第20話 魔王城案内
「自分はドラゴソ族のスルドっす。魔王城の警備をしてるっす。よろしくっす。」
私は謁見の間に連れて行ってくれた人型ドラゴンの魔族スルドくんに城を案内してもらっていた。
エレーナさんはスルドくんに仕事を託すとどこかに行ってしまった。
スルドくんは、話し方からもわかるほど後輩気質だった。
魔王城の1階には食堂、応接室、図書室がある。
食堂は大衆酒場と同じ作りだった。
カウンターがあって、座敷があって、お酒が飾られてた。
もう少し厳格なものを想像していたけど、なんかちょっと安っぽい。
魔王様やエレーナさんもここで食事をするらしいけど、なんか想像できない。
応接室は円卓の立派な漆塗りの机に、座るのも遠慮してしまうほど豪華な椅子が置いてあった。
大衆酒場な食堂とは全然様子が違ってこっちは豪華な作りになってた。
「どうして魔王様とエレーナさんはこっちで食べないんですか?」
「応接室は食事をする部屋じゃないっすよ。」
あれ? 私がおかしいのかな。
スルドくんの言う通りだけど、どう考えても高貴な人はこういうところで食事をすると思う。
あ、でも魔王様は上下関係をなくそうとしているらしいから、あえてそうしてるのかな。
図書室は寂れてる。
私よりも大きい本棚が何個もあるけど、本棚の中はスカスカで数もそんなに無かった。
ただ、魔族の歴史に関する本が多かったから、タガメが喜んでいた。
私も今度読んでみよう。
2階は会議室や魔王城で働く魔族の個室があるけど、基本的に私が使うことは無さそうだ。
スルドくんの部屋も見せてもらったけど、畳が敷かれた四畳の和室だから布団1つでもう手狭だ。
「自分はまだまだっすから。」
スルドくんはこの部屋に納得してるらしい。
「でも、空き部屋も多いっす。それは……今は自分の口から言えないっす。」
スルドくんがなにかを話そうとしたけど、しまったみたいな顔をしてそそくさと3階に向かってしまった。
3階には客室と謁見の間、魔王様の部屋がある。
客室は夜遅くに出向いて帰れなくなった人族の貴族や位の高い人が寝泊まりするための部屋らしいけど、あまり使われていないらしい。
人族は魔族と休戦状態にはあるものの戦争後ということもあり、魔王城に出向くことも少なく、用があってもすぐに帰るらしい。
「ニーズさんはあんまり来ないんですか?」
「ニーズ様は例外っすよ。」
ガーデン村で知り合った王宮学者のニーズさんは、人族の中では珍しく魔王城に1ヶ月に1回程来るそうだ。
場合によっては1ヶ月以上滞在することもあるらしい。
私の事は覚えていないと思うけど、歴史についても詳しそうだから会ったら聞いてみよう。
魔王城の離れには、闘技場がある。
闘技場は闘技大会で使うためかなり広く、敷地面積は魔王城よりも大きい。
ここで開かれる闘技大会で魔王を決めるそうだ。
元々魔族は各種族の王が集まった連合軍だったけど、今は魔王様が全ての魔族を統べる存在になったそうだ。
その後、平和的に王を決める手段として闘技大会を行うことを魔王様が決めたらしいが、魔王様は無敗。
エレーナさんの個人授業でも習った内容だ。
また、地下には牢屋があるらしいが、それは案内してもらえなかった。
「自分もよくわからないっすけど、案内するなってエレーナ様に言われたっす。」
牢屋なら私も近づく気になれないから、別にいいかな。
でも、スルドくんは魔王城を丁寧に案内してくれたけど、地下に続きそうな階段はなかった。
隠し扉があるのかな?
全体的に魔王城は私が思ったものよりも安っぽかった。
明かりのほとんどが提灯でちょっと薄暗いし、和室と洋室が混在していて城というよりはホテルみたいな印象だった。
何でも、今の魔王様が魔王になる前は魔族には城がそもそも無かったけど、人族と友好を結ぶ上であった方が良いと魔王様が色々試行錯誤をした結果今の魔王城になったらしい。
一通り魔王城の説明が終わった後、報告を兼ねて魔王様に会うことになった。
スルドくんと一緒に謁見の間の前に行くと、エレーナさんが待っていた。
今度は間違えないようにと思って謁見の間の扉を力いっぱい横にスライドしたけど、私の力ではやっぱり開かなかった。
見かねたエレーナさんが扉を蹴り壊して開ける。
謁見の間ではランプさんが小さく『無事終わったでせ……。』とホッとしてる。
魔王様は流石といった表情だったけど、みんな反応がおかしいと思う。
突然のことで開いた口が塞がらない私とタガメが正解だと思うけど、日常茶飯事なのかな?
