第6話 新たな遭遇
オレたち第一戦隊は輸送機でまた中東に向かっていた。エリーの拉致事件から徐々に戦争が和平路線に成りつつあった。普通なら"報復"をして泥沼化すると思ったが、そこをエリーのお父さんが回避したらしい。副大統領であるお父さんはエリーから中東の実情を聞き同盟国内にあった最後の"強硬派"を抑え、同盟国を完全に和平路線へと切り替えたのだ。それを成し遂げれたのは、中東側にも同じ志しを持った協力者がいたからでもある。まぁそれを知ったのはもっと先であったが。
『そろそろ前線基地に到着します、着陸準備して下さい』
何か聞き覚えがある声な気がする………
やっぱ安全圏だからなのか丁寧なアナウンスだった。
輸送機を降りて作戦室に向かう
「なぁ谷口」
「何ですか先輩」
「オレたちって本当"何でも屋"だな」
「先輩、今回の派遣は先輩が悪いんですよ」
「何でさ?」
「アルマン大使を怪我一つなく救出した英雄って噂になってるみたいですよ」
「あれはオレ"たち"の活躍だろ?」
「身を呈してアルマン大使をお守りした"ナイト"様じゃないですか。少なくとも副大統領は感謝してると思いますよ」
「そんな命の恩人の"ナイト様"を死地に送り込むか普通」
「期待してるってことでしょって着きましたよ」
輸送機から基地司令室まで直で来た。途中で装備を置いて来たかったが、司令官が早く顔を見たいとのことで輸送機から降りたら直ぐ迎えのジープで滑走路を横断し司令管制塔まで来た。
この基地には同盟国の多国籍の部隊が集まっている。航空戦力、地上戦力共に十分な数がひしめき合っていてあっちを向いては戦闘機、そっちを向いては戦車、またあっちを向いたら…美人な外人兵士がいる。男臭い兵隊生活のちょっとした目の保養だ。
「よし、お喋りはここまでだ。気を引き締めろ」
「了解!」
千葉隊長が作戦室をノックした
「第一戦隊、千葉二尉以下4名入ります」
作戦室には現地同盟国部隊の司令官ウォルフ大佐と補佐兼通訳係の辻三尉に中東側の和平派議員アブドゥル議員がいた。
ウォルフ司令より切り出された
「よく来てくれた英雄達!話しは副大統領がら直々に伺っているよ!ガッハッハー」
「……(千葉隊長と同じ臭いがする)」
「はっ!我が第一戦隊には"期待"の英雄がいますので迅速に作戦を遂行しましよう!ワッハッハー」
「……(マジか、話しに乗っかったよこの人)」
ウォルフ司令官がオレを見た、屈強な叩き上げの兵士って感じだ。
「そちらの兵士が噂のか?」
「……篠崎二曹です!」
「……プっ」
谷口が吹いた。
「……(谷口……あとで覚えてろ)」
「君のことは副大統領から『シノザキハ、ムスメノフィアンセダ。イロイロタスケテヤッテクレ』とのことだ。玉の輿だな!ワッハッハー」
「はぁ…(エリー……お義父さんに何て説明したんだよ……)」
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あの後、案の定千葉隊長とウォルフ司令は意気投合し作戦終了したら一杯やる約束していた。
オレたちは辻三尉に倉庫まで連れられてきた。
倉庫の中には見たことがない兵器があった。
大型装甲ホバークラフトみたいなモノに人型ロボットの上半身が載っかっている感じ?
