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第6話 魔王は様子をうかがっている

 魔王は困惑した。自身の存在に気づき振り返った異世界から来たという女が、地面に頭と手足を付け身を丸くしている姿に。

 刹那の間にその態勢を作った女はただならぬ雰囲気を漂わせた。

 その上に照れたとも呆れたとも取れる表情のタガメと名乗る精霊がこちらに愛想笑いをしてきた。


「そなたは、何をしているのだ?」


「土下座でございます。」


「土下座?」


 土下座……。

 聞き慣れない単語だ。

 異世界からやってきたと言う女特有の風習なのだろう。

 オルハート殿もその独特の風習には驚いたと言っていた。

 土下座と呼ばれる風習の無い魔族には、今の体勢が何を表しているのかはわからない。

 しかし、敵意は無いようだ。


「土下座とは何だ?」


「え?……えっと……最大級の謝罪に……ございます、です。」


「謝罪? そなたは余に何かしたのか?」


 先程絵に書いたように緊張していた女が意外な言葉を発する。

 思い返すが、謝罪されるような事をされた心当たりが全くない。

 女とは初対面であり、それ以前に会ったことも記憶にはない。

 反魔王勢力の可能性は否めないが、敵意のなさから、その可能性は極めて薄い。


「まずは面をあげよ。」


「私の様な惨めで卑しいクズでゴミで常識も知らない燃えるゴミめが、魔王様の顔をお目見えになるなど、不敬に当たります。」


 自身を過剰に卑下する不思議な女だ。

 エレーナも時々よくわからない妄想を抱いたり、行動を起こすことはあるが、この女はそれ以上にわからない。

 先程から、何がありこのようになったのか……。

 バルト族の側近ランプの顔を見やるが、顔をかしげ疑問を浮かべている。

 魔族の中で最も情報通であるランプもこの女は知らなかった。


「この子はキミを魔王だとは思わずに〜魔族って聞いたのが不敬罪になるんじゃないか? って謝ってるんだよ〜。」


 精霊は呆れた顔をこちらに向けていたが、その顔は恐らくこの地面にうつぶせになって倒れている女に向けたもの……。

 何故体勢が変わっているのだ!!?

 だが、余を知らなかったことが罪になると思い、あの様になったと。


「そなたの言い分はわかった。そんなことでは罪にはならん。面をあげよ。」


「許してくれるんですか!? やったー! あ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。」


 感情の起伏が激しい女だ。

 恐らく許されたことを嬉しく思ったのを反省していないと捉えられるんじゃないかと謝罪しているのだろう。

 許してつけあがるものは多いのだが、この様にすぐに謝罪するものは魔族には少ない。


「敬語は使わなくとも良い。気軽に話せ。」


「う! 私の敬語下手ですか……? それは不敬罪になるのではないでしょうか?」


「そなたが余をどう捉えているのかわからぬが、余は不敬罪で魔族を処罰したことはない。」


 手に付いた土を払うと、女は自身の手と額についた土をはらいながら小声で、敬語の勉強ちゃんとしておけばよかったと呟いている。

 聞こえてないと思っているのだろうか?

 不思議な女だが、どこか愛嬌のようなものを感じる。

 何故か気に入ってしまう不思議な魅力がある。


「あのー……私に何か用ですか?」


「いや、そなたらのことが気になってな。余は魔族の王ベルゼルートだ。」


「私は小鳥遊こころです。」


「小鳥遊こころか……。変わった名だな。」


「私の世界では別にいない名前では無いって感じで……。」


「ほう。そなたの世界の話、聞かせてもらえるか?」


 異世界から来たという話。

 信じ難いが先程からの態度から察するに恐らく真実なのだろう。

 嘘を見抜けるランプも小鳥遊こころの話には反応していない。

 もし、真実であるならば、是非とも詳しい話を聞きたい……いや、聞かねばならぬ。

 

「は、はい! でも……その……あの……。」


「何だ?」


「私からも良いですか? 魔王様は私と同じ色の目をしているんですけど、私に心当たりとかありますか?」


「残念ながら無い。しかし、それは余も気にはなっていた。この世界においてそなたの様な赤色の瞳を持つものは魔族でも上位に位置する。しかし、余はそなたを知らぬ。そなたが魔族と人族の間に産まれた子ならば納得だが、その様な話は聞いたことがない。」


「そうですか……。」


 小鳥遊こころと名乗る女が安心したかのような寂しいかのような表情をみせる。

 きっとそこに彼女の目的があるのだろう。

 自身の出生を探しているのであろうか?


「一度、余の城に来るか? そなたの事を知っている魔族に会えるかもしれぬぞ。」


「城ってことは……魔王様のお城!? 魔王城!!??」


「魔王様! それはダメでせ! まだ信用できるかどうかが決まったわけではないでせ!」


「折角のお誘いですが……私も村長さんにお礼をしてからにしたいな〜っとか思っていまして。」


「折角魔王様が提案してくださったのに、不敬でせ!」


「うっ! やっぱり不敬罪があるんじゃ……。」


「ランプ! 慎め!!」


 やはり疑り深いランプは未だに警戒している。

 この状態では異世界の話を聞き出すのにも時間がかかるだろう。

 まずはランプに認めさせねばならぬ。

 しかし、ランプも頑固なところがある……。

 余が何度言っても渋々従う程度になろう。

 それならば余にも考えがある。


「そなたが良ければなのだが、ランプと行動を共にしてくれないだろうか? もし、困ったことがあればランプに申せば、余はいつでもそなたの元へと駆けつけよう。」


「魔王様! おいらその話聞いてないでせ!」


「たった今、余が決めた。こころ殿、どうだ?」


「……ちょっと考えさせてください。」


 余に背を向けた小鳥遊こころ殿が精霊と何やら密談をしている。


「ど、ど、どうしよう……。」


「この提案は受けた方が良いよ〜。世界異変を解消するなら協力者は必要不可欠だよ〜。キミの場合は衣食住の確保もしないといけないし〜勇者イワオの動向も探るのにも二人だと限界があると思うんだ〜。側近の彼は魔王様の命令には従わざるを得ないと思うから〜キミに危害は加えないと思うよ〜。」


「う、うん……わかった。」


 密談と言っても筒抜けなのだが……タガメ殿は精霊を名乗るだけあって賢いようだ。

 余に聞こえているとわかった上で話している。

 こころ殿は気づいていないようだが……。


「魔王様の提案をお受けします!」

 

「こころ殿、ランプをよろしく頼む。ランプ……わかっているな?」


「わかっているでせ……。」


 こころ殿と余は握手を交わしたが、こころ殿の手は震えていた。

 よく見ればこころ殿はランプを怖がっているようにも思う。

 

 ランプとこころ殿が無事仲良くなれば良いのだが……こころ殿ならば、ランプが信用する日も近いであろう。


「異世界人だが、なんだが知らないでせが、おいらを騙せると思ったら大間違いでせ! 魔王様の側近を甘く見ないでせ!!」


「ランプ、こころ殿を怖がらせるな。」


「でせ!! すみませんでせ……。」


 さっそく前途多難のようだ。

 余に信じ過ぎとは言うが、ランプも警戒しすぎだ。

 余も共に行動できれば良いのだが、それは難しいであろう。


「すまぬが、余はこれにて失礼する。」


 仲裁してやれればよいが、それはタガメ殿に期待するしか無い。

 こっそりウインクを送ってくるタガメ殿は余を信頼してくれているようだ。


 余は余の為すべきことがある。

 そのために人族と友好を結んだ。

 全ては、余の目的……この世界ヘイブンガルドのため。

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