「ベルゼルート様。使用人としての初仕事を終えたご報告に参りました。」
「そうか。ご苦労であった。」
魔王様にひざまずくエレーナさん。
エレーナさんは仕事してないと思うんだけど……。
スルドくんは謁見の間から颯爽と去っていって、ランプさんも目が泳いでる。
魔王様だけ誇らしげに頷いている。
私もとりあえず、エレーナさんに案内してもらったっていう事にしないといけないみたいだ。
「こころ殿、魔王城はどうであった?」
魔王様の質問がアバウトすぎて困る。
正直な感想が安っぽかっただから、なんか言うのも申し訳ない。
でも、嘘を言っても見抜かれる。
魔王様が作った城だからエレーナさんがいる前で批判は出来ないし、ランプさんもいるから嘘も付けない。
あれ? 詰んでる気がする。
「……私のいた世界とは違って驚きました。一から城を建てたのは凄いと思います。」
嘘は言ってないと思う。
ランプさんも反応してないし、エレーナさんも納得してる。
しかし、魔王様だけは腕を組んで顎に手を当て何かを考えている。
あまり納得していないようだ。
「……質問を変えよう。そなたの世界と比べてどうであった?」
魔王様が核心を突く質問をしてきた。
鈍感な魔王様が何故かすごく鋭い。
どうしよう……詰んだ。
どう答えるべきか、迷いすぎるのも怪しまれる。
とりあえず、嘘は無いように……。
「元の世界の城についてあまり詳しくないから、ちゃんと比べられないです。」
「嘘でせ。」
「嘘ね。」
「比べられないって所が嘘だよ〜。」
「正直に申せ。」
簡単にバレたし、魔王様が少しだけムッとした。
というか、タガメまで加わってるし具体的に言われた!
タガメは味方じゃないの!
嘘をついた私に対して、エレーナさんの殺意が特に凄い。
今度こそ力づくで追い出されるかもしれないけど、もうこうなったら正直に言った方が良い気がする。
「正直、安っぽいなと。私の世界のお城は格式の高い作りだったんですけど、食堂が庶民が飲み食いするような作りで、明かりが提灯でちょっと暗いと思いました。後、私の世界では和風の作りと洋風の作りが分けられて考えられてるんですけど、それが混在しすぎててあんまり馴染みがないなと。でも、私の世界の常識というか文化というかなので、気にしないでください!」
「そうか……。」
魔王様が腕を組んで考えている。
その間、エレーナさんが私を凄く睨んでくる。
いきなり襲われないだけありがたいけど、今も怖いし終わった後も怖い。
「その様な顔をするでないエレーナ。そなたの美しさが台無しであるぞ。」
エレーナさんの全身が真っ赤になって固まった。
体から湯気が出てる気がする。
あんなに白い肌がゆでダコみたいになってる。
「そなたの世界の城について、聞かせてもらえるだろうか。」
魔王様に私の知ってる知識を話したら、和風についてはある程度理解してもらえた。
話してる内に調子に乗って、改善案も言っちゃったけど、やっぱり興味津々で聞いてくれた。
けど、洋風は全然だった。私にあんまり知識がないからだと思う。
「その知識量から察するに……そなたは格式が高いものであったのだろう?」
「あ、多分私。普通ぐらいです。」
「普通だと!!」
魔王様が驚いた。
何でだろう?
教育の差による価値観の違いなのかな?
「そなたの世界は皆そなたと同等の知識を持つのか……。勉強熱心なのだな……。」
「熱心な時もありましたけど、それでも私より頭の良い人の方が多かったですよ。多分、教育の成果だと思います。」
「教育……詳しく聞かせてくれるか?」
それから私は教育について話した。
正直あんまり良い思い出は無いけど、何でか魔王様には話せた。
信じてくれる魔王様に安心したからかな。
ランプさんは私が嘘を言っていないか注意深く聞いて、エレーナさんは魔王様の顔をずっと見てとろけた顔をしてる。
「そうか……その手があったか……。こころ殿、そなたの話、有意義であった。ありがとう。」
有意義であった。
魔王様に言われたその言葉がすごく嬉しかった。
その言葉だけで何だか救われた気がする。
エレーナさんが私を睨んでいなければ……。
「こころ殿、また頼むぞ。エレーナ、話がある。」
魔王様の言葉に、私を睨んでいたエレーナさんが瞬時に天使のような表情へと戻る。
とりあえず、大丈夫かな?




