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第50話 決着

 突然の魔王様の登場にペルシャちゃんが困惑していた。

 ペルシャちゃんが操られた私を睨んだけど、知らない素振りをしていた。

 魔王様に詰め寄られたペルシャちゃんは、あまりの出来事にパニックになっているのか、視線が定まってない。


「これは……エレーナが……突然……私に向かってきて……。」


 状況を確認して怒った魔王様と対面してペルシャちゃんが動揺する。


「あら? あなたからではなくて?」


 エレーナお姉様がペルシャちゃんの後ろに現れた。

 体の至るところから血が流れており、純白の白い素肌の殆どが赤黒い血に濡れていた。

それなのに、お姉様は平然としている。


「エレーナ、生きていたのか……。何故こんなことになった?」


 魔王様が少し安心したように、お姉様に説明を求めた。

 良かった……。生きてた………。

 お姉様が生きているのを知って、心臓にしがみついていたしこりが取れるように、心の底から安心した。

 本当に良かった……。

 

「愚妹を返しなさいと求めただけですわ。」


「こころ殿、どうなのだ?」


「エレーナが妹ちゃんに襲いかかったのを私が助けたんだよね、妹ちゃん?」


 口早に焦りながらペルシャちゃんが操られた私を睨みつけた。

 操られた私は戸惑いながらも頷いた。


「それが本物のこころじゃないのはわかってるよ〜。」


 気付いたらタガメもやってきていた。

 お姉様の後ろに隠れながらペルシャちゃんを見ている。

 こんな状況でものんきな声だけど、気付いてくれてたんだ。


 そんな中、ペルシャちゃんはかなり動揺していた。


「どうして、こんな…。もう少しだったのに……。」


 ペルシャちゃんの視界がぼやけていく。

 ペルシャちゃんが地面に崩れ落ちて泣く。

 一瞬だけ私にまで伝わるぐらいに目に力を入れて魔王様を見たけど、すぐに力が抜けていった。


「全部……ペルシャが……やりました……。」


 それから、ペルシャちゃんが観念したように洗いざらい真実を口にした。

 私の体と思考を魔術で操って魔王様に取り入ろうとしたらしい。


「ペルシャ、こころ殿を元に戻せ。」


 魔王様の命令に怯えたペルシャちゃんが私に手をかざすと、瞳の中から私は私の体へと戻っていった。

 本当に自分の体なのか確認するように体を動かしてみた。

 ちょっと浮遊感があるけど、自分の体から離れた後だからなのかな。

 

「こころ殿。ペルシャがそなたに迷惑をかけた。」


 魔王様が私に頭を下げる。

 ペルシャちゃんはうつむいたままだ。


「ペルシャ、この度の責任は全てそなたにある。四魔将同士の闘争、余の賓客に対する無礼、そなたを死刑とする!」


 魔王様の突然の宣言に私の頭が真っ白になった。

 ペルシャちゃんはうつむいたまま、諦めたような表情をしている。


「魔王様、どうか御慈悲を! ペルシャ様をそそのかしたのは私です。全て私が立てた計画なのです!!」


 覚束ない足取りで立ちながらロレーシアさんが魔王様に意見した。

 ロレーシアさんは涙を流しながら必死の形相で魔王様に縋り付こうとしたが、お姉様に地面に叩きつけられた。


「余の前で嘘を付くとどうなるのか、そなたもわかっているだろう?」


「嘘ではありません!!」


 踏みつけられても屈せず、ロレーシアさんが魔王様を見る。

 魔王様が首を横に振るお姉様を見た。


「嘘ではありません!! 全て私の責任です!!! お願いします!!! ペルシャ様を許してください!!!!」


「もう良いのよ、ロレーシア。ごめんね。本当にごめんね……。」


 ロレーシアさんが泣き出すペルシャちゃんを見つめた。

 諦めたように泣き崩れるペルシャちゃんを他所に、ロレーシアさんが何度も魔王様に懇願している。

 お姉様にどれだけ引き剥がされても、しつこく魔王様にすがっている。

 ロレーシアさんの気品あふれるその姿は既にキズだらけでみる陰もなかった。

 そんな光景を他所にタガメが私に向かってきた。


「良かった〜ちゃんと戻ったみたいだね〜。」


 のんきなタガメが確認するように私の周りを飛び回っている。

 ペルシャちゃんは今もお姉様に立ち向かうロレーシアさんの肩をたたいた。


「ホーリーブレス。」


「ペルシャ様……。」


「今までごめんね。ケルト族はあなたに任せるわ。」


 ロレーシアさんにそう言い残し、ペルシャちゃんが魔王様の前に跪いた。


「覚悟は出来たか?」


「はい、魔王様。この件にロレーシアは一切関わっていません。無礼を承知で申しますが、ケルト族の新たな族長にはロレーシアをご指名ください。……ペルシャの最後のお願いです。」


「聞き届けよう。」


 魔王様の頭上に炎、水、風、土が現れ、それらが混ぜ合わさって光と闇に分離し、光は剣に闇は盾に形を変えた。

 それは元の鞘に戻るように魔王様の手に降り立ち、魔王様が振りかぶる。


「嫌! 嫌!! 嫌ーーーーーー!!!!」

 

 ロレーシアさんの叫びが聞こえて、ハッとする。

 そうだよ……こんな結末……私も嫌だ!!!


