第82話 ペルシャvsデウス
「待って、ペルシャ!」
ふらつくペルシャを呼び止めたけど、ペルシャは立ち止まらずに闘技場に向かっていく。
「こころちゃんは気づいてるかもだけど……ペルシャはね。将軍は本当は四じゃなくて三なんだ。三魔将が本当なの……。」
今も苦しそうに壁に体を寄せながら歩くペルシャ。
それでも黄色の瞳は会場を見据えている。
「ペルシャ……。」
「ペルシャの目、赤くないでしょ?」
ペルシャの言葉の意味はなんとなくわかった。
ペルシャ以外の四魔将はみんな目が赤かった。
私でも何となく想像は付いていた。
「ペルシャは魔王様の優しさに取り入って、四魔将だって勝手に名乗っただけ。三魔将にはちゃんと認められてなかったの。」
ペルシャが倒れる。
腕に力を振り絞って弱々しく立ち上がるとふらふらになりながらもまた歩きだす。
こんな状態じゃ戦うのも難しいのに。
「どうして……。」
「ペルシャが魔族を信じられなくなったのはデウスのせいなの。ペルシャはデウスに見限られてから、色んな魔族に騙されちゃった。」
デウスさんに震えていたのはペルシャのトラウマ。
ふらついているからか、恐れているからかわからないけど、今も震えている。
「こころちゃんには隠してたんだけど、戦うのはペルシャも怖いよ。でも、決着を付けないと。ちゃんと四魔将って認められたいの。友達として、ううん、親友としてペルシャを支えて欲しいな。」
苦しそうにしながらもペルシャは私に微笑みかける。
「ずるい……。ずるいよ……。そんなこと言われたら、止められないよ……。」
「ごめんね。ありがとう、こころちゃん……。」
ペルシャの腕を肩に回す。
こんなにも細い腕なのに、私の肩を掴むのも出来ないのに。
ペルシャと歩幅を合わせて闘技場に向かうと、闘技場ではケンドさんとデウスの勝敗が決していた。
「まぁまぁ楽しめたぜ! オメエはそこそこやるから生かしておいてやるよ。」
全身に傷を負ったケンドさんがデウスに胸ぐらをつかまれ持ち上げられていた。
デウスの腕には小さな切り傷が付いていたけど、それ以外はピンピンしている。
「これで雑魚は片付いたか。さぁ、ベルゼルート……。」
会場がデウスさんに呼応するように熱気に包まれていた。
今まで魔王城で感じたことのない熱狂。
きっと、私が来る前の魔族はこんな感じだったんだと思う。
力が全てで、力を称賛して、敗者の想いすら無視して結果を求め続ける。
「ペルシャちゃん、参上! デウスの相手は四魔将、ケルト族族長のペルシャだよ。」
ペルシャが闘技場の舞台に立つと、弱々しくも立ち上がった。
ペルシャファンのみんなから歓声が上がるけど、少しだけ動揺してる。
「ああん!? パスパス。」
デウスさんがペルシャを追いやるように手をふる。
それに反応せず、ペルシャは構えた。
「何だよ? たまにいるんだよな。三を四に変えようとするやつ。帰れ。」
デウスが興味がないようにペルシャを見もせず、魔王様に顔を向けている。
「……あなただけは許さない!」
顔を歪ませながらペルシャがデウスに襲いかかった。
「俺がオメエに何かしたか? 雑魚のことは覚えちゃいねぇんだよ。」
ペルシャの突進を軽くいなすデウス。
デウスは興味なさそうな表情で、知らない素振りを見せている。
「あなたは覚えていなくても!! 私は覚えてる!」
「ああ? 知らねぇところで恨みでも買ったか?」
デウスが仕方なさそうに剣を構える。
ペルシャがそれに向かう。
剣を避けながら反撃の機会をペルシャが伺っているけど、いつものようなキレがない。
魔術を使おうとすらしていない。
いや、出来ないんだ。
ペルシャの単調な攻めを読んだかのようにデウスがペルシャを掴むと地面に叩きつけた。
ペルシャは叩きつけられた苦痛で顔を歪ませるが、腕を爪でひっかき、急いで離脱をした。
