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第0話 小鳥遊こころは異世界転移者になりました

100話までがチュートリアルとかいうとんでもない作品ですけど、付き合ってくれたら幸いです。

 

 自分が生まれた時の記憶を覚えてる人はいる? 

 私は覚えてるけど、あんまり良い思い出じゃないかな。

 自分の周りによくわからない人たちがいて、その人たちが自分を見る目が凄く怖くて泣いた。 

 今ではわかるんだけど、あの人たちは驚きだったんだと思う。


 ーーーだって私の髪はピンク色で、目は赤色だったから。

 

 物心がついた時に『私の目と髪の色はどうして黒じゃないの?』って聞いてみたら『こころちゃんの目と髪は個性なのよ。』ってお母さんが言ってくれたけど、私にとっては悪い個性でしかなかった。


 私はこの髪と目の色のせいで、友達が出来たことがない。遊ぶにしても毎回ハブられて、友達を作ろうとしてもお前は見た目が気持ち悪いからダメだって。


 小学校の時、ピンクと赤目って珍しいねって言ってくれた男の子がいた。拒絶しかされてこなかった私に初めて理解者が出来るかもって思ったけど、その子とはそれっきり。別のグループの子と仲良くなってからは一度も話してない。


 中学に入ると、私は先生から学校の評判が悪くなるから髪を染めてこいって言われた。同級生からはいじめられた。頭から水をかけられたり、無理やり黒いペンキを塗られたりしたけど、何でか染まらなかった。

 結局、私は黒のコンタクトレンズとかつらをかぶることにして、お父さんの計らいで引っ越して別の中学に通うことになった。

 そうしたら、私はやり直せるってその時は本気で思った。

 ーーーーでも、ダメだった。


 場所が変わっても今までまともに人と話したことが無いから、話しかけられてもなんて答えていいかわからなかった。

 だから私はクラスで浮いた。浮くだけだったからマシだった。奇怪な目、侮蔑の目に晒されることもない。悪意が無関心に変わったのだけでも満足だった。

 でも、そんな生活もすぐに終わりを迎える。

 同級生がニヤニヤ私に近づいてきて、突然水をかけてきた。

 そのあと、かつらを乱暴に取られて、そのはずみでコンタクトレンズも外れた。

 

 それはたまたま教室に戻ってきた先生に見つかったけど、同級生はもう二度としないようにって注意されただけだった。

 私はピンク色の髪が地毛で染めても意味がないことと赤色の目を持つことを先生に正直に話したけど、それが学校で大きな問題になったらしい。

 保護者への評判が良くないとか、いじめを受ける事になる私を学校においておけないとか、ひどい話ばかりだったそうだ。

 それで出た結論が……髪を黒く染めてコンタクトをしろ……だって。

 染めても剥がれるって説明したけど、人の話聞いてくれないんだね。私ってこの髪と目がある限り人じゃないんだって思った。

 

 でも、それでも私が不登校にならなかったのは、初めて両親以外の理解者が出来たからだ。

 私をいじめから何度も守ってくれた理科の花園先生。

 学校一の美人教師で女子からは憧れの存在、男子からは注目の的、授業も面白くてわかりやすくて優しくて最高の先生だった。

 

「私は小鳥遊を守ることが出来ない情けない教師だ。だから、君が本当に辛くなったら、学校に来なくても良い。でも、君が学校に来てくれた方が私は嬉しい。」


 給食を食べる時、クラスで一人になるのが寂しくて花園先生に相談しに行った時も。


「毎回毎回、職員室は相談所じゃないぞ……昼飯はいつものところでいいかい?」


 給食を食べてる時にかけてくれたあの言葉は今でも忘れられない。


「なんで普通に話してくれるのか? 私にはそういった偏見が一切ないからね。例えば、私の友達がニートや犯罪者になっても、私はそいつに会いたいって思う。当たり前だろう。私の友達の職業やら境遇やらが何であれ友達には変わりない。そう思ったら、私の生徒がどういう見た目でどういう性格で、どういう過去を持つのかは関係ない。小鳥遊こころ……君は私の生徒だ。」


