第2話 異世界渡りは空腹とともに
お腹が空いた。
何も考えたくない。というか、考えられない。
私はいつまで歩いていたら良いんだろう?
足が重い。
でも立ち止まれない。立ち止まったら動けなくなる。
ぐぅ〜
あ、またお腹が鳴った。
お腹がすきすぎるとお腹に変な違和感が出来るんだね。
あと、目に見えるものが食べられるか食べられないかで判断しちゃう。
木が生い茂ってる。生い茂ってるって美味しそうに似てる。
あ〜意味分かんないけど、そういうことだね。
私、ダメだ。
森の中には美味しそうな木の実や果実がある。
でも、それを食べようとしたらタガメに注意された。
「大変だと思うけど〜この森の食べ物が食べられるかわからないから〜勝手に食べちゃダメだよ〜。」
本当にそうなんだろうか?
これだけお腹が空いていると、試したいというよりも試さなければという気持ちになってくる。
「それで食べ物に毒があって死んでも悔いがないなら止められないけど〜本当に良いの〜?」
くっ優しい忠告が今は嫌味に聞こえる。
でもそれなら空腹で死ぬのとそんなに変わりはないんじゃ……。
ダメダメ!
こんなにも憎たらしいタガメだけど、私を思ってのことだとは思うからとりあえず従わないと。
一応異世界転移の先輩だし。
そうして私達は森の中を途方もなく歩き続けた。
こういう時、サバイバルの知識とかがあればこんなに苦労すること無いのかな?
「村が見えたよ〜。」
ちょっとだけ高く空を浮くタガメから朗報が来た!
食料にはありつけそうかな。
良い人に巡り会えたら良いな。
もしかしたら私を救ってくれたあの人もいるかも!!
そんな期待を胸に抱いたけど、村の様子が変だった。
村にしては荒れてた。
色んなものが壊されていて、花は引き抜かれて、家の中のタンスからは服が無残に散らかっている家がある。
中には何もない家もあれば、全然荒らされてない家もある。
何でこんなこ……あ〜、これ以上は考えられない。なんか、木片が食べ物に見えてきた。
私、やばい!
「これが世界異変なの?」
「どうだろう〜? 人為的なものだってのはわかるね〜。」
タガメが冷静に町の中を見渡してる。
復興に励む人もいるけど、中には悔しそうに自身の畑を眺めてる人がいる。
こんな状況で申し訳ないけど、とりあえず誰かに一刻も早く食べ物も分けてもらわないと……。
「あ〜待って〜。」
「何があったんですか?」
「お前らもか!」
え! 私達なにかした?
タガメを見るけど、小さな羽をパタパタと揺らしながら疑問を浮かべてる。
というか、タガメを見ても驚かないんだ。デフォルメされた昆虫のタガメに似た生き物が飛んでたら誰だって驚くと思うけど……。
「うちにはもう何も残ってねぇんだ!」
「待ってください! 私達は何も知りません。」
「信じられるか! お前も勇者イワオの一味なんだろう! この村にはもう何もねぇ!」
勇者イワオ? 初めて聞いた名前だけど、岩尾は私のいた世界の名字だ。
それで勇者を名乗ってるってなんか異世界感が薄れていく。
ってダメだ。
考えれば考えるほど頭がボーッとしてくる。
「その、イワオさんはなんでこんなことを?」
「イワオさん?」
「えっと……さっきの……勇者イワオさん。」
「勇者イワオか! 知らねぇよ! いきなり現れて、勝手に村の者を荒らし始めて、目についた物を全て奪っていったんだ。俺たちも何故かそれが当たり前だと思っちまって…。とにかく! これ以上お前らにやるものはねぇ!」
「そうですか…。」
誤解を解かないとって、あ、やばい。
私、立ち止まってる。
あ、足が動かない。
なんか、目の前が霞んできた。
早く何か食べないと。
こんなに意識は冴えてるのに、なんだか眠たくなってきた。
せっかく異世界に来た後なのに……。
「ねぇ……タガメ……漫画とかだとここで私の知られざる能力が覚醒するとか……チート能力があるとか……。」
「そんな都合良くはいかないよ〜この場はボクがなんとかする〜。」
期待した私が馬鹿だった……。
でも、あの人は私に教わって銃を剣で弾けるようになったっぽいから、この世界では私の身体能力がずば抜けて高いとか……無いのかな?
「さっさとこの村から出ていけ!!」
無いな。立ち止まる私を払いのける村の人の力は私よりも遥かに強いし、痛い。
私の知ってる漫画や小説にも異世界から来た人が、その知識を持って無双するっていうのは一杯あった。
本来そうしたいところだけど、私はただのいじめられっ子だから、そっちも出来る自信なんてない。
そう考えると、もしかしたら、私を救ってくれたあの人は勘違いしていたのかもしれない。
ぐるぅぅぅぅぅ。
ダメだ。お腹が空きすぎてもう力が入らないし、意識が遠のいていく。
っていうか、これで私の異世界渡り完って……納得できない……。
異世界に行ってよくわからないけど荒れてる村に入って、勘違いされて空腹で死ぬって、異世界要素ゼロ。
嫌だなぁ……。こんな人生のままで死ぬのは嫌だよぉ……。