第59話 内通者
ポルータ村では家屋が密集している所から離れた場所に自衛隊の大型野戦テントが張られている。
野戦テントの周りには第二戦隊の隊員達が警戒態勢で番をしていた。
この中には重要な装備と資材が搬入されている。
異世界に渡り、日本の脅威であるオーガ勢力と戦い、殲滅するために開発された主力であるコンバット・ウォーカーが動作不良を起こしていたことで、専用セミトレーラーからリフトアップされずにそのまま横に寝かされたままの状態である。
要は役立たずな状態なのだ。
この状況を打開するため、開発者主任のマリアは施設科整備員達と汗を流しながら対応に追われていた。
「柳曹長、次はこちらとそちらのボルトを外して下さい」
マリアは手に持っていた整備図面から隣にいる柳曹長に指示を出していた。
「おし、わかった。 野郎共!次はDの5番とCの5番のボルトだ!」
『了解っス、おやっさん』
「だから、おやっさんって呼ぶな!」
「フフフ、本当に整備員の方達は仲が良いんですね」
「嬢ちゃん主任よ、本当にそう思うかい?」
「はい。 皆さん、本当に柳曹長のことを尊敬しているんだと思いますよ? 日本のある地域では上司をイジルのは尊敬の想いを込めていると聞いたことがありますが?」
「よく知ってるな嬢ちゃん主任は」
「研究室では周りは殆んどの方が年上で、周囲は10代の私のようなチンチクリンな者が役職が上で、皆さんは私との関わりを避けているようでしたから、ここの整備の方達と柳曹長の関係が羨ましいです」
マリアは複雑そうな表情を浮かべた。
「そうかい。 そりゃ、さぞかし居ずらかっただろう。だけどな、嬢ちゃん主任。 俺には研究室がどんなもんでどんな所かは分からんがな、ここには嬢ちゃん主任をチンチクリンな女の子だけど天才で可愛らしい年相応な仲間だと思っている連中しかいないバカな集まりだ。だからな、人ってのはまず自分から殻を破ってみないと意外と自分が"壁"を作っていたことに気付かないもんさ」
「……私が壁を?」
「あぁ、現に年がうんと離れた俺とは普通に話して世間話もできてるじゃないか?」
「あっ……!」
「これはお節介かもしれんが、多分互いを尊重し合えるのが大事なんだ」
『あー!おやっさんが主任を口説いてるぞ』
『マジかー!?俺達の癒しだぞー』
『主任、あとで俺達ともお話しましょうー』
「ほらな、これは嬢ちゃん主任が俺達、整備員を尊重してくれているから受け入れられてるんだ」
「そっか……まずは私から歩み寄らないと相手は私がどんな人間か分かりませんよね」
「そういうことさ、まぁ老人の戯言さ」
「……やっぱり、柳曹長は慕われていますね」
「慕われているか……まぁここに居る奴らは俺が手塩にかけた可愛い息子達だからな」
『おやっさーん!そういう事は直接俺達に言うもんですよ』
『違う違う、恥ずかしくて言えないだけだって』
『違いないなハハハ』
「ほら、お前ら。 ぼさっとしてないで早く仕上げろ!バッテリーの交換作業が終わらないと王都に行けないぞ」
『『へーい』』
(やっぱり柳曹長は凄いなー。私もあっちに帰ったら研究室の皆さんともう一度きちんと向き合ってみようかな)
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浩司とリーナ、そしてフェデリオとマリンはテーブルを挟み、向かい合う形で応接間にて会談をしていた。
「では、これで手続きは終わりだ。 あとは諸々あるがそちらは私とマリンが調整しよう。これで晴れて領主の権限は委譲は出来た」
フェデリオは机に並べられていた書類をまてめて封をした。書簡にはベンダー家の刻印がある。
ベンダー家は元々爵位を与えられていないが村一つの統治を任されるやや特殊な家柄である。
浩司は領主としてポルータ村を自分の領地として編入する手続きをした際に初めてこの事実を知った。
「うん?……何だか腑に落ちない顔をしているではないか"領主殿"」
「いや、何て言うか……その……色々と考えちゃって。 正直、フェデリオさんがリーナの剣の師匠だったことにも驚きました」
「ハハハ、君は正直者だな。 さぞかし君の目には初めて私と会った時はただの田舎の村を代表する村長にしか見えなかっただろう」
