6.少林 陸の過去、阪柳 陸の過去と始まり
そして二つ目の記憶は少林 陸として生きた記憶。
地球とは違う異世界で生まれた俺は最初は自分が転生者なことに気づかなかった。
気付いたのは4歳になった時のことだ。
急に目の前の視界が揺らいで目の前が真っ暗になった。
走馬灯のように流れてくる自分の前世の記憶に驚いた。
前世を完全に思い出したというときに目を開けると俺は布団の上に寝ていた。
布団の脇では心配そうに俺の顔を覗き込む両親の顔があった。
「陸、陸!ああ、やっと目が覚めたのね...。」
涙ながらに俺の目覚めを喜ぶ母親は安心したようにその場に崩れ落ちる。
母親を支えるように受け止めた父親も口を開く。
「急に倒れたと聞いて驚いたぞ、大丈夫か?どこか痛いところはないか?」
俺は自然と涙が流れた。
こんなに両親に優しくされたことがなかったのだ。
前世の両親とあまり話した記憶はない。
いや、話したことはあったがいつも一方的な会話しかしたことがなかった。
どこかで一線を引かれている気さえした。
いつも貢路家の顔色を窺っていた両親の目に自分たちの子供を映したのは何回あっただろうか。
もちろんしっかりと育ててくれたことには感謝していたが、どこか素っ気なかった。
それでも俺がしっかりと自我を持てたのはきっと兄の涼の存在があったからだろう。
でも今、涼はここにいない。
両親から感じた温かみと、かたわれという大切な存在を失った悲しみがいっきに涙とともに押し寄せる。
いきなり泣き出した俺のことを慌てて「どうしたの?」「大丈夫か?どこか痛いのか?」と心配してくれる両親にまた涙が流れた。
それから数年の時が過ぎた。
16歳になった俺は剣の稽古をするようになった。
16歳にもなるとこの世界のことがだんだんと分かってきた。
俺が住むこの世界の名前はヴィクトゥーラといい、住んでいる国はイヨ王国ということが分かった。
そして俺が生まれた家は代々騎士をしている家で西洋の剣も日本のような刀のどちらともを使うような不思議な家系だ。
いや、この世界ではそれは普通なことらしいが前世の記憶を持つ俺にとっては風変わりな文化だと思う。
同じところで稽古をしている林 仔空と仲良くなり、今では一緒に街を歩いたりした。
仔空はどこか前世の兄に似ていていつも優しく、他の稽古をしている人達にも人気だった。
しかし、そんな日々もすぐに終わりを迎えた。
ずっと信頼していた仔空は実は他国の間諜で、情報を他国に引き渡していたのだ。
「絶対許さない!」
そう言って俺は彼を斬った。
ずっと前世の兄に姿を重ねて尊敬して、そしてまた前世のように裏切られた。
俺はもう誰を信用していいか分からなかった。
そして俺が判断を間違ってしまったと気付いてしまった時にはもう遅い。
彼は、仔空は俺に斬られる時に俺に微笑んでこう言った。
「あり..が....とう、そして...ご..めんね。陸...」
俺の名前を呼んで倒れた仔空からは血が出ていて、彼は目を閉じたままもう開くことはない。
その時気づいた。
ーー俺は人を殺した。大切だと思っていた人を一瞬にして斬ってしまった。
でも気づいた時にはもう遅い。
もっと彼のことをしっかり聞いていればよかった。
もしかしたら彼は悪くなかったかもしれないのに、一時の気持ちに任せて俺は人を斬ってしまった。
自分が許せなくなった、嫌いになった。
そして罪悪感を抱えた俺は自分で生涯を閉ざした。
それが俺の前世の話。
俺はベッドから起き上がる。
久しぶりに前世の夢を見た。
俺にとって前世の夢は悪夢でしかない。
自分の頬を両手でたたいて気持ちを入れ替えた。
だって、今はまだ彼が、涼が近くにいてくれているから。これからのことを考える必要は、まだ、ない。
学校へ行く支度を済ませるて、リビングの扉を開けると早く起きて朝ご飯を作っている涼の姿があった。
彼は俺に笑顔を向けて言う。
「おはよう、陸。今日から学園生活が始まるんだから明日からはちゃんと自分で起きるんだよ?」
「ふぁ~、おはよう、涼。...うん、ガンバル。」
まだ少し眠気が抜けない俺はあくびをしながらそう返した。
そして寝ぼけたまま食卓に着くと目の前にフレンチトーストが置かれた。
「っ、フレンチトースト!ありがとう、涼!」
甘党な俺はフレンチトーストを見たことで完全に目覚めた。
「...まったく。陸、今度作り方教えるから自分で作ってみなよ。」
「ん?俺は自分で作れるよ?」
「じゃあなんで作らないの?」
「だって、涼の作った物のほうが美味しいじゃん?」
「はぁ...。じゃあ今度から当番制ね。僕ばっかり作ってたら僕が倒れちゃうから。」
「わかった。じゃあ順番は月曜から...涼、俺、涼、涼、涼、俺、涼でいい?」
「いや、それじゃああんまり変わんないでしょ。」
と呆れた顔でこちらを見てくる涼。
「まあそんなことはいいでしょ、ほら早く着替えないと学校始まっちゃうよ?」
俺は時計を指しながらそう言う。
涼は時計を見ると少し急いで自室に向かってすぐに着替えを済ませて俺の前の席に座る。
手を合わせて「いただきます。」と言ってから急いで朝ごはんを食べている涼を見ながら俺はゆっくりとフレンチトーストを堪能しながら食べる。
「陸、そんなにゆっくり食べてると遅れるって言ったのはどこの誰?...人のこと言えないじゃん。」
「ん~、別に少しぐらい遅れても...」
話を続けようとしたが涼がそれを遮る。
「ほら、行くよ。片付けはお母さんに任せよう。ね?お母さんいいよね?」
いつの間にかに起きてきたお母さんがドアの前に立っていた。
「わかった。いつも涼には朝ごはん作ってもらってるからそれぐらいはしないとね~。」
と言って空になった皿をさっさとキッチンのところに持っていく。
俺は最後の一個を勢いよく飲み込むと椅子から立ち上がった。
同時に涼も立ち上がって玄関の方へと向かう。
靴を履いていると後ろから声がした。
「お前たち今日から学校か。元気にやって来いよ。」
といまさら起きてきたお父さんが言う。
俺たちは頷いて「行ってきます。」と言うと玄関の扉を開けた。
マンションに住んでいるのでエレベーターで1階まで降りる。
エントランスホールから外に出ると春の日差しが俺たちを照らした。
これから始まる学園生活を想って俺たちはまた一歩踏み出した。
次回の投稿は来週の日曜日の20時です。次回からまた新しい人の話になります。