 花園先生に私はどれだけ救われただろうか。今だと思うけど、私は花園先生を先生以上に思っていたと思う。

 だってそばにいるだけでドキドキして、変な顔してないかって不安になって、胸が締め付けられるように苦しくなるけど嫌じゃなくて。

 花園先生のおかげで、私は蔑むような視線にさらされる日々にも耐えることが出来て、中学を卒業することが出来た。


 卒業式の日は泣いたなぁ。

 花園先生と離れるのが嫌で、涙が枯れ果てるんじゃないかってぐらい泣いた。

 でも、花園先生が泣きわめく私を見かねて家につれて行ってくれた。


 ここからが私の本当の物語の始まり。

 想像も出来ない未来が私には待ち受けていた。


 花園先生の車の中で突如アニメのような魔族が住む世界の映像が頭の中に流れ込んで、気づいたら私の目からポロポロと涙が溢れていた。

 

 そうして、今。

 私は何故か教会の中にいる。

 まさかここが花園先生の家? とかそんなことを思いながら周りを見渡していたら、少しうす暗い不気味さが残る祭壇に、デフォルメされたタガメの様な虫がいた。

 小さな羽をパタパタさせて、なんか飛ぶというより浮いてるって感じ。

 キョロキョロした目と短い足がちょっと可愛い。

 こんなところに来た記憶は無いんだけど……。


 「やっと見つけたよぉ〜。」


 タガメが喋った!? いや、待て待て冷静になれ私。タガメは喋らない。

 祭壇に恐る恐る近づこうとして気付いた。

 この変なタガメの後ろに誰か隠れているかもしれない。


 「どこ見てるの〜? ボクはここだよ、こころ〜。」


「どうして私の名前を知っているの!?」


 タガメの口元がちっちゃくモゴモゴと動いてるけど、スピーカーが付いているのかもしれない。超小型のスピーカーか何かがついててそれを通して喋っているのかな?


 「どうしてって〜。もしかして忘れた〜?」


 「……忘れたって、何を? 」

 

 「……やっぱりか〜。」


 なんか、ため息を付いて落ち込んでる。

 とりあえず、思い出そうとはしてみるけどこんな生き物と出会ったら絶対に忘れないと思う。

 

 「単刀直入に言うけど〜、キミは僕のパートナーなんだよ〜。」


 「待って待って、何を言ってるの? というか、あなたは誰? どこにいるの?」


 「どこって〜、キミの隣りだよ〜。」


 やっぱり、この脳天気なタガメが直接喋っているって理解しないとダメみたいだ。

 

 「ちょっと意味がわからなすぎてパニックなんですけど……。」


 「思い当たる節も無いか〜。キミもきっとこんな気持ちだったんだね〜。」


 タガメが落ち込んだ。

 その姿を見て、何でかわからないけど、ごめんねって気持ちになった。

 思い当たる節……一応無くはないけど、絶対に違うと思う。


 「もしかして……小学校の時に読んだ図鑑の写真に載ってたタガメ……とか?」


 「そんなわけないでしょ〜。ボクはキミの好物がチーズハンバーグなのも知ってるのに〜。」


 え、合ってる。

 ちょっと、怖いんですけど!

 

 「私の生徒に何か用かい?」


 「もう来ちゃったか〜。用なんてわかってるくせに〜。キミの計画を潰しに来たんだよ〜。」


 何で、こんなところに花園先生が? 

 というか、何で銃を持ってるの!?

 計画って?