「浩司殿、お師匠様は普段はお優しい方ですが、剣を握ったお師匠様は最狂なんですよ」
「若い頃はな、今はそんな元気もないさ。 だから、紛い者らの侵攻を阻止できなかった挙げ句、お前の妹、可愛い姪であるララエナを守りきることが出来なかった……本当にすまなかった……」
「そっそんな、お師匠様は何も悪くはございません!頭を上げてください」
「いえ! フェデリオさんが弱く見えるとかではないんです、自分も少なからず戦いに身を置く人間です、相手を見た目だけで判断するのは危うい行為であると思っています。 ただ、自分が考えていたのは別にあります」
「浩司殿?」
浩司の隣に腰を掛けていたリリエナは浩司が何を考えているのか計りかねていた。
(フェデリオ・ベンダー。二つ名は『狂剣士ベンダー』と呼ばれ、若い頃は名を馳せた凄腕の剣士で冒険者だった人。 当時、王国騎士百人規模の一団を一人で相手にして勝利した逸話もある。 その腕が買われて、国王様が王妃と結婚するまでは宮廷守護剣士というこの国では栄誉な職務に就いていたこともある強者。そんな人がいてもオーガ達の猛攻の前では避難民の守りで手一杯だった)
「ララエナがこの村がオーガ勢に攻められ、オレ達の世界に逃げ延びてきました。 正直、自分達が住んでいる世界が全てだと思っていました。だけど、ラーナと出会ってから色々と自分の価値観というか何て言うか……もの凄い短期間で変わってしまって。 あっ別にラーナに出会わなかったら何て思ってはいませんよ。ラーナをこちらの世界に無事に連れて来ることが出来て良かったです……ですが、ラーナを取り巻く問題が根本からは解決出来ていないなと思って」
「それで?領主殿は何を考えているのかな?」
フェデリオは鋭い目付きで浩司を見た。
「……」
リリエナもフェデリオが何を考えているのかを雰囲気から察した。
「そもそもオレ達、日本はオーガ勢力はただ単純に領土を得たいがために侵攻してきたと考えていました。ですが、オレ達がポルータ村に来てすぐにオーガの襲撃とラーナが王都に戻った矢先に暗殺専門業者の襲撃に遇いました。 一連の流れから、何者かがラーナを排除したいかのように感じて、今回の二つの件は何かしら繋がっているように思います」
「確かに……」
フェデリオは両腕を組み何やら考え始めた。
「浩司殿、一国の姫様はいつ如何なる時も他国であったり敵対する者から命を狙われるもの。 それでも、浩司殿は今回の件は繋がっていると?」
「あぁ。まだ確証はないけど疑いの余地はあるレベル。 そこでリーナ、君に聞きたいんだけど、具体的じゃなくて良い、ティグラーガ王国の国境警備はどうなっているの?」
「国境警備ですか?……ラーナがポルータ村に初めて来訪する少し前から周辺の警備は増強しています。 特段の事がなければ不法入国はまず無理です」
マリンはお茶を煎れ始めた。
「リーナ、それって変だと思わない?」
「どのへんがですか?」
「"どうやってあの巨体のオーガが国境警備の目を掻い潜ったのか"ってことかな?」
フェデリオはマリンから渡されたカップを見ながら答えた。
「警備隊からは何も不審者の発見や被害報告はありませんでした」
「国境警備隊に被害の報告がないのは十中八九、手引きした内通者がいるって考えても良いかと。 それに、オレ達の仲間が数名行方不明なんです。初めはオーガに殺られたものかとも考えましたが、戦闘行為の痕跡が全くありませんでした。これは、会敵した相手がオーガ勢力ではなく人間だった。この推測が正しければ彼等は多分……国境警備隊に拘束され、内通者の手に渡ったと考えるのが妥当かと思います」
「そんな……王国に裏切り者がいるなんて」
リリエナは膝の上で拳を強く握りしめ、複雑な表情をしていた。
「リリエナ、修行の際に私は教えたはずだ。貴族同士の権力争い程醜いものはない、と」
「くっ」
リリエナは顔をしかめた。
「フェデリオさん、その口振りから大方予想がついているようですね」
「あぁ、多分な。彼は昔からこの国の王座を狙っていたからな。王都を無傷で手に入れる為に次期女王のララエナがこの村に来ている所を襲撃させたんだろう。ただな……」