まるで宇宙世紀に出てくるロボットみたいな…
辻三尉がそやつの前に来てオレたちに振り向いた。
「これが日本が開発した新型兵器のコンバットタンクだ、今回の作戦では陽動として他の機甲科と連携し敵の機甲戦力を撹乱、殲滅する。こいつの性能についてはTC計画のスミルノフ開発主任から説明をもらおう……」
コンバットタンクの傍にあった計器からピョコンって感じで可愛らしい女の子が出てきた。こちらからは計器に隠れていたため見えなかった。女の子は後ろにまとめた綺麗なブロンドを揺らし白衣をヒラヒラさせながら近づいて来た。
これは父親は将来心配で子離れ出来なくなるレベルだ。端整に顔が整っている。今から将来は美人になるのが想像つく。多分ハーフか。
「初めまして!TC計画の開発主任をしてるマリア・スミルノフです!」
元気一杯な女の子だ。
「今、目の前にあるのはJ:CT―01イカズチです、これはアウトレンジより敵をやっつけて敵陣地に進行し制圧するために開発されました。主に拓けたとこでの地上戦を想定されていますので今回の作戦にはピッタリです!」
開発主任からの説明を聞いて思った。こんな奴が攻めてきたらビビる。なんせ観たことないからだ。人間みたことないモノが目の前に現れたら腰が抜けてしまう。
「あと、装備を換装することで強襲揚陸もこなせるんです!長時間でなければ水上でも戦闘も出来ちゃうんです!凄いでしょ!」
ほう。それは凄い。でも、なんでロボにする必要があるんだ?っと疑問に思った。そしたら西曹長が手を上げた。
「何でロボットなのですか?こんなに高さがあると敵からは目視されやすく被弾率も高くなると思うんですが…」
そりゃ当然な質問だ。地上戦の花形である戦車で例えるなら如何に敵に発見されず、車体を低くし敵の弾を避けれるかが重要になる。こんなに背が高い必要がないはず……はずなのだ。
「一言で言ったらロマンです!」
「………」
「………」
「………」
「………」
「ほぅ。ロマンイイね〜」
千葉隊長だけが同意した。
「じょっ冗談ですよ!……」
いや、かなり本気だった。
「きちんと利点はあります!そもそもがアウトレンジからの攻撃なので、高さはデメリットにはなりません。高さを生かして索敵範囲、距離が広がり敵に発見される前に倒せます!あと、威圧感です!まだ実戦には出していないので初めて観るわけです!チビりますよきっと!」
こんな可愛い子がチビるとか言ってるよ。
「このイカズチ一機で機甲戦力一個中隊規模を相手に出来るんです!あとですよ!あの腕!あれは画期的なんです!あれで武器を保持するし、モノによっては白兵戦も出来るかも!」
兎に角、凄い兵器だってのは伝わってきた。
「イカズチはですね、砲手とレーダー要員と操縦手の計3名のパイロットで動かします。そうすることでパイロットに掛かる負担を分担することで各種武装を使いこなせるんです!」
新しいオモチャを与えられた子供のように目を輝かせながら説明してくれるが、一体この子は歳いくつなんだろうか。
「スミルノフ主任、イカズチの性能については分かりました。ちょっと話がそれるんですが主任は今いくつですか?」
大体、新しい兵器を作るのに数年はかかり、その後に制式化するのだからそれなりに時間がかかるはず。
「18歳ですが…」
マジかー。天才少女かー。
「え〜、スミルノフ主任は若干13歳で工学科を専攻し大学院を飛び級で16歳にして次席で卒業した天才で、将来有望で今は天道重工に在籍している」
横から辻三尉が説明してくる。要は天才ってことだ。
「あと、皆さんT:ASの装着戦闘訓練はしてきましたか??」
「それについては、篠崎二曹が一番いい成績を出しました。自分を含めた他についてはスミルノフ主任が出していたボーダーラインは一応クリアしています」
千葉隊長がT:AS装着戦闘訓練について答えたが、オレはT:ASなんて必要ないと思う。あれは必要以上に強力だ。
"タクティカル・アシスト・スーツ"略して、T:ASだ。
今は軍事用から福祉用具まで幅広くパワーアシストロボットが開発されているが、現行の軍事用パワーアシストスーツも精々背負う力や歩く力、持つ力をアシストする能力だけだ。
しかし、このT:ASはパワーアシスト以外に"俊敏性"が凄い。反応アシストが早い。上手い具合にいくと通常動作の約2倍以上の速い動きが出来る。オレがいい成績を出したのが格闘戦だった。T:ASが一番性能を発揮するのは近接格闘戦だと思ったが、谷口や寺井二曹は射撃アシストとマッチしたのか射撃訓練で好成績を出した。
千葉隊長と西曹長は全体的に能力が向上していた。このT:ASは背中にあるバッテリーが動力源のため、バッテリーが切れたら重たい鎧を着てるように動きが鈍くなり余計な装備となる。実際には装甲はなく、アクチュエーターの人工筋肉に申し訳ない程度にセラミックプレートで被弾から保護するだけ。
なので、戦闘防弾チョッキを装着した状態で使用する。
「なんで皆さんに最新技術の一つであるT:ASを支給したかといいますと個人的なお願いです!」
は?って顔になってしまった。スミルノフ主任の個人的な願いでオレ達第一戦隊に最新装備を支給できるのか?たかだか、18歳の女の子のお願いで?
「……今回の保護対象となっているタルーム王子とは家族ぐるみの間柄で……その…母様の母国で作ったT:ASの試作品をですね……この前遊びに行った時に王子が気に入ってですね……煽てられて10着程プレゼントしたんです……」
「と、言いますと?」
千葉隊長が聞き返した。一国の王子と家族ぐるみの関係って一体スミルノフ主任の親は何者なんだ?
