5.北東 陸の過去
俺には前世の記憶が2つある。
一つ目は地球で過ごした記憶、二つ目は異世界で過ごした記憶。
北東 陸、それが一つ目の前世の名前だった。
北東家は代々貢路家に仕える一つの家で家紋には白菊が描かれている。
そして俺には双子の兄がいた。
名前は北東 涼、俺たち双子はいつも一緒、それが当たり前だった。
ある日、貢路家の集まりに呼ばれた俺たちは貢路家の屋敷に行くことになった。
その頃の俺たちは確か10歳ぐらいで貢路家の屋敷に行くのは初めてのことだった。
「陸、大人しくしてるんだよ。」
涼は俺が暴れるとでも思っているのか、そう口にした。
「わかってるよ。涼、君も大人しくね。決して貢路家の人に迷惑はかけないように。」
涼は笑って答えた。
「そうだね。」
車が屋敷につくと俺たちは車から降りた。
貢路家の屋敷は和風なところもあれば洋風なところもある、そんな不思議な屋敷だ。
今回俺たちが向かったのは洋風の屋敷がある「百合の館」に行く。
屋敷の中に入ると広い玄関ホールが広がっていた。
奥には両サイドにサーキュラー階段がついていて照明にはシャンデリアが設置されていていた。
誰もがここは日本ではないだろうと勘違いしそうなほどの綺麗な屋敷だ。
真ん中には現当主の貢路 将十郎様が笑顔で俺たち家族を出迎えていた。
「よく来たな。さあ、疲れただろう。部屋は用意してある。ゆっくりと休んでくれ。」
「将十郎様、お久しぶりです。お言葉に甘えて休ませていただきます。」
俺たちの父親は俺たちに目配せする。
俺たちは将十郎様に礼をとると屋敷の使用人が来て泊まる部屋まで案内をしてくれた。
部屋は両親に一つ、俺たち双子に一つと合計2つ用意されていた。
両親はこれから大人同士の話し合いがあるのだとかで用事があるそうだったが俺たちにはなかったのでとりあえずさっき入る前に見えた庭に行ってみることにする。
ここの庭は貢路家の親戚たちの中ではかなり有名な場所で、四季折々の様々な花がどの季節にも咲き誇っている様はいつ見てもきれいだと言われていた。
実際見たことがあったわけではなかったので見てみたかったのだ。
そこで不思議な花を見つけた。
「これは、菊の花?」
涼も不思議に思ったのかそうつぶやいた。
「それはスプレーマムという花よ。」
後ろから少女の声が聞こえたので驚いて後ろを振り返る。
そこにはミルクティーブロンドの髪に藍色と月白色をグラデーションの瞳をした少女とグレージュの髪に紺鼠色の目をした6歳ぐらいの男の子が立っていた。
少女が微笑んでいるのに対し、男の子は少し警戒した目で見ていた。
「あなたは、愛珠海様、それに弓弦様ですか?」
俺も2人の名前は知っていた。
貢路家の長女、愛珠海様と次男、弓弦様は貢路家の本家の人でとても有名だ。
分家生まれの人は必ずと言っていいほど知っている人物の一人だ。
「うん、そうだよ。二人ともぜひ仲良くしてね。」
見た目は西洋風なお嬢様に見えるのに砕けた口調で喋っていたので驚いた。
「君たちは確か、北東 涼に北東 陸だったよね。」
今まで黙ってみていた男の子、弓弦様が話だす。
「はい、そうです。僕たちは今回の集まりに呼ばれたのでこの屋敷に来ました。」
涼は4歳下の子供に丁寧に話す。
「敬語は大丈夫よ。敬語で話さられると返答の仕方に困ってしまうのよね。あ、私のことは愛珠海って呼んでね。」
彼女は困ったようにそう言った。
「僕のことも弓弦でいい。」
そうムスッとした顔で言う。
「わかった。愛珠海、弓弦よろしく。俺のことは陸って呼んで。こっちは俺の兄、涼。」
涼が混乱した顔で固まっていたので代わりに俺がそういう。
11月の寒い空気が風に乗って前を通り過ぎる。
「お茶でも飲まない?ここは寒いでしょう?」
彼女はそう提案する。
その後彼女の提案通りにお茶を飲みに屋敷へと戻った。
それからたまに彼女たちと遊ぶようになった。
みんなで遊ぶのは楽しかった。
でもそんな楽しい日々は続かなかった。
彼女が16歳を迎えるという日の一週間前、彼女は亡き人になった。
その知らせを聞いた彼女と仲良くしていた人たちは皆涙を流した。
数日後に彼女の火葬のために人が集まった。
彼女の両親は海外にいてなかなか帰国できなかったので参加していなかった。
誰もが彼女の笑顔に救われてきた。
そんな救いの彼女は、もういない。
一番ショックを受けていたのは彼女の家族たちで、しばらくの数年間は一度も彼女の家族と顔を合わせることはなかった。
久しぶりに親戚が顔を合わせたのは長男の優志の成人式の日だ。
俺たちも成人する年だったのでもちろん成人式に参加した。
久しぶりに会った友人は変わっていた。
見た目は確かに変わっていたが一番変わっていたのは何か、そう雰囲気のようなものだ。
何かを決心したような、何かこれからの目標を見つけたような、そんな雰囲気をまとっていた。
もちろん俺たちもかなり変わった。
元の性格はあまり変わっていなかったけれども数年前の自分より大人になった気がする。
そして時は過ぎて、俺達双子が24歳になる時、涼は忽然と姿を消した。
一つの手紙を残して。
―陸へ
僕は帰らぬ旅に出ることにしました、どうかお元気で。
涼
そう一文書かれた手紙がただ机の上に置いてあるだけだった。
涼が行方をくらましたというのに俺の両親は探そうとしなかった。
手紙を見せると悲しそうな顔をするだけ、決して彼を追うことはしない。
俺は涼を何年も探したが、とうとう見つからなかった。
まるで今まで涼は生きていなかったみたいに。
俺の兄は存在していなかったみたいに。
俺は一人、自分の部屋で涙を流した。
俺はそのまま北東家を継いで、87歳という歳で生涯を終えた。
これが一つ目の記憶。
スプレーマムの花言葉は「清らかな愛、高潔、気持ちの探りあい」などがあるそうです。次回の投稿は来週の日曜日の20時です。