興味がなさそうに腕からにじみ出る血を一舐めしたデウスは突然目を見開いた。
「めんどくせぇ。お、良いこと思いついたぜ!」
抱えていた大剣を腰に構え、柄にそっと手を添える。
燕返しの構えだ。
ペルシャは様子を見るでもなくそのまま攻める。
いつものペルシャなら様子を見るはずなのに……。
目にも留まらぬ剣撃がペルシャを襲う。
一撃目を上手く避けたペルシャだけど、二撃目に腕を斬られた。
「結構良いじゃねぇか。」
「ホーリーブレス!」
苦痛に顔を歪めながらもペルシャは、わずかな魔力で腕を治療する。
「おうおうおうおう! 斬りたい放題じゃねぇか!! 木人形みてぇだな、オメェ。」
自身の腕を魔術で治すも、止まらぬ燕返しにペルシャの体は切り刻まれ続ける。
デウスの顔が玩具を見つけた子どものような純粋な顔になる。
ペルシャは苦しそうに何とか回復しながら立ち回ってるけど、デウスは晴れやかな顔になっていく。
「完璧に極めたぜ! 燕回帰!」
デウスさんの言葉を合図に突如浮かび上がった斬撃が一斉にペルシャを襲う。
防戦一方だったペルシャに防ぐ術はなく、全身を切り刻まれ、地面に倒れ伏せた。
「魔術なんざ使わなくても出来んだよ! 魔術に頼る時点で三流ってやつよ!」
デウスが立ち上がれないペルシャにゆっくりと近づき、首根っこを掴む。
足掻くペルシャだが、引き剥がせない。
「オメエはただの雑魚だな。」
デウスはため息をつく。
ペルシャから顔を少し背けたその隙きをペルシャは見逃さなかった。
「テンペルト!」
吹き荒れる球体状の風がデウスをペルシャ毎包み込む。
ペルシャは辛うじて腕を引き剥がし逃れていた。
「満足かぁ〜。」
そのペルシャの後ろにデウスは立っていた。
傷一つ無い。
「お、また良いこと思いついたぜ! 自分が四魔将じゃないってここで言え! そしたら三に戻るぜ! 俺は天才だな!!」
観衆がペルシャの弱さにがっかりするように、ケンドより弱かったとか、スルドの方がまだ良い戦いをしていたと罵詈雑言を浴びせる。
すると、勝手に四魔将を名乗るなと物が会場に飛ぶ。
ペルシャの親衛隊のみんながペルシャ様は四魔将だって叫ぶけど、会場の極一部でしか無い。
「ゲヒャヒャヒャ!! 本当は誰も認めてねぇみてぇだな!! 二度と名乗るんじゃねぇ!!」
その反応に快感を覚えたようにデウスが豪快に笑う。
それでも、ペルシャの目はまだ諦めていない。
「ペルシャは………四魔将!」
「うぜぇ!」
掴んだペルシャを叩きつけ、目にも止まらぬ乱打をした。
意識を失ったデウスがペルシャを場外へと放り投げる。
急いでペルシャを受け止めると、ペルシャは虫の息だった。
傷だらけの手足に今も苦しそうな呼吸音。
初めて抱えたペルシャは軽かった。
こんなにもやっとな状態なのに、ペルシャの心臓の鼓動は諦めていないかのように高鳴ってる。
目を頑張って開こうと、もがいている。
デウスは声援を浴びるように両手を広げてる。
会場からは「いいぞデウス!!」とか「殺せ!!」というコールが流れてる。
やっぱり、これが本来の魔族の世界……。
それならもう……我慢の限界だ。
「あん!? 何だよ。雑魚が水を差すな。ああ、そういや、オメェも勝手にエレーナの妹を名乗ってるやつだったな。」
「いい加減にしろ……。」
「ああん!?」
「これ以上私の大切な人達を傷つけるな!! デウス!!!」
こいつは絶対に許してはいけない!
私の大切な人達を傷つけるこいつだけは!
「お前は私が倒す!! 絶対に許さない!!!」
「面だけは一人前だなぁ。」
ペルシャを外に運び込んで、赤黒く薄気味悪く笑うデウスの目を見据えた。
デウスを称える耳障りな声援が聞こえる。
「ごめんタガメ……。死ぬつもりは無いけど、命を懸けるね。」
タガメの破片が入った袋を握り、私は舞台に立った。




