第二十三話 孤独は変貌しゆく
スイリュームの傷は、シャンデリアで痛々しく輝くが、今は微塵も覚えていないようである。笑顔を作りまくって、話している。
いい感じじゃねーか。
「スイリューム、晩餐会が始まるよ」
「お、おう」
スイリュームは女らしからぬ男らしい返事をこちらに返した。ジェボールは取り敢えず先程の話が聞かれていないかを確めるために訊いてみたのだが、今のところ違和感を感じられているような反応も返されてはいない。し、まだ今のところ純朴な目をしている。
ジェボールはミネルバの話がいささか信じられなかった。何度も言うが、現実を認められないのだ。自分の情が邪魔で。今まで、結構あったし、これからもあるであろう。
ーー情が、こんなにも情が。
晩餐会の前、会場の『神の間』では、たくさんの使用人が慌ただしく働いているし、スイリュームはヴォレリアといささか早い団欒を行なっている。
そんな空気感の中、ジェボールは一人孤立し、独りぼっちのような喪失感に駆られた。
ーーミネルバさんは、どーしてんのかな〜。
ミネルバは、台所に行くわと言ってから、姿を眩ませていた。
★⭐︎★⭐︎
ミネルバは、薬瓶を前に悩んでいた。台所にある塩壺と同じ柄の壺に、塩のような見た目の特殊な毒薬粉末を入れていた。その中のスプーンいっぱいの粉を、取る。
これで、ヒョロヒョロの人一人は二十三時間で死ぬ。巨漢のゴリマッチョだったら百二十一時間で死ぬ。そう言う毒薬である。
ーー先代より引き継ぎし、薬。今、使うべきよ。
ミネルバは、使用人がこちらに運び入れてくれたサラダのような料理に、塩に見えるようにその粉を振りかける。スプーン擦り切れいっぱい。
ーーあの女らしからぬヒョロガリ体型は、おそらく二日以内に死ぬ。
怪しい目でそのスプーンを睨みつけ、その後サラサラとその粉を振りかける。塩も少量混ぜておき、味も違和感ないようにした。しかし死ぬ量を摂取するには一人前丸々を摂取しなきゃならず、食えなきゃ結局は意味がないんだ。
いやでもこれでいいんだ。自分を信じて、正しいことをしているんだ私は。
自己暗示をかけにかけまくり、もはや本当の自分の姿がわからなくなりかけているところである。
「ああもっと頂戴。ゼリーに」
使用人に静かに命じて、ゼリーを得る。
ミネルバはゼリーに少し赤色を混ぜた。自分の血を混ぜて、少しでも塩っけの違和感を無くそうという作戦である。
ーーこれは取り敢えず、苺味とか偽ればなんとかなるでしょう。
ミネルバはゼリーを固めるために容器に移す途中に、ミネルバはふと行動を止めた。手も目も、彼女の全てが止まってしまった。
それは彼女の脳裏に一瞬よぎった、正しいのかという五文字の端的な言葉、疑問によるものであった。違和感を、自分に対して抱いてしまった。
ーー私は何をやっているの。人を殺すなんてして、何になるの。
ーーいいや、これが先代の成すことのできなかった義務をなすためにひつようなことな成すために必要なことなのよ。仕方ないことなのよ、運命なのよ。
今、彼女の脳内では天使と悪魔が戦っている。悪魔はこのまま行動を続けることを勧め、天使はこの今している行動をやめて引き返すことを勧めているのだ。
葛藤。しかしその感情と相対的にやってくる感情が、彼女の心を大きく揺るがせた。
孤独。喪失感に近い、孤独。殺したら、身近な人を殺したような喪失感に襲われる。
ミネルバは、サラダを捨てて、新しいサラダを生成してみた。味に塩も追って足して、なるべく本家様に近い味に仕上げてみせる。
ーーこれでいいんじゃないの、これがいいの。
血を混ぜたゼリーも自力で廃棄し、こちらはゼラチンにイチゴを混ぜて湯に溶かし、自身の魔術で冷却する。これがいいんだ。
もう殺さない。先代の霊に祟られても、もういい。
孤独は、孤独は……、
★⭐︎★⭐︎
ジェボールは、ヴォレリアの話を盗み聞きすることにした。暇だし、孤独感を紛らわすために、ちょうどいい。
「あのさあ、俺さ、一緒に賭けしないかい?」
「いいよ、いいよ、どんな賭け?」
「スイリュームの方が料理を多くの量食えたら、僕は今日の晩餐の後片付けぜーんぶやったげる。スイリュームの分も、王子の分も、み〜んなの分も。俺が全部下げてあげる。でも、スイリュームが負けたら、俺が提案した分を、全部君にやってもらうよ」
ジェボールはその話を聞いた時、なんだかぽわんと心があったまってしまったような気がした。
孤独が、満たされていく。




