第164話 イルナ国の訓練所
「お前は礼儀作法とか国作りを考える前に鍛えるでせ!」
「ほっほっほ。儂も千年ぶりにガルディアに教わるのう。」
「我は良いが、汝らはそれで良いのか?」
「まぁ、やりたいやつだけでいいんじゃねぇか? こころ殿は強制だけどな。」
何も言い返せない。
あんな目に二度もあったんだもんね。
自分でもそう思うけど、みんなに言われるのはちょっとだけモヤッとする。
そうして私は訓練をする事になった。
ガルディアさんの訓練はイルナ国の中でも人気になっている。
魔族の歴史の中で武神と呼ばれたガルディアさんに教わる訓練はドラゴラ族にとっては魅力的だった。
ケルト族にはガルディアさんの見た目の受けが良くて、初めは訓練よりもガルディアさん目当てって感じだったけど、次第に楽しさを見出しているようだ。
それまで、筋肉がつくのが嫌だーとか、強いと可愛くなくなるとか言っていたけど、魔族の本能なのかな。
「ガルっちマジてぇてぇ……。」
「拝んでおこ。」
………ノリはわかんないけど、訓練は楽しんでるんだと思う。
「我も教えるのは不得手なり。」
本人はそう言ってるけど、実際はめちゃめちゃ上手い。
伸び悩んでいたドラゴラ族がガルディアさんのアドバイスでメキメキ成長している。
「本能に抗うは理性に非ず。本能を上回る汝らの願いなり。」
このアドバイスのおかげで、ドラゴラ族の多くが【狂化】を使ってもケンドさんの様に正気は保てているみたいだ。
ただ、【狂化】を使いこなすドラゴラ族のほとんどが、俺はケンドよりペルシャ様を愛しているんだーーー!! って想いを抱いているみたいだ。
「こいつは俺もうかうかしてられねぇな。」
ケンドさんも結構焦っているみたいだ。
模擬戦でも無敗ではあるけど、日に日に押されることが多くなっている。
ちなみに、私はソウルコネクトで力を借りても【狂化】は使えなかった。
「俺の【狂化】が変わっちまってるのあるかもしれねぇが、こころ殿は本能敵に闘争を求めてないんじゃないか?」
ケンドさんの言葉にガルディアさんは納得していた。
【狂化】は闘争本能を呼び覚ます能力。
本能が闘争を求めていなければ使えないとおもうけど、変わってる可能性があるってどういうことだろう。
でもそれよりも、聞きたいのは……。
「ケンドさんはどうしてあの時【狂化】を使っていたんですか?」
「ああ、それが記憶にはねぇんだが……最後に会ったのはペルシャ様だってことは覚えてる。」
ペルシャが操りの魔術でケンドさんを無理矢理【狂化】の状態にしたっていうのが一番考えられる。
ピュラーさんの潜入の報告と合わせると、恐らく勇者イワオがペルシャに命じたんだと思う。
「主様、ヴォルフ族族長のヴォルフです。」
ケンドさんと話していると、ヴォルフさんがやってきた。
ヴォルフ族の族長は世襲制でヴォルフという名を何代にも受け継いでいるらしい。
ヴォルフ族は個としては弱いけど、一族としてはかなり強い部類だ。
実際、ドラゴラ族との一対一の模擬戦はあっさり負けちゃうけど、集団戦であれば持ち前の瞬発力と連携を活かしてドラゴラ族を圧倒してしまう。
「私達の能力は【遠吠え】、【思考連携】、【瞬間加速】です。族長の私にはそれとは別に【司令】があります。」
ヴォルフ族の【遠吠え】はドラゴラ族の【咆哮】と同じで、自身の力を高めて、仲間を呼ぶ効果があるらしい。
【思考連携】は考えを共有しする能力で、【瞬間加速】は一時的だけど加速することが出来る能力。
【司令】は士気を高める能力と共に自身の配下におくものの行動を強制する事が出来る能力だそうだ。
その中でも、ヴォルフ族が魔族の中で生き抜いてこれたのは【思考連携】が一番の要因らしい。
ランプの【通信】と違って共有できる人数が多い代わりに単純な噛むとか加速とか、一言程度の思考しか共有できない。
ヴォルフ族は魔族の世界を生き抜く上でこの能力を最大限に活かすために訓練をする。
私も混ざってみたけど、無理だった。
噛む、跳ぶ、避けるとかの単語が指令を出す人がたくさんいる旗揚げゲームみたいだから反応出来ないし、私が反応する前に次の行動を言ってたりするから、頭がパンクしちゃう。
「ヴォルフ族の誰もが通る道です。主様。」
私の出来の悪さをヴォルフさんはにっこり笑ってフォローしてくれた。
でも、いずれ出来るようにならないといけない。
十分とは呼べない戦力を補うためにも、集団での連携力は絶対に必要になる。
だからこそ、ガルディアさんは多種族同士での集団戦も行っている。
戦いを求めるドラゴラ族と戦いをめんどくさがるケルト族の仲は悪いけど、ヴォルフ族が良い感じにクッションになってくれてる。
ドラゴラ族は強さの面でヴォルフ族を認めているし、ケルト族はヴォルフ族が可愛いと毛をモフモフしてる。
正直私も混ざりたい。
「忌々しき人族の戦いを模倣する日が来るとはな。」
「俺はよ……異種族同士が手を取り合って戦いに備える日が来るとは思わなかったぜ。」
訓練をするみんなを眺めながらガルディアさんとケンドさんが感慨にふけっている。
男同士の友情なのかな。
少しだけ羨ましいかも。
ピュラーさんがニタニタしながら、ケンガルなのよって言ってるけど、何のことなんだろう?
