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なんか小説でも考えよう。
「どうして私の名前を忘れてしまったの?」
フィーちゃんがお怒りである。というのも存在は覚えていたものの、名前は忘れてしまったため、なんだったかなとわざわざ探して読み返したのだ。釣り関連のなんとかだったのは覚えていたのだが、結局どんな名前にしたのか覚えてなかったのだ。ごめんね、フィーちゃん。
「ぷんすか。しかし許しましょう。あなたはわたしにまで怒られることを望んでいないですからね」
ついでにいうと、気づけば二百話をこえていたようだ。二年近くやっているはずなので、本来なら五百話以上あるはずなのだが。そこはまあ逆にね、今でも書いていることを褒めてあげよう。フィーちゃんほめてー。
「えらいえらい」
さて、ではフィーちゃんに小説の屋台骨を釣り上げてもらおう。
「ヤシの木。カービィ。変色する流体球」
いやカービィはまずいでしょ。
しかも変色するなんとかって、私の中の混沌のイメージをそのまま釣り上げてしまっているよ。そのままではアレなので、ちょっと加工しよう。
カービィはそうだな、平和、あるいは星の戦士、大食い、吸い込み。キャライメージが多すぎてやりにくい。混沌のイメージは万能、あるいは単純な混乱としよう。
先ずヤシの木といえば、白い砂浜にきらめく太陽、そうそれは南国の海辺。 舞台はそこから始まる。ならば舞台は現代だということだろうか。いや異世界でもそれぐらいあるかもしれないが、あんまり異世界のものでそういう南国ビーチ的なのでてこないイメージがある。
しかしこっからどう物語をつくろうか。何も思いつかないぞ。
沖縄の修学旅行。中学生最後の思い出をつくろうと、クラスメートたちは全力で楽しんでいる。もちろん僕も、そうしようとした。でも夜になって、一人馴染めずにこっそりと抜け出してしまった。
悶々とした心を静めるように、一人砂浜を踏みしめる。
夜の砂浜は月明かりに青く、海は闇がうごめいているようでこの世界のものとは思えない景色だ。
「母さんね、離婚することにしたの」
受験が終わった僕を待っていたのは、そんな言葉だった。
何を言っているのかわからなかった。
父と母は、確かに仲が良かったわけではない。それでも、仲が悪いようにも見えなかった。だから僕にとってその告白はまさしく青天の霹靂であった。
「なんだよ。僕のことはどうでもいいのかよ」
そんな愚痴がこぼれてしまう。
誰にも言えないから、こんな場所で一人吐き出すしかないのだ。
高校生になったら、やりたいことがたくさんあったんだ。
アルバイトをして欲しいゲームを買ったり、彼女作ったり、友達と旅行にいったり。でもそれらすべてが、近くまできたいたはずのそれらが、どこか遠くへ行ってしまったかのようだ。
真っ暗な海辺から見えるホテルの部屋の明かりは、こちらとあちらを隔てているかのように感じる。そこから友人たちの笑い声が気こえるような気がして、嫌な気持ちがぐるぐると渦巻いて胸につっかえる。
なんで、僕はこんなに苦しい思いをしているのに、彼らは当然のように笑っているのだろう?
ちらりと、見上げる視界のさらに上できらめくものがあった。
「…え?」
いつの間にか夜空は宇宙になっていた。
赤、青、白、宝石箱のようになった夜空の中、宇宙雲を掻き分けて蒼い流星が閃光となって一際輝く。それは僕が何かをする間も許さず、一直線にこちらへと進んできた。
大きくなる光の奔流。塞いだ目蓋すら突き破るような強烈な光。
尻もちをついたまま茫然とする。
何が起こった?
幻覚?
僕は大丈夫なのか?
「おいオマエ」
カラカラと、人間らしからぬ単調な声。
けつまずいた僕の胸元にそいつはいた。
「オマエはこの星の生命か? なら幸いだ。ワタシを手伝え」
金色の、蛇?
右目はエメラルド、左目はルビー、鱗は黄金。
光もないのに、きらきらと主張が激しい。
「ワタシは価値を喰らうモノ。オマエの価値をワタシに寄越せ。代わりに、この世界を救う手伝いをしてやろう」
この奇妙な出会いが、僕のすべて価値観を覆す、すべての始まりだった。
これは僕だけの、夢を追いかける物語だ。