 「小鳥遊。そんなやつと一緒にいてはダメだ。私の元に来なさい。」


 花園先生の元に行こうとしたら、

 タガメが私の前にかばうように出た。


 「キミにとってはそうかもしれないね〜。でも、させないよ〜。」


 「なるほど。まぁ、問題はない。お前が無力なのはわかっている。まだ世界は崩壊していないからね。」


 花園先生が銃の安全装置を外してタガメに狙いを定める。

 タガメは花園先生をじっと見つめてるけど、私はそれがあまりにも怖くて腰を抜かした。

 何が起こってるのか全然理解できない。私のために争わないで〜って少女漫画みたいな感じだけど、実際起こるとこんなにパニックになって怖くなるんだね。

 そんなことを考えてると、ステンドグラスが突然割れて、虹色に舞うガラス片の中、黒いコートを羽織って剣を持った男の人が私の前に綺麗に着地した。


 「灯台下暗しとはこのことか。こころさん、あなたに会いたかった。」


 ステンドグラスから現れたその人は私を見て泣いた。


 「どうして泣いているんですか?」


 「あなたに救われたから……。」


 初対面だと思うんだけど……。


「君にとっては初対面かもしれないけど、僕にとっては初対面じゃないよ。」


 思考を読まれた!

 

「クソニートが……。」


「仮にも元相棒じゃないか。あの時のように褒めてほしいな!!」


 その人は剣を構えて花園先生に向かっていく。

 慌てて銃を撃つ花園先生の弾丸を剣で弾いてる……。

 頭の中で浮いた疑問が新しい疑問で上塗りされて、答えが出ぬまま次の疑問で打ち消されて、今の状況をただ眺めることしか出来ない。


 「あと一歩の所で!! 邪魔をするな!!!」


 「あの時、お前に邪魔されたあと一歩を僕は今ここで踏み込む! 僕は……こころさんを救うと誓ったんだ!」


 「キミは〜こんなにも強くこころを想ってくれてたんだね。でも〜ボクはキミを許さないよ〜。」


 「ああ。それで構わないよ。でも、君なら僕の想いを受け取ってくれるよね?」


「今はそうするしかないからね〜。」


 私の知らない所で私の物語が始まっている。

 知らない男の人と花園先生が戦ってる中、タガメが静かに私の方を見る。


 「ボクはキミを〜キミがいた世界に戻したいけど〜キミはそれを望むかい〜?」


 「そんなこと……急に言われても。」


 何が起こっているのかわからない。

 タガメが早く〜と催促してくるけど、本当に何でこんな事になってるのかわからないのに望むって言われても……。

 そうして戸惑っていると、男の人が銃を足に食らい、膝をついたのもつかの間、無慈悲な銃弾を何発も撃ち込まれ、倒れた。


「お前に力を与えたのが私だということを忘れたのか! クソニート!! 小鳥遊、こっちに来なさい。かつて言ってあげたでしょう。君がどういう見た目でどういう性格で、どういう過去を持つのかは関係ない。君は一生私の生徒だ!」


「タガメ! 早くしてくれ!!」


 あんなに優しく私を受け止めてくれた言葉なのに……。

 あんなに優しい笑みを浮かべているのに……。

 何でか今の私には、花園先生が悪魔のように見える。

 この状況に疑問しか浮かばなくて、頭がもう真っ白だけど、これだけは確信を持って言える。

 あの花園先生は、私の知ってる花園先生じゃない……。

 誰かちゃんと説明してほしいけど、答えは出た。


 「私は……あなたと行く!」


「ありがとう〜。精霊タガメが限りなき想いを受け取って発動する〜。異世界渡り〜〜!!」


 タガメの小さな手を握ると、タガメが急に光りだした。

 あまりの眩しさに目を開けていられない。


「なっ!? させるか!!」


 銃声が私に向かって放たれたと思ったら、男の人が私をかばって倒れた。


「クソニートがーーー!!!」


 「長かった一歩が……やっと……届いた……。どうか愚かだった俺を……救って……ください……。君は……本当に……きれい……だ……。」 


 その言葉を最後に、男の人は倒れた。

 何がなんだかわからないけど、私は守ってくれたその人の最後に泣いた。

 知らない人の好意は気持ち悪いって誰かに聞いたことあるけど、この人は純粋に私のことを想って命まで懸けてくれた。

 気持ち悪くなんて無い。


 だから私は、真実を解き明かすためにタガメに付いていく。

 愚かだったあなたも、こうして倒れているあなたも救うために。

 これは、私が何者であるかを知るための異世界転移物語。

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