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第9話 イルナ森の大賢者トレント

 森の中心部には皮は剥がれ、枝は折れ、伐採された方がマシとも思えるほど悲惨な大樹があった。

 幹には折れた枝が鼻に、空洞が口に見え、閉じていて見えづらいが鼻の上に目っぽいものがあった。


「あなたが……トレント様ですか?」


「ああ、初めて見る顔じゃな……。いかにも、わしがイルナ森の賢者トレントじゃよ。」


「どうしてこんなことを……。」


 人間がこの様なことを簡単にするなど信じたくはなかった。

 同じ人間として、勇者イワオが許せない……。

 私は持ってきた肥料をトレントの周りに急いで撒いた。


「ああ、お嬢さんは………。優しいのじゃな……。」


 トレント様の枝が私を撫でるように揺らめく。

 葉が無くなっているためチクチクするが、感謝されていると十分わかる。


「今は安静にしていたほうが……。」


「大丈夫じゃよ。お嬢さんが持ってきた肥料はオルハート特製の肥料じゃろう? 魔力が戻っていくのを感じるぞい。」


 トレント様が肥料同様淡く緑色に光っている。

 折れた枝が少しずつ伸びていき、葉が少しずつ付き始めている。

 それでも悲惨な光景には変わりがない。

 焼け石に水程度の治療だと思うけど、トレント様の表情がさっきよりも明るくなっている。


「良かった……。」


「ランプや、このお嬢さん達は?」


「異世界から来たとかいう頭のおかしいドジと精霊でせ。」


 うー。ランプさんの私への評価があまりにも低い。

 仕方ない事だけど、なんだか納得できない。


「ボクはタガメで、こっちは小鳥遊こころだよ〜。よろしく〜。」


「異世界から……。なるほどのぉ……。」


「早速で悪いんだけど〜こころに見覚えはある〜?」


 トレント様が大きな目で私をまじまじと見つめている。

 なんか、凄く恥ずかしくて、あたふたしてしまった。


「 残念ながらないのぉ。初めにあった時はラビトト族かと思ったのじゃがな。」


「ラビトト族〜?」


「ラビトト族は白い耳の生えた臆病な魔族でせ。」


「耳が生えていない所を見るに、そういうわけでも無さそうじゃのう。人族とラビトト族のハーフならお嬢さんの様な見た目にはなるかもしれぬが……。おっと、わしとしたことが忘れて負った。お嬢さん、これはお礼じゃ。」


