目で、モカにそう問いかける。
「うん……! きっと行ける! いつか二人で行こう。私たち二人の『アルカディア』に」
まだ幼く、純粋でいられた頃の記憶。
あの時は、この世は素晴らしいものだって盲信することができていた。
二人の望んだ世界は必ずどこかにあると期待していた。
何も知らず、無邪気に。
中学一年生の夏、『久園望叶』は死んだ。
死因は自殺だった。