第8話 イルナ森にて
ランプさんの案内に従って、私達はイルナ森を進んでいる。
「この道は人族が作った道でせが……妙でせ。」
普段から村の人もよく出入りをしているから、トレント様へと続く道はある程度整備されていて歩きやすい。
しかし、ランプさんは異常を感じているようだ。
「森が静かすぎるでせ。魔族が顔を見せても良いはずでせが……一応警戒するでせ。」
ランプさんが慎重に私達の前を進む。
相変わらず警戒ってどうやるかわからないけど、私もとりあえず森を見回しながら歩いた。
ランプさんは私とタガメにも警戒しているのか、少しだけ距離を取りながら進んでいる。
「キミはどう思う〜?」
「この世界の普通はわからないけど、私のいた世界だとセミの鳴き声とかは聞こえたと思う。」
「まだ言ってるでせか……。」
ランプさんは呆れた顔をした。
異世界から来た話が相当信じられないのだろう。
どうしたら信じてくれるんだろう?
「私でも出来ることがあったら言ってねって……わっ!!!」
「お前は肥料を運ぶのに集中するでせ……。」
小石に躓いて倒れた私にランプさんが溜息を吐いた。
肥料がこぼれちゃったかと心配したけど、大丈夫そうだった。
一応心配してくれるあたり、ランプさんはツンデレなだけで根は良い魔族だと思う。
「止まるでせ!」
ランプさんが忠告してすぐ、森の茂みからごそごそと音が聞こえてきた。
そこから、傷ついた狼が現れた。
その狼は姿を現すなりこちらに向かって吠えて、威嚇する。
私達に帰れと言ってるようで、凄く怖い。
「待つでせ。おいらは魔王様の側近のランプでせ! 族長に伝えるでせ!」
ランプさんが慌てて狼に話すと、傷ついた狼は遠吠えをする。
すると、数多の足音がこちらに近づいて来た。
四方八方から狼が近づいてきて、囲まれた後、他の狼よりも体が一回り大きく角が生えた一頭が私達の前に出る。
「ランプ様、同胞が失礼しました。ヴォルフ族族長のヴォルフです。」
「しゃ……喋れるの!! 凄い! 異世界凄い!!」
「ランプ様……この者は?」
「こいつはほっといて状況を聞かせるでせ。」
しゃべる狼を見て驚く私にランプさんが呆れた目を向けてくる。
ヴォルフさんも私に困惑しているみたい。
失礼なことしちゃったのかな……。
「はい。我らの同胞の多くが殺され、一部のものは怒り猛っています。先程も同胞が失礼いたしました。」
「気にするなでせ。勇者イワオと戦ってみてどうだったでせ?」
勇者イワオは魔族にまで手を出していたの!?
知らない情報に思わず声が出そうになるけど、話を妨げると余計ランプさんに信用してもらえなくなりそうで、私は口をつぐんだ。
タガメもランプさんとヴォルフさんの話を黙って聞いているみたいだ。
「報告いたしましたとおり、勇者イワオは魔族の可能性があります。まず、こちらの動きを読んでいるかのように戦います。勘が当たったというには当たりすぎているという印象でした。また、これは勘違いかもしれませんが、魔族を殺すほどその力が強くなっている様に感じました。」
「わかったでせ。協力感謝するでせ。」
「ここから先は、我も同行いたします。」
ランプさんとヴォルフさんの話が終わると、ヴォルフさん以外は森の中へと戻っていった。
明らかにランプさんの方が弱そうだけど、魔族の社会は力が強いものに権力があるってわけじゃなさそう。
さっきは怖かったけど、よく見ると可愛くてちょっと撫でてみたけど、尻尾は振ってくれてない。
「何してるでせ?」
「撫でたら喜ぶかなって。」
「多分失礼でせ!!」
「え!? ご……ごめんなさい!」
ランプさんに怒られてヴォルフさんに謝ると、そんなことはないと言うかのように尻尾を振ってくれた。
実は嬉しかったのかな?
そうして、私達のペースに合わせるようにヴォルフさんは歩いてくれたけど、ランプさんと私の距離はさっきより離れた。
「そんなに離れなくても……。」
「近づくなでせ! お前と行くのは嫌な予感しかしないでせ!!」
「キミは面白いね〜。」
ランプさんの信用は無くなってしまった……。
落ち込む私をタガメは笑っている。
うー、だって人には嫌われてたけど、動物には懐かれる方だったんだもん。
動物を撫でている時は私の癒しの時間だったんだもん。
そんな私達に見向きもせず、ヴォルフさんは先頭を歩く。
しばらく歩いていると、森の中でも一際目立つ巨木、トレント様の元に私達はたどり着いた。