そうして、私は私の訓練をする。
私の訓練はやっぱりソウルコネクトだ。
ソウルコネクトで新たにロレーシアさん、ミィさん、ピュラーさん、ケンドさん、ヴォルフさん、ペルシャ様マジ世界一最高丸さん、トレント様が加わった。
ピュラーさんは【逃避】と【危険察知】、【危険予知】、【隠匿】という能力があるらしい。
【逃避】は逃げる速度が上がる能力。
【危険察知】は目に映る情報の中で危険がわかる能力で、【危険予知】は本能的に自身に迫りくる危機がわかる能力。
似た能力だけどこの二つが合わさることで、未来予知のように自分にどんな危険が降りかかるのか手に取るように分かる。
私を模擬戦に誘うケンドさんから逃げようと思って使ってみたら、簡単に逃げ切れた。
この二つの能力は私が危険だと思うものに対してなら何でも働くし、それが働いて逃げようと思った時点で【逃避】の能力が働く。
【隠匿】という能力はテンペルトハイドと効果は同じだ。
テンペルトハイドは自分以外も隠せるし、隠匿以上の効果があるから緊急時以外は使わないそうだ。
「私の能力は後ほどご説明させていただきます。」
ロレーシアさんの能力は説明してもらえなかった。
無表情だったけど、訓練所で説明できないってことは大事なことなんだと思う。
ミィさんには【加速】という能力がある。
【加速】はヴォルフ族の【瞬間加速】と違って、時間が限定されない。
能力を使い続けている間、一定以上の速さまで加速し続けられるらしいけど、どこまで速くなれるのか試してみたら木に激突した。
「学習能力がないでせ。」
ランプの皮肉を他所にパンチをしてみたら腕が引きちぎれるかと思うほどの激痛に見舞われた。
【加速】の効果が全身に及ぶことと、限界まで引き上げるのは無理だった事はわかったけど、ミィさんもどこまで速くなるのかがわからないからあんまり使わないらしい。
トレント様の能力は【重化】だ。
重化は体が重くなるという能力でどれだけ重くなるかはある程度決められるけど、一度重くなってしまうと一定時間ずっとその重さのままだ。
ただ、急激に体が重くなると動きも鈍ってしまうし、能力が斬れた時は急に訪れる体が軽くなる。
体に重りをを付けて生活して、それをいざ外すと体が羽のように軽くなる現象と同じだけど、デウスさんの教えを受けた私からするとこの能力は戦闘で活かせそうにない。
私自身が体のコントロールを出来なくなってしまっては、勝機を逃してしまうかもしれない。
「ほっほっほ。【大地一体】、【同化】、【絶対防御】があるのじゃが、女王様には使えんじゃろう。理由は後ほど話すわい。」
試しに使ってみようとしたら、本当に使えなかった。
(こころ殿、呼んだでござるか?)
「一応試しておこうと思って。」
ペルシャ様マジ世界一最高丸さんに能力という能力はないけど、燕返しが使えるようになるのと、ペルシャ様マジ世界一最高丸さんと念話の様に会話ができる。
でも、燕返しを使うだけならケンドさんの能力を借りれば良いし、刀の方は急になまくらになってしまう。
刀はケンドさんが持っているから使う機会はあんまりないかも。
「いや、あそこはこうだっただろう!」
「まぁた始まったか……。」
みんながケンドさんを危ない人みたいな目でみてるけど、ケンドさんもペルシャ様マジ世界一最高丸さんと念話が出来るようになったみたいだ。
でも、模擬戦の後はいつもああやって喧嘩してる。
最初は突然自身の愛刀が喋りだしてびっくりしたらしいけど、慣れてからはかなりの頻度で喧嘩してる。
私のソウルコネクトが原因で間違いは無さそうだ。
実際、私がペルシャ様マジ世界一最高丸さんの力を借りると、その間は喋れなくなってしまう。
勝手に力を借りて喋れなくなるのも悪いから今後は使わないかな。