5話 運命の再会
約1ヶ月前、自衛隊の誤射事件。あれは誤射ではなく標的を狙った物である。中東欧州戦争中の戦時下ではあるが、日本はいたって平和な日常が過ぎていた。戦時下というのが嘘のようである。
若者がSNSにハマり、アルバイト店員が店の中でお客様に提供するはずの食材を不衛生に扱ったりと色々と拡散かれ問題が大きくなっているなか、この事件に関して事実を知る民間人はいない。例え万に一つでもこの"一本角のバケモノ"に関してSNS上にアップされても、すぐさま削除されるだろう。今は日本のサイバー対策は水面下で高度に発達している。
約1ヶ月前のとある村の戦闘報告書より……抜粋
「渡辺くん、君は私にどうして欲しいのかな?」
「教授、以前学会で発表された"桃太郎レポート"にあった仮説はとても興味を惹きました」
「あれは評価のされなかったレポートじゃよ」
「でも、教授。今、目の前に仮説にありました"獣の人"がいるのです!これは、教授が提唱した数百年周期で現れる"鬼の再来"の前兆ではないのですか?」
「……待ちたまえ、確かに私は歴史の問題で、"どうして童話が出来たのか?"と疑問に思い、研究したことはある。実際に事実として存在していた"モノ"もあった。それは、口承で色々な変化を遂げて伝えられてきた……しかし、中には説明のつかない出自の童話も確かにあった……だがこれは……私の予測の上を行っている……」
「教授の仮説は合っていたと?」
「その上を行っていると言ったであろう………これは、本当に"鬼"が存在していたかもしれん。」
「では、この子は……?」
「間違いなく、"鬼退治"に出て来た"犬"の種族であろうな……DNA検査は済んでいるのかな?」
「まだです、あまりにも突拍子な話しだったので。これから生物学の権威にも声をかけるつもりです。ただ、国内の生物学者は……」
「今井か?」
「えぇ、教授はご存知で?」
「葬儀に参列したかの」
「今、部下が今井博士の愛弟子にコンタクトをとっています。ですが、先方は立場的に今は忙しくされている身の"お方"なのですぐには来られない可能性が高いです」
「なんと言ったかなぁあの娘さんは……」
「名前は━━」
ピーピー、、ピーーー、、ピーピー…………警笛の音が外から聞こえ、慌ただしく重機が動く音が聞こえる。
「事務次官!!正体不明の生物が現れました!!哨戒していた隊員から連絡途絶!ここは危険ですので、ヘリで待避を!!」
「まさか!?"鬼"が現れたのか?」
「お嬢さん、言葉はわかるかね?この老いぼれと空飛ぶ鳥に乗ってお出掛けだ」
「…………ト………リ?」
「そうそう、鳥だ。ではお嬢さん、この爺の手を握って行くよ」
「………」
獣人の娘は差し出された竹田の手を握った。
「…(あんなに怖がって我々が何も情報を聞き出せなかったのに、あの教授は意図も簡単にあの子の心を開いた…)」
「皆さん!こちらです!お早く!!」
ヘリの音がうるさくて近くの人間に話すだけでも大きい声を出さなければならない。
「渡辺くん!!村の人たちはどうしたのかね?!」
「心配いりません。先日、"不発弾が沢山見つかり撤去するまで、国のお金で隣県の高級旅館に村総出の慰安旅行中"です!」
「それなら安心だ!」
竹田と渡辺、獣人の娘の他3名乗り込み離陸した。
『9時方向!!不明な靄が出現!靄に触れた軽装甲車が次々になぎ倒されていきます!』
竹田がヘリから地上を見下ろすと、自衛隊の車が何もぶつかってもいないのに、"勝手に"壊れていく。ただ………
『赤外線ゴーグルで捕捉!靄の中に……何か大きな……巨人みたいな影が見えます!』
『よし、迫撃砲隊!撃ち方よーい!…てぇー!』
『着弾確認!……状況送る……………ダメだ!対象の動きを確認!生きている!』
『クソ!……飛行隊!上空より制圧射撃を要請!』
『了解、目標100メートルまで近付き30ミリ機関砲で制圧射撃を実施する』
靄の近くにアパッチが1機近づいた。
『火気管制、ロック解除。30ミリ機関砲制圧射撃。ファイヤー。』
ドドドドドドドドド……………………………
鈍い発射音が響いた。ヘリの下には薬莢がバラ撒かれている。
『……………』
土煙が凄いことになり、視界が悪化していた。
土煙から何かが飛んできた。…………自衛隊の車であった。どこに飛んでいくのか、竹田が見ていたら急に先程までそこにいたアパッチが火を吹きながら地面に叩きつけられた。
………靄の一部がとれてきた。何かが靄を消したように不自然な形で"靄の中身"が現れた。
………頭部だと思われる部分が露出し、一本角と目玉が一つ……目玉が周囲を見渡すように動いた。
あぁ…あれには"知能"がある………専門外ではあるが竹田は理解した。人類の上位種が現れたと。決して知能が良いとは言えないかも知れないが、食物連鎖で見たら人間の上位にくるかもしれない。……
それでも自衛隊は引き下がらず応戦した。
軽装甲機動車からはMINIMIを撃つ、トラックの銃架から12.5ミリ機関銃を撃つ、隊員が各々89式小銃を撃ち続けた。
一本角の怪物はびくともせず、ただゆっくりとこちらへ歩いてくる。
96式装輪装甲車が進路を塞ぐ形で対峙した。
この装甲車には40ミリてき弾銃が装備されていた。今この部隊に残っている最高威力の装備だった。
『初弾装填よし!照準よし!…車長!』
『3発制限射……テェ!!』
ボン!ボン!ボン!………着弾し爆発音が二発。残りの一発は何かに弾き飛ばされ民家に直撃した。民家の2階部分が大破し、あちこちに残骸が散らばった。
『……二発も直撃したんだぞ……何なんだよ……』
96式装輪装甲車の射撃手の最後の言葉だった。軽装甲機動車が上から降ってきたのだ。
辺り一面惨状である。あちこちに投げられた車両から漏れた燃料に引火し火の海になっている。………隊員全員が思った。…………勝てない、と。
自衛隊は撤退を余儀無くされた。竹田を乗せたヘリを筆頭に…………
「……(あれは?……何の光だ?紫色の光?)」
撤退中のヘリの中から竹田はある"モノ"をみた。
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オレは官舎に帰宅した。最近、配置転換が酷いと思う。あっちそっちこっち…みたいな。
そりゃ彼女なんて出来ないわ!……っと彼女が出来ない理由を仕事のせいにする。オレは自衛官として平和な世界を作る役にたっているのだろうか………と色々考えてしまう。
エリーに言ったんだ"世界の平和のために"って。だから、あのとき結婚の即答はしなかった。…………いや、違うな……なんか…こう…頭の隅に何か引っかかるものがあった。
翌朝、官舎を出て谷口と一緒に駐屯地入口で警衛に身分証を提示し出勤する。ここ陸上総隊支部のあるこの駐屯地は、直ぐ近くに民間と共用の小さな飛行場もあり陸上の飛行隊戦力が比較的充実している。また、空路での物資の移動が容易で、都市部に近く立地としては悪くはない。
【独立戦闘大隊】千葉隊長曰く"何でも屋"のこの部隊には大隊規模の戦力はない。だから、この広く割り当てられた敷地と倉庫、大隊本部とこの広大な敷地に対して、一台の車が走り回っているのは目立っていた。
73式小型トラック。愛称は"パジェロ"だ。
この車両を始め陸上部隊の乗り物は殆どがディーゼルで動いている。
しかし、篠崎と谷口が乗っているこのパジェロの動力は"バッテリー"である。石油から太陽光発電エネルギーに切り替える余波が、自衛隊の装備品にもでてきたのだ。
ディーゼルからバッテリーへ。既存の兵器や装備品に少ない改良でどこまで、バッテリー動力で要求スペックをだせるのか。二人が乗っているパジェロをビデオ撮影している寺井二曹は思っていた。
「先輩、最近暇だからって、ストレス発散しないで下さいよ!これだって、歴とした性能評価試験なんですよ!同乗してるこっちの身にもなって下さいよ〜!」
キュキュキュ!ブォーン!……キューン!
「なぁに言ってんの!こいつが舗装済み道路を走り、要人警護の任務に使われるかもしれないじゃないか。オレ達ならその可能性はあるだろ?なら今のうちに無理な運転をして、ボロは沢山出しておきたいっていう仲間思いだぞ?」
最後はドリフトしながら一台分のスペースが空いていた縦列駐車にパジェロを滑り込ませた。
「……初めてパジェロがドリフトって出来ることを知りました」
と少し具合が悪そうな谷口が助席から降りて来る。
「午後には82式"しきつう"のバッテリー型車の試験だぞ、昼飯吐くなよ!」
「……うぇ」
「篠崎二曹、要求スペックの機動データ得られましたよ。谷口三曹あと少しだ」
「……へぃ」
寺井二曹のスマホが鳴った。
「寺井です………………………了解しました、今から本部に戻ります」
「二人とも本部に一度戻りますよ。新しい隊員が到着したようです」
「篠崎二曹以下2名入ります」
大隊本部作戦室に今いる隊員が集まっている。
奥の如何にもな人が大隊長の大越二佐、その隣にいる補佐の山田二尉、向かい合って千葉隊長(第一戦隊の隊長)と西曹長が立っていた。
「ほれ、さっさと並ぶ」
「よし!揃ったな。これより、新たな隊員を迎えることになり、皆に挨拶をさせる。…入りたまえ」
「天道三尉入ります」
「……かっ神崎三曹入ります!」
「……………(えっ?!)」
予想外だった。
山田二尉の横に歳は若干重ねているが美女といっても差し支えない女性と、可愛らしいアイドルみたいな女性が入室してきた。
「この二人は本部付きの衛生隊員として医務室勤務要員だ。自己紹介を。」
「天道です、私は医師として職務にあたります。専門分野は一応外科ですが、一通りの内科分野も見れます。皆様宜しくお願いします」
「……(浩司くんだ、どうしよう……また会えた……でも恥ずかしい)」
「?…神崎三曹、自己紹介を」
「えっはっはい!神崎三曹です!前は自衛隊病院に勤務してました。初めての部隊勤務になりますのでお願いします!」
「では、今いる隊員を紹介する。左から第一戦隊の隊長の千葉、隊員の西曹長、寺井二曹、篠崎二曹、谷口三曹だ、他には施設科の隊員と食堂勤務の外部委託の方がいる。後程案内しよう」
「はい!それにつきましては案内役には篠崎二曹が適任かと思います!」
ニヤっと不適な笑みを浮かべる千葉隊長。
「えっ!?」
「えっ?!」
「……」
約二名から驚きの声が漏れた。
「因みに天道先生は私が案内しましょう、備品の発注やら必要なもののリストアップが必要でしょう」
千葉隊長が紳士な笑みを浮かべる。
「あら、それは助かるわ〜意外と医務室に必要なものって揃ってないのよね〜神崎三曹は私の代わりに観ていらっしゃい」
「━━なら、千葉隊長と篠崎二曹頼んだぞ」
山田二尉は千葉の意図を察して命じた。
「了解しました!……(ちょっと気まずいな…)」
篠崎は微妙な心境であった。
篠崎と美優紀は作戦室をでて、今は倉庫に来ている。途中控え室で休憩していた施設科の柳曹長以下整備員に美優紀を紹介してきた。
『やっとワックが入ってきたー!!』
『可愛いー!』
年がら年中男でしかいない環境にアイドル的な存在が来て皆盛り上がっていた。
『野郎共!浮かれてないできちっと仕事して格好いいところみせろよ!』
と柳曹長が一喝した。
『了解です!おやっさん!』
『だから、おやっさんて呼ぶな!』
なんて、いつも仏頂面の柳曹長が可愛い部下達から慕われている一面が見えた。
「整備の人達は仲がいいんだね」
「あぁ、この部隊は他と違ってまだ規模も小さくて仲間通し和気あいあいしてるのさ。まぁ整備の人間は柳曹長がいるからってのもあるね」
「柳曹長って凄い人なの?」
「凄くやり手で、あの人がいる部隊には率先して新装備が回されてくるっていう噂があってどんなモノも完璧に仕上げる整備員の憧れさ」
「凄い人なんだね、浩司くん私よくわからないんだけど、この部隊は何するの??」
「うぅ〜ん、まだこれって決まってはいないみたい。この前はbeautiful・snow・worldの護衛してたし……」
「へっへぇ〜凄いね〜浩司くん、生で会えたんだね〜」
「まぁね、アコちゃんとリミさんは素顔をみせてくれたけど、ユキさんだけ見れなかったんだよなぁ〜」
「たっ多分、照れてるんだよきっと」
「何に照れるんだ??」
「………浩司くんがカッコい…」
突如アナウンスが流れた。
『あーテステス…これ聞こえてる?…第一戦隊は直ちに作戦室に集合!新しい指示が入った!以上!……これでスイッチを切ると……』
「……(千葉隊長わざとにやってるのか……)」
その頃、自衛隊の航空基地にプライベートジェットが護衛の戦闘機2機を連れ着陸した。
『長旅お疲れ様でした』
機長がアナウンスで声を掛けられた美女はその長くて綺麗な金髪を揺らしながら手元に出していた極秘資料をまとめてジェット機から降り立った。
「やっとコウジに会えるワ」
そこには少し流暢に日本語をしゃべるエリーが立っていた。