「ダメー!!!」


 私の声を聞いて、振りかぶった魔王様の手が止まる。

 

「ダメ、殺しちゃダメ!」


 無我夢中で止めなきゃって思った。

 気付いたら走り出して、ペルシャちゃんの元へ向かっていた。


「記憶に無いのかもしれぬが、この者はそなたに無礼を働いた。当然の報いだ。」


「記憶にあります! それでも絶対ダメ!」


「愚妹。私のメイドの分際で魔王様に意見していいとでも?」


 冷酷な目つきでお姉様が私の前に立ちはだかる。


「止めないで、お姉様!」


「これは偉大なる魔王様の決定。あなた如きが意見をして良いものではありませんわ。」


「それでも、ダメ!! 誰かが私の前で死ぬのは絶対に嫌!!!」


 ペルシャちゃんがこっちを見てる。

 もういいのって言いながら首を振っている。

 ペルシャちゃんが諦めても、私は絶対に諦めない!


 お姉様が必死でペルシャちゃんの元に向かう私を掴んで阻止する。

 構わず進もうとしたけど、足が石になって動かない。

 足が動かないなら、這いつくばってでもと思ったけど、手も石になってる。

 それでも……魔王様を止めないと!!


「全部見てました!! 私を騙そうとしたのも、お姉様とペルシャちゃんが戦ったのも……。」


 その発言に全員驚いていたけど、一番驚いていたのはペルシャちゃんだった。

 ただ、お姉様だけが私の話を冷静に聞いている。


「それなら、身を持って知ったのではなくて? これがこの雌猫の本性……これが魔族よ。」


 お姉様の指摘にうつむくペルシャちゃん。

 それが本性なら、楽しそうにライブをするペルシャちゃんは?

 美味しそうに料理を食べてくれたペルシャちゃんは?

 私を騙して申し訳無さそうにしてたペルシャちゃんは?

 操った後も真剣に魔術が使えない理由を考えてくれたペルシャちゃんは?

 

「これが魔族の世界かもしれない……。でも、これはペルシャの本性じゃない!!」


「エレーナの言う通りだよ。ペルシャは妹ちゃんを利用した。仲良くしようっていうのも……嘘。」


 嘘を見抜く能力が無い私でも簡単にわかる。

 ペルシャは本当に私と仲良くなろうとしてた。

 利用するだけなら私に魔術の知識を教える必要がない。

 操った後の私について悩む必要もない。


「本当のことを言ってよ!! ペルシャ!!!! ペルシャが私を操った後も仲良くしたかったことも知ってる!! 私はまだ、ペルシャと友達になれてない!! だから、殺すのは絶対にダメ!!!!」


 ようやくわかった。

 私はペルシャと友達になりたかったんだ。

 友達って何かわからないって思いながら、私は友達がずっと欲しかった。

 だから、瞳の中であの私が楽しそうに笑ってたりするのを悔しいって思ったんだ。

 

「どうして……。ペルシャ………ひどいことしたのに…………。」


「私はペルシャと友達になりたい! その気持ちに嘘は無い! そうですよね、お姉様!!」


 ペルシャが涙をこらえながら弱々しく私に聞いた。

 魔王様は静かに頷くお姉様を見た。


「愚妹、これは魔王様の尊厳に関わる問題なの。魔王様の賓客に対して無礼を働いた雌猫を何のお咎めも無しに出来るとでも?」


「お姉様も私を蛇にした! 私も同意の上でペルシャに操られた! どうしてもペルシャが死刑になるっていうのなら、私は……。」


 私はお姉様と魔王様を睨んだ。

 お姉様の冷酷な目つきに逃げたくなる、目を逸らしたくなる。

 でも、私は立ち向かわないといけない。

 石になったはずの足が震える。

 でも、お姉様にも絶対に殺させない。


「魔王様に対しても私に対しても随分不遜な態度を取るのね、愚妹。それで生きられると思っているのかしら?」


 そうだ。魔族の世界で生き抜く覚悟。

 私はやっぱり裏切りと殺し合いの魔族の世界で生き抜く覚悟なんて無い。

 そんな世界で生きられる自信は無い。


「私は魔族の世界では生きられない……でも……だったら………そんな世界を望まないみんなと! 世界を変えるために私は生きる!!!」


「そう……。それがあなたの覚悟なのね。でもね、覚悟だけで変えられるほど世界は甘くないのよ。」


 お姉様が私を蹴り飛ばし、ペルシャに近づいている。

 石になっているのに体中が痛い。

 起き上がろうとしても動けない。

 体に命令して無理矢理起こそうとする中、お姉様がペルシャの首を掴もうとする。


「よせ、エレーナ。」


 魔王様がお姉様の肩に手をのせると、お姉様の手が止まり、何も言わずにペルシャをただ黙って見つめていた。


「ペルシャ、こころ殿はこの様に申している。そなたはどう思っているのだ?」


 お姉様がペルシャをその場に下ろした。

 全員の視線がうつむくペルシャに集まり、沈黙が場を支配した。

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