 トレント様の枝にさくらんぼの様な丸みを帯びた赤い実がすくすくと実り、それを私に差し出してくれた。

 食べようかと思ったけど、今はそんな気分にはなれなかった。


「……トレント様は魔術で自身を癒せるでせ。魔力も戻っているでせから、そんなに気にする必要は無いでせ。」


 ランプさんが落ち込む私を気遣ってくれた。

 それが少しだけ嬉しかった。


「本題に入るでせ。勇者イワオと戦ってみてどうだったでせか?」


「ああ、何故わしの弱点を知っているのか疑問じゃった。まるで、わしと戦ったことがあると言った具合じゃ。」


「他に気になることはなかったでせか?」


「わしが死んだふりをした後に経験値が入らないと言っておったな。」


「経験値?」


「でせ?」


 思わず言葉が出てしまった。

 ヴォルフ族は急に強くなったと言っていて、今聞いた経験値。

 なんとなく、ゲームかなって思った。

 でも、その可能性は低いと思う。

 だって、この世界はゲームじゃない。

 お腹は空くし、ステータスもないし、叩かれれば痛い。


「何か知ってるでせか!?」


「いや、勘違いだったらごめんなさいなんだけど…。」


「言うでせ! 言わないほうが悪いでせ!! あと、勘違いでも土下座とかいうのはしなくて良いでせ!」


「あはは…。経験値って私がいた世界のゲームに似てるなって。」


「げぇむ……でせ?」


「なんて説明して良いのかわからないけど、自分が知らない世界を疑似体験出来る機械って言えばわかるかな。」


「……幻惑魔法の類でせか?」


「たぶんそう考えて良いと思う。でも、私のいた世界では他の世界に入り込む事は出来ないし、ゲームを通じて別の世界に入り込むなんてこと出来るとは思えないかな……。」


 生まれた世界でゲームはそこそこやっていたけど、勇者イワオはゲーム感覚でこの世界に何かしらの手段を用いて入り込んだ。

 元の世界にはそんな技術はないはず。

 もしかしたら自分の知らない世界では可能なのかもしれない。

 そう考えると、救ってほしいって言っていた人は勇者イワオでは無さそうだな。


「ねぇタガメ? 他の世界に異世界人が紛れ込むことってあるの?」


「今のキミがそうだよ〜。ただ〜紛れ込んだだけじゃ異変を起こす存在とまではならないよ〜。」


 それでも、イワオさんは異世界からやってきた人と考えて間違いないと思う。

 イワオさんに会って話してみたいけど、タガメの話だと直接会うのは危険だったっけ。


「何を言っているかわからんでせが、勇者イワオとお前は繋がっているんでせか!?」


「え!? なんでそうなるの!?」


「お前はどうやってこの世界に来たでせ!!」


「あー、それはタガメがいたから来れただけ。私自身にはそんな力ないよ。」


「ランプ〜それは僕からも保証するよ〜。」


「いや、お前が言っても保証にはならんでせが…。嘘では無い様でせが本当だとも言えんでせ……。」


「はは〜確かにそうだね〜。」


 タガメが笑いながら納得するけど、納得されても困る。

 というか、自分も異世界から来た者だという自覚があるんだか、無いんだか。

 笑うタガメを見て疑っていたランプさんも気が多少緩んだみたいだから、タガメとランプさんの相性は良いのかもしれない。


「あ、そういえば、何でみんなはイワオじゃなくて勇者イワオって呼んでるの?」


 気が多少緩んだランプさんだったけど、私の疑問に対してより警戒心を強めている。

 もしかして、迂闊なこと言っちゃったのかな?


「おかしなことを言うやつでせ。本人が勇者イワオと名乗ったから勇者イワオという名前でせ。」


 あれ?

 あ、そう言えば私の名前も変わった名前程度の認識だったっけ。

 名字と名前の区別がつかないみたいな。

 私が嬢ちゃんとか、お嬢さんとか、お前としか呼ばれてないのも、もしかしたら区別がついていないからなのかな?

 でも、そう考えてもおかしな事が一つある。


「この世界には勇者って言葉は無いのかな?」


「もちろんあるでせ。勇気のある者、勇敢なる者とかそういう意味でせ。」


「じゃあ、勇者は立場を表す言葉で、イワオが名前ってならないの?」


「おかしなことを言うやつでせ。」


 ランプさんが私に疑問を抱くように私もランプさんに疑問を抱く。

 私おかしなこと言ったかな?

 ランプさんは自身の発言の矛盾に気づいていない様だ。

 奇妙な状況に気持ち悪さに似た異常を感じる。


「えっと……ランプさんおかしなことを言ってると思うんだけど…」


「お前ほどおかしなやつはいないでせ!」


「ひどい!! 私の場合は小鳥遊が名字で、こころが名前。イワオは名字で名前なの! 勇者は立場とか職業!」


「何を言っているかわからんでせが、お前はやっぱり勇者イワオの事を何か知ってるでせね!! 本性を表したでせ!!」


「だーかーらー! おかしいのはランプさんなの!!!」


「お前に言われるとは思わなかったでせ!!」


 話の通じなさにもどかしさを感じる。

 そうだ。

 私の感じた違和感はこれだ。

 最初に会った人もイワオさんって言ったら、誰のこと? みたいな感じだった。


 ただ、タガメは私が指摘した事を理解してくれているみたいだ。

 しかし、ランプさんとは話が一向に噛み合う気配がない。

 このまま話が進まないと時間を取られた上に信用まで無くなってしまう。

 だけど、状況を打開する策が思いつかない。


「ほっほっほ。疑ってばかりでは話が進まんよ。魔王様の方針とも反するのではないか?」


「そうでせが…。こいつの言っていることがさっぱりわからんでせ。」


「ほっほっほ。実はわしもじゃ。武力で勇者イワオに負け、知恵ではお嬢さんに劣り、わしは大賢者とは名ばかりのただの長生きな樹じゃのう。ほっほっほ。」


 トレント様ですら勇者イワオが全て名前だと思っている。

 でも、目をキラキラさせて笑っている。


「とにかくでせ! 今回のことはきっちり魔王様にも報告するでせ!」


「それは、、、良いけど…むしろそっちの方が話が進みそう。」


 魔王さんは私のことを少なからず信じてくれていると思う。

 だったら、そっちの方が話が早そう。

 ランプさんが森の中でひそひそと話しだした。

 あれで魔王さんと話せているのかな?

 時々落ち込んだりしているからちゃんと話せているとは思う。

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