「ただ?」
「次期女王を殺しても国王が健在の内は彼が王座につくことはないっていうことだ」
「……国王の暗殺」
リリエナはか細い声で答えを出した。
「だから暗殺専門業者とも繋がりを作った。 その彼なら簡単には密入国させることは可能ですか?」
「彼の力があれば簡単だ」
「フェデリオさん、彼とは一体誰のことですか?」
(あのときの目付きは多分、オレ達の存在が目障りだったことから発せられた敵意。オレの予想が正しければ……)
「執政大臣のザネンダだ」
(ビンゴ!悪党面だったもんな。あっ人は見た目で判断したらいけないって自分で言っといてアレだけど)
「根拠は?」
「このティグラーガ王国を統治していたのは本来、ザネンダ一族だったのだ。しかし、周辺国との戦争終結の間際に先代が次期国王をウェルクガイム国王の父上に譲ったのだ。だから、王座を狙っている者として一番に名前が上がるのはザネンダ執政大臣。そう考えるのが妥当だろう」
「なるほど、動機としては十分あり得る話ですね」
「待って下さい。 ザネンダ執政大臣が今回の黒幕だったとして、一つ問題があります」
リリエナが真剣な面持ちで話し出した。
「国境警備に関しては守護大臣の管轄です、そう易々と事を運ぶには難しいかと」
「なら、そのからくりを説明出来るだけの証拠が必要だな」
フェデリオは思案した。
「守護大臣も共謀しているというのは考えられませんか?それなら確実に国境警備隊の件もクリア出来ませんか? 何なら堂々と関所から侵入することだって出来るはずですよね?」
(これは突拍子もない話しだけど、一番確実に事を進めることが出来る。オレはティグラーガ王国の生い立ちや貴族同士の権力争いに関しては全く情報はない。 だからこそ、フェデリオさんやリーナと違った目線で物事を客観的に観れる。 二人はどうだろうか、オレのこの意見を聞き入れられるだろうか)
「私から見てもザネンダ執政大臣とレグラス守護大臣の二人は犬猿の仲。 それに、ラーナの帰還を父上の次に喜んでいたのはレグラス守護大臣です。 ですが、今回の件を行うには軍司に携わる者の中に内通者の協力者がいることには間違いないでしょ。 あまり考えたくはないですが浩司殿の言うとおり一理あると思います」
「確かに……どの線から探りを入れるとしようか」
(二人共、客観的に物事がとらえらる人でよかった。 何せ自分の国の中に裏切り者がいる可能性からどうしても親しい相手を疑いたくないのは当然。 そこから仲間内で争いの種になるのは必至だ。 まぁ、オレの心配はなくなった。これで無駄に仲間内で争うことはないだろう)
「皆様、一先ずの探りを入れる目標が出来ました」
そう静かに告げるマリンの手には小さな紙切れが握られていた。
マリンが立っていた近くの窓縁にはいつの間にか伝書鳩が佇んでいた。
「何か良い知らせか?」
「はい、フェデリオ様。 以前、大越様から依頼されていた行方不明者の足取り調査のために王都に密偵を派遣していました。 その密偵からティグラーガでは滅多に見掛けることがない人族らしき者を見かけた者がいると情報提供です」
(人族ってことはこっちの世界の住人の可能性があるってことか)
「それでマリンさん。 見掛けた場所は記載されていますか?」
「はい、婿様。 見掛けた場所はスラム街にある"奴隷市場"だそうです」
「奴隷市場だって!?」
浩司は驚きの声と共に急に立ち上がった。
(マジかよ……今時代、奴隷だなんて。 自分の世界の物差しで考えすぎていた。 捕虜なら確実に手元に置いておいて何かしらの交渉材料に使うと思っていたから……クソっ)
「浩司殿、今すぐ王都に戻りましょう。 奴隷市場は他国の奴隷商も出入りしています。最悪、他国に連れて行かれれば助け出すのは困難です」
「あぁ、そうしよう。 でも、良いんですか?これはオレの国の問題であってリーナ達には関係がないよ?」
リリエナは真っ直ぐ、浩司に向かい合った。
「何を今更。 奴隷を市場にだすということは市場管理者の出品者リストに名前が残っているはず。これは今回の内通者の足取りを掴むチャンスでもあるんす。 それに父上は全面協力を了承しています……それに……その……ゴニョゴニョ……ですし……」
