17.篭野宮 遥の過去
俺には前世の記憶がある。
前世の名前は篭野宮 遥、今世の名前は宮園玲於。
俺は前世を双子の兄として生きた。
毎日長男だからと言われ、部屋に籠らさせられた。
普通の子供の幼少期の遊びの時間を勉強の時間にすり替えられた俺は常識を知らず、知ろうともしなかった。
周りも当たり前のようにそれをこなしているものだと思っていた。
だって、遥も同じことをしていたから。
双子の俺達はどちらが家督を継ぐかという話は大人になってから実力で決めると言われていたので小さい頃はまだ決まっていなかった。
俺は最初は篭野宮 玲於として生きていた。
しかし、その生活も一瞬にして終わりを迎えた。
ラベンダーが咲く庭で二人で歩いていた時にふと『遥』が呟いた。
『もし、俺がお前だったらよかったな』
その時、俺は遥になることにした。
最初は単に興味を惹かれたのと、面白さを求めたことから始まった。
俺はその日から『遥』になりきった。
そして、『遥』は玲於になりきった。
元々俺達は双子でよく似ていた。
顔も考えていることも、好きなことも全てが同じだった。
親は俺たちに見向きもしない、だから俺たちはお互いを求めた。
俺にとって世界は『俺と遥』だった。
二人だけいればそれでいいと思った。
お互いを求めあった結果性格も似た、筈だった。
最初は違和感なく俺たちはお互いを演じた。
そして、いつしかその人格は自分へと変わっていた。
しかし、周りは全く俺たちが入れ替わったことに気付かない。
前世でたった一人だけ俺達を見分けた人がいた。
「なんで名前が逆なの?」
俺達は驚き、動揺した。
なぜバレたのだろうか、俺たちはこのことを誰にも話したことがないはずなのに。
「何のこと?」
俺は『遥』が言いそうな言葉を選んで聞いた。
彼女は俺達の方を見て笑みを深くした。
俺はその笑みにゾッとした。
何かを見透かされているような、何かを知っているような、そんな不思議な感覚がした。
そして俺達が何も喋らずにただ黙って彼女を見ていると彼女はさっきとは違う微笑みを浮かべて言う。
「そういうことだったんだね、じゃあ何も言わないね」
そこで彼女は、愛珠海は何かを知ったのだろうか、その場限りで彼女はその話題を出さなくなった。
だから、それが何かなのはわからない、ただ事実として分かるのは俺達が入れ替わってることは誰にも言わなかったということだけ。
元々家同士の絡みで遊んでいたのでその後も友人として過ごした。
しかし、彼女は16歳になる1週間前に命を落とした。
突然の彼女の死の知らせを聞いて驚いた。
何度も見たミルクティーブロンドの髪をいつも風になびかせて歩いている彼女はもうどこにもいなかった。
知らせを聞いて彼女が入院していた病院へと行った、半分信じられない気持ちを抱えながら彼女の病室の中に入る。
ベッドの脇で彼女の手を掴んでひたすら泣いている彼女の弟とその隣で口を強く結んで立っている彼女の兄、病室の手前で崩れ落ちる彼女の従兄の姿が映った。
今まで抱いていた「彼女が生きている」という希望はその場の状況と彼女の横に置かれた心電図で打ち砕かれた。
ただ0の数字と共に一本線を引く心電図はまるで最初からそうであったかのように、当たり前のように映っていた。
その光景を見ていると視界がぼやけてきた、視界がぼやけてある程度の色の判別しかできない『世界』にただ鼻をすする音と心電図のピーという0を知らせる音だけが聞こえた。