「……タルーム王子を襲撃した強硬派がその試作機を奪取した可能性もあるんです……」
おいおい。何やってんだよ。
「で、なぜ王子は試作機を欲しがったんでしょうか?」
千葉隊長の疑問は当たり前の質問となった。
「タルーム王子はあれでバスケをしたら楽しいだろうって……」
バスケ目的に試作機を10着も……。
「試作機は軍事用に転用出来るってことですか…」
「元々が軍事用に作った試作機なので、パーツを付け替えるだけですぐに軍事用アシストスーツになれます。ですが、制式化されたT:ASよりは性能は劣ります!だから皆さんにはT:ASを装着すると何も問題ありません!」
スゲー腕組みして仁王立ちして自信満々に言ってるよ。
「そうですか、自分達はまだ訓練時間は短いのでT:ASの力に依存はしないつもりです。いつも通り派手に陽動をしてもらいその間に王子を保護します」
「と、いうことだ。だから皆にはこのコンバットタンクを紹介した。これがあれば敵の主力を陽動するには十二分に発揮するだろう。それでは、あと3時間後に作戦開始するので第一戦隊は準備に入れ」
「了解」
千葉隊長の敬礼にならいオレたちも辻三尉に敬礼した。
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今回、中東の強硬派が起こした事件はこうだ。
中東側の議会の半数以上が和平案を支持するようになり、次第に戦闘回数が減り両勢力が歩みよろうとしているところに残された強硬派をけしかけた存在がいた。
強硬派に武器や弾薬、機甲戦力を提供していた軍事産業勢力だ。
しかし、軍事産業が一方的に悪いとは言い切れない。
人が戦うのに武器を求めるから誰かが武器を作る。武器は戦いがないと売れない。儲けようとすると、どこかで戦争が起こるようにけしかけるなんていうのはすぐ考えつく簡単な構図だ。
ただ、誰かを傷つけようと他人に武器を突きつける者が悪いのだ。オレはそう考える。
和平案を中東議会に広め、欧州側とパイプを持つタルーム王子が狙われる形となった。
しかし、今回の襲撃には誤算があった。元々タルーム王子は型破りな一面があった。
その一つとして中東にいる王子の中でもダントツな軍事オタクだったのだ。タルーム王子の所有している広大な敷地のあちこちに攻撃ヘリや戦車、装備品の展示館があったり、普段タルーム王子が生活している宮殿にはシェルターが備わっていたのだ。
現在、タルーム王子派はそのシェルターに立て籠っている。
なぜ、タルーム王子派は中東正規軍に救援依頼をしなかったのか。……しなかったのではなく出来なかったのだ。
同盟国軍との戦闘で主力の殆どを失った中東正規軍には各地の治安を維持するための力しか残っておらず、タルーム王子救出に出せる戦力に余裕がなかった。
正規軍が躊躇する程の戦力を敵は持っているということだ。
強硬派はマジどんだけの資金力持ってるんだよ。
作戦開始1時間前、第一戦隊はT:ASを装着しブリーフィングルームに揃った。オレから観ても皆いつもより何とも言えない緊張感を漂わせていた。
千葉隊長が作戦内容を説明し終えて沈黙が部屋を支配する。嫌な雰囲気だ。いつもなら谷口が軽口を言って場の空気を和ませるのに……谷口が暗い。
「皆、いつもと違って緊張してるな」
千葉隊長が切り出した。
「今回は新装備のT:ASを装着しての初めての実戦だ、おまけに敵さんも試作のアシストスーツを手に入れてる可能性がある。どんな戦闘になるか正直想像つかん!しかし!俺達は今まで沢山の戦地を経験し生きて帰って来た!それはどうしてか!?」
「オレ達が最強で精強だからです!」
千葉隊長の鼓舞に乗っかった。
「そうだ!俺達は最強で精強の誇り高い自衛官だ!俺達の使命はなんだ!?」
「国民の生命を守ることです!」
次は谷口が乗っかった。
「そう!国民の生命と財産を守ることだ!俺達は戦争を終わらせれるかの瀬戸際にいる!無駄な血を流さないよう、俺達が早期終結の足掛かりを作る!そのためにタルーム王子を救出する!皆気合いを入れろ!!」
「はい!」
少し気合いが入った。
谷口は……何かさっきよりやる気スイッチが入ったみたいだ。カチッとな。親友であり姉ちゃんの彼氏だから死んでは欲しくない。やる気がでて何よりだ。
「では、曹長。武器、装備点検後乗車開始!」
「了解!各自、武器装備点検!」
西曹長の号令に合わせ全員が点検動作をした。
今回は89小銃ではなく、全員がMINIMIを支給された。T:ASのアシスト能力から少々装備重量が上がっても負担は少ない。相手もアシストスーツを使ってくることが予想されるため、どんな大型銃器を使ってくるか分からない。それなら個人単位で火力を上げて対応することになった。
「武器、装備点検終わり!乗車準備完了!」
「では、全員乗車!」
これからオレたちはまた戦地に赴く。人間同士の愚かな戦いに早期終結を目指して。