「あの、最後が聞き取れなかったんですが」
「だから、ゴニョゴニョ……ですし……」
「はい?」
「だから!"私は貴方の妻となる女ですから当然"と、……申したのです」
(あっ何か恥じらいながらデレてる。可愛い。こんな顔も出来るんじゃないか。外見はカローネ王妃の遺伝が顕著に出てて、普段は多少クールな所もあるスタイル抜群な美女から、こんな風にデレて"貴方の妻"っだなんて言われたら、可愛い過ぎて直視しずらいって)
「あっありがとうございます」
「何度も言わせないで下さい」
「はいはい、ご馳走さま。 じゃぁリリエナと領主殿は直ぐにここを出発するかい?」
フェデリオは少し呆れながらも微笑ましく二人のやり取りを見ていた。
「はい、善は急げです。 大隊長に事情を伝え、準備が出来次第行こうと思います」
「私も異論はありません」
「わかった。 では、領主殿のお披露目会は後日にしよう。 マリン。領主殿に情報をお渡ししてくれ」
「どうぞ、こちらになります。先ずは市場管理者に話をしてみると良いでしょう。奴隷市場は沢山の不届き者達が出入りしてもいますので十分に注意をしてください。何かしらトラブルが発生したら直ぐに市場管理者に相談して下さい。あの方は善悪など持ち合わせておりませんが金を握らせれば大抵のことは協力してもらえるはずです」
(金で解決って汚い世界だな。でも、人命には代えられない)
「わかりました、ありがとうございます」
「では、師匠。行って参ります」
「あぁ、気を付けるんだよ二人共」
浩司とリリエナが屋敷を出ようとしたところフェデリオが駆け足で駆け寄ってきた。
「領主殿」
「フェデリオさん、何でしょうか?」
「私から言うのは少し御門違いかもしれないが、これからもリリエナのこと、頼んだよ」
「はい、もちろん」
「あの子はね、"白戦姫"としてのプレッシャーがね、大きく背負い過ぎている部分がある。だから、今まで色恋に関しては自ら絶ち切ってきたようなんだ。 その辺、国王からは色々愚痴を聞かされていてね。リリエナに剣を教えた手前、私も責任を感じていてね。 根は優しい子だ。だから、これからも末永く頼むよ」
「わかりました。 一応、国王様にも伝えてありますがオレには許嫁が三人いるので、国の法律にも引っ掛かる部分もありまして……正妻とかの話は……その……」
「いやいや、別に正妻にして欲しいとは思ってはいないよ。 ただこれからの苦難を二人で手を取り合って支え合う良好な関係を続けて欲しい」
「それについてはきちんと向き合っていく覚悟です」
「ありがとう、良い返事だ。 道中気を付けてくれたまえ」
「はい、それでは失礼します」
良い青年を見つけたじゃないかウェルクガイム。
フェデリオは浩司の真っ直ぐで紳士な返事を貰ったことで安堵していた。
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「浩司殿、師匠と何の話をされたんですか?」
「いや、大したことじゃないさ。道中気を付けてなって」
「それについては私が居るからには浩司殿にかすり傷一つつけさせません」
「ハハハ、何か立場逆転だね」
「あらっ。 あそこ、何やら揉めているように見えませんか?」
「えっ?」
(確かに何やら揉めているように見えるな。 あれは自衛隊のテントだ。 何を揉めているんだ)
「だから!何で私がしなくちゃ」
「仕方ないでしょ、これも立派な任務で」
浩司とリリエナは早歩きでオリーブドライ色のテントに近づくと、テントの入り口で男女が揉めていた。
「何やってるの?」
「先輩、彩菜三尉が駄々をこねてて」
谷口は襟首を掴まれる格好で後ろにいる浩司に答えた。
「隊長!あんたからも言ってくれよ! 私が何でこんな格好をしなくちゃいけないんだ必要ないだろう!」
「はいっ!?」
谷口の背中で隠されていた彩菜三分が姿を見せたと思ったら何故かナース服姿で現れた。しかも、ボディーラインがくっきりとあらわになり、程よい豊かな胸当てが強調されている。
途端に浩司の右腕を掴み、自ら胸に引き寄せ助けを求めてきた。
(いやいやいや、何故にナース?そして似合ってるし、柔らかいお山の感触が……いい!)
