第175話 ラグナロク
今も不気味な七色に光輝くラグナロクを持つお姉様とピカデリカさんが対峙する。
「勇者イワオが全てが終わると評価するだけの事はあるさ。キミの目的はもう達成されたって事で良いんじゃないかい?」
「そうね……。」
ラグナロクの刀身をピカデリカさんに向けてお姉様が言い放つ。
「ここからは私の趣味よ。」
ラグナロクを構えお姉様がピカデリカさんに斬りかかる。
ピカデリカさんも剣を出現させてそれを受け止める。
剣を重ねるたびにピカデリカさんの魔力は失われていくけど、お姉様も動きが少し鈍くなっている。
「キミの魔力も奪われてるみたいだね。」
二人の魔力を吸い取るようにラグナロクは輝きを増していく。
この戦いが長引くほどどちらもただでは済まない。
一瞬……刹那の気の緩みも許されない状況なのに、どこか嬉しそうに二人は剣を重ねる。
宿命の二人の対決には程遠く、子供のチャンバラに近い。
決着をつけることよりもお互いの実力を確かめる事の方が大事だと言わんばかりな戦いはただ純粋に力を求めていた頃の幼い魔族……そんな気がする。
「フェアリアルエレメンタルバースト!」
「ジュデルカゴーラ・レクイエム。」
フェアリアルエレメンタルバーストをラグナロクに吸収させ青い炎がピカデリカさんを追う。
魔術ではピカデリカさんの方が圧倒的に上のはずなのに、ラグナロクのせいでピカデリカさんは魔術でお姉様に対抗できない。
「許容量の限界も無いと見た方が良さそうさ。」
ラグナロクは今も際限なく虹色の光を増していく。
今ではもうあまりのまぶしさに目を開けるのもやっとだ。
それなのに、その輝きは衰える気配がないどころか増していく。
「研究を優先させるのは悪い癖よ。ピカデリカ。」
「返す言葉も見つからないさ。」
絶え間なく攻めるお姉様にピカデリカさんは防戦一方だ。
ラグナロクをお姉様に使わせなければこんなことにはならなかった。
それでもピカデリカさんは魔族に魔術を教えているときの様にどこか楽しそうな表情をしていた。
「昔を懐かしむ暇はないはずよ。エレメンタルドライブ。」
ラグナロクにそう呼びかけるとラグナロクの輝きがお姉様へと移り、お姉様が虹色に発光する。
突如として加速したお姉様にピカデリカさんは追いつけずラグナロクが腕にかすった。
「ぐあああああああああああああああ!!!!」
少しかすっただけなのにピカデリカさんは大きな悲鳴を上げる。
「あまりにも強かったあなたは対応力も警戒力も低い。実力一つでどうとでも覆せてしまうから。おごりすぎな所は変わらないのね。」
「ラグナロクが……どれほど危険なものなのか……身をもって知りたかっただけさ。そして痛いほどにわかったさ………ガルディアの真意も、それもこの世に存在してはならないものだということもさ。」
呼吸を整えながらピカデリカさんは剣を構える。
でも、立ち上がるのもやっとみたいな状況だ。
「……私もそう思うわ。」
お姉様が私たちに背を向けた。
「ボク達を見逃すのかい?」
「十分楽しめたわ。」
ピカデリカさんの問いかけにお姉様は髪をかき上げるとラグナロクを持って去った。
「エレーナに見逃される形になってしまったね。ラグナロクが無ければボクの方が強いのは間違いないさ。ってキミにそう言ってしまうボクは負け犬みたいだね。」
「そんなこと無いです。ピカデリカさんは生きています。だから、大勝利です。」
「………キミは本当に彼に……。」
私に何かを言いかけたピカデリカさんが力尽きて倒れた。
すやすやと心地よさそうな寝息を立てているピカデリカさんの表情は曇天立ち込める空模様とは裏腹に少し晴れやかだった。