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タクティクス・コンバット・オブ・オーガ  作者: トビオ
《第5章 ティグラーガ王国》
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第52話 賢者マルクス

 決闘は明日、正午。


 場所は騎士団の修練場の1つである闘技場で行われる。



 オレがララエナと書庫に籠っていた所にバーコードじゃない方の大臣が知らせに来てくれた。


 何だって、そんなに時間に余裕がない?


 逃げませんよオレ?


 逃げたらどんな制裁が待ち受けているか分からないからね。



「婿様、戦姫であるリリエナ姫様はお強いですよー。特に━━━」


「鍔迫り合いには気を付けてくだされ…」

 レグラス大臣が小声で浩司の耳元で囁いた。


「えっ?何故ですか?」


「それ自体が戦姫であるリリエナ姫様の武器なのですよ━━まぁ、気になるのであれば態とに持ち込んでも宜しいでしょうな。勝つ自信があれば…の話ですがハハハー」



 レグラス大臣は嵐のように去っていった。



 浩司とララエナはレグラス大臣の背中を見送った後、城下町まで足を運ぶことにした。


 浩司は自分達の世界の常識が通じないのを実感したのか、もっとこの世界を知りたいとララエナに相談したら"自分の目でみるのが大事"だということで実地見学となった。


 城下町の見学。


 姫であるララエナが同行するのには大きな問題が1つある。


 それは"護衛"だ。


 いくら城下町と言えども危険は付きまとう。

 そこに生活している全ての民が善良な民とは限らないからだ。


 人が集まれば栄える反面、いざこざが起きてしまうのも事実。


 この世界でも無闇に人を傷つけるような犯罪には重い厳罰が待っている。それが殺人なら尚更である。


 しかし、人を直接傷つけない犯罪も多数存在する。その中でも金になる犯罪……



 "誘拐"



 それは人身売買を意味する。


 誘拐された者が売り手から買い手に渡った瞬間、その者は"奴隷"の身分に落ちてしまう。


 浩司らの世界には貧富の差はあるが、誘拐なぞ滅多に起きない。


 それはどの国も情報化社会として成長を遂げているため、どこかかしこで足取りが捕まれ誘拐犯は捕まってしまうリスクが高いからだ。


 誘拐計画が国家レベルのものであれば話は別である。


 しかし、こちらの世界の文明レベルであれば衛星カメラはもちろん監視カメラなんて物も存在しない。


 剣を振るって戦っている文明だ。


 そんな世界で、奴隷制度は普段の日常生活に馴染み、町中には奴隷が働く姿がよく見られる。


 奴隷になれば、自由は無くなり、強制労働に着かされるのが大半で、下手すれば劣悪な環境で生活を余儀なくされるばかりか名前すらもとりあげられるこがある。


 奴隷の身分に落ちてしまうには誘拐以外にも、戦で親を失った孤児や借金を返しきれず自らの過ちでなってしまう者もいる。


 しかし、誘拐という手法をとる者がいるのも事実。


 その為、このような戦うこと以外からも身を守っていくためには自分が強くなるか、又は強い者に守ってもらうのがこの世界の常識である。


 そこで護衛役としてマリンが同行することになった。


 レグラス大臣からの指示である。



 余り華美にならないワンピースに着替えたララエナと魔導鎧(マジックアーマー)だと言われ変に目立ってしまうT:ASは置いて、いつもの迷彩柄の戦闘服にUSP9と源太郎から託された髭切を装備した浩司にマリンが合流し城の正面口に出たところで丁度よく大越達と遭遇した。


「これはララエナ姫、何処かへお出掛けですか?」


「はい、篠崎殿と少し城下を見て周ろうと思いまして」


「そうですか、我々はまだこちらの世界については知らないことが沢山あります。そのような状況を配慮して下さり感謝致します」


「いえ、私も民達の顔を見ておきたいのです」


「篠崎特尉、呉々も姫様の警護も忘れずにこちらの文化について学ぶように」


「はっ!」


「では、我々は楠木三尉と谷口を残して一度本隊に帰り、今後の物資補給と第2陣の受け入れ体制を整えておく。━━━その間、プライベートに口を挟む訳ではないが国王と関係が崩れないよう慎重に行動しろ。いいな?」



 つまりは決闘に勝って、あの狂暴女の婿になれと……暗にそう言ってるんですよね?


 あなたは部下の将来を何だと思ってるんですか?