「……」
リリエナは何か今までにはない感情がふつふつと沸き上がるのを感じていた。
「じゃなくて! 一旦離れようか彩菜三尉。今のあなたは毒です」
浩司は右腕を使い、彩菜三尉を引き離そうとしたが彩菜三尉の方が掴む力が勝っていた。
引き離そうとした弾みで謝って浩司は掌で指先に心地よい感触が伝わってきた。そして五本の指を二度三度と軽く曲げては感触に浸った。
「あっ」
思わず彩菜三尉は甘い声を出してしまった。
(おっ、これはFかな、よきかなよきかな━━━じゃない、そうじゃないそうじゃない)
浩司は恐る恐る横に振り向いた。
「あの……リリエナさん?」
浩司の横では般若の顔に変わりつつあるリリエナが拳に呪力を込めていた。
「楠木殿は許嫁の一人でしょうか?」
リリエナは頬をピクピクと上下させて怒りをギリギリで自制していた。人生を一緒に添い遂げる男性が他の女性と如何わしいことをしたことで心は怒りと嫉妬が混ざりあっていた。
「違う違う、これは事━━」
「問答無用!!」
「ブハっ」
(やっぱり……手が早い)
浩司は弁明する間もなく地べたに転がった。
「このスケベ!」
急かさず彩菜三尉からの追撃が入った。
「フゴっ」
(転がってる人に向かって蹴りはよくないですよ彩菜三尉。しかも靴だけ戦闘靴のままだし。固いんですよ、それ)
テント入り口で騒いでいたら天道技曹が白衣姿で現れた。
「…………隊長、一応聞きますが何をしているんですか?」
「天罰を受けたとこ」
浩司は項垂れながら答えるのがやっとだった。
「はぁ━━それはそうと、二人とも患者さんが待ってるんだから早く来て手伝ってください」
「患者って、天道は看護師免許持ってないだろう?」
彩菜三尉は谷口に引きずられるようにテントに連行された。
「まぁ、看護師免許は持ってませんが、医師免許なら持ってますから。 あれ?言ってませんでしたか?」
(技官でイケメンな上に医師免許ありとかハイスペック過ぎるだろ)
「これでも天道カンパニーの跡取りですから。 これは大越大隊長と話し合って、現地住民との関係を円滑にするために簡単な診療所を開くことにしたんですよ。 それに━━」
輝矢は周りに聞かれないように浩司の耳元で小声で続けた。
「現地住人達のデータを取っておけば何かしらオーガ達の弱点を見つけられるかもしれないですし」
「━━えらく算段的だな」
「この世界には、俺達には備わっていない"呪力"と呼ばれる魔法みたいな力を使えるんですよ。 まるでファンタジーで、俺達の常識外です。下手したら我々の作戦の弊害になりかねません。 ですから、少しでもこちらの世界の常識を知ることで、必ずオーガ勢力と戦うのに役に立つと思いますよ」
「まぁあり得るよな」
浩司は輝矢の説明に納得した。
これまでに見てきた中でもマリンのグランド・ウォールは脅威を感じるものだ。
術事態には大した威力はないにしても、大事な局面においては攻撃にも防御にも使い分け出来るだけではなく、部隊の行軍を妨げることも出来るものだと浩司は考えていた。
「で、お前が白衣姿なのは分かったが何で彩菜三尉がナース服を着てるんだ?」
「そんなの決まってるじゃないですか」
「なんだよ」
「男性受けが良いからです」
「……お前な、マリアちゃんに言いつけるぞ」
「……それは本気でやめてください」