 《嬉しいくせに、この変態━━》


 ……?何かやかましい声が聞こえた気が……


「篠崎隊長、ちょっと良いですか?」


「うん?何だ?」


 人生先が真っ暗な浩司に声を掛けてきたのは輝矢であった。


 輝矢は他の誰にも話が聴かれないように怪しまれないよう人気がない場所に移動した。


「どうした?あまり大隊長を待たせたら悪いぞ?」


「いえ、話はすぐ終わります。━━良いですか隊長。今の、この調子であの戦姫の婿に成りましょう!」


「あのなぁ、お前まで……オレには選ぶ権利はないのか?」


 選ぶ権利については当事者の二人は同意見であった。


「良いですか?これは僕の実家の天道家と特甲戦の目的を一石二鳥で達成するビッグチャンスです。以前、病院でも話しましたが予言に記されていた"力を授かりし者の子が邪悪な光を消し去る鍵となるであろう"……これなんです!今の貴方は件の目が移植された貴方が"力を授かりし者の子"であるのか━━それとも、あなたが将来一緒になった女性との間に生まれた子供がそうなのか、どちらが世界に平和をもたらすのか━━解釈には2つの可能性があるんです!残念ながら後者であった場合は、お相手の女性がどちらの世界の住人で誰なのかはわかりません……だから!、将来性がある女性ならこちらの世界でも許嫁を作っておいて損はありません!それと、もうひとつ!

 リリエナさんとそのような関係になれば我々自衛隊の活動も円滑に進み、行方不明になっている偵察班の捜索、拉致された国民も早期に保護できる可能性がグッと高まるんです!

 これからの我々の運命は篠崎隊長に委ねられているってことをお忘れなく!」


「おっおぅ…」


 浩司は輝矢の勢いに負けた。



 大越大隊長一行は騎士団の先導でポルータ村へと出発した。


 浩司達に彩菜三尉と谷口も加わり、ララエナは楽しくなったのか彩菜三尉と手を繋ぎ、そんな微笑ましい光景を周りに見せびらかせ遠足気分で城を後にした。


 ---


 城の一室の窓から浩司達が城から出ていく後ろ姿を見ていた男が居た。


「まさか、あれだけの軍勢を送り込んだのに生きていたとわ、何と強運の持ち主か━━あやつめ、このまま約束を反古する気ではなかろうな……このままだとわしの計画が狂ってしまうの━━━しかし、おめおめと指を咥えて黙っている訳にはいかん」


 男は机を力を込め叩いた。


「イコセ!イコセを呼べ!」

 入り口の外に待機していた執事に怒鳴りつけるよう


 ここまで準備をしてきたのだ。この計画……今さら引き返すことなど出来ん。


「入りますよ、父さん」


 男の執務室に入ってきたのは誰もが口を揃えて"美男子"というだろう整った気品溢れる好青年が現れたが、どこか気怠そうなオーラを出していた。


 この怠そうにしている青年は赤を基調とした鎧を身に纏っていた。


 この国ににおいては赤色の鎧は"王国騎士団"の騎士長(チーフ・ナイト)であることを意味する。


「イコセよ、あの話であるが━━━」


「待った、父さん。例の件でしたらお断りしたじゃありませんか……"あの人"はとても僕の手には負えませんよ?━━しかも、お相手なら現れたじゃないですか?話が纏まればこの国も安泰になりましょ」


 我が息子ながらなん足る腑抜けたことを言うとるか。


 男は溜め息が止まらなかった。


「イコセよ、何故、お前を一族で初めて"騎士"に抜擢させたかわかっとらんようだな」


 青年は耳をほじりながら早く終わらないかと話を右から左へ聞き流していた。


「あぁ、それ。それなら分かってるよ。僕は政には向いてないからねぇ。ただ、剣の腕なら一族始まって以来の逸材だってこと」


「だからお前を縁談に推薦したのではないか!」


「でもね、父さん。勝てない戦とわかっていても民の為に命を張るのは騎士道だから分かるけどね、やりたくないものはやりたくないのが僕の騎士道だから………」


「お前には"野心"というものがないのか!?」


「ないよそんなもん。僕は剣だけで上に登り詰めることしか頭にないから。じゃ、仕事があるから行くよー」


 青年は立ち去った。


「親の心など子には通じんとはな……全ては一族の為だというのに━━━まぁよい」



 先にあやつらごと姫を亡き者にしてくれる。



 ---


 ティグラーガ王国の殆どの領地は緑で囲まれているが王都の一部は海にも面している為、山の幸に海の幸が豊富で、他国や他地域との貿易が盛んなこともあり三大国家の中でも人口も多く、物価が一番高いことでも有名である。


 人が沢山集まる要因の1つとしては法整備も進んでいることも大きい。



 城下町と言っても、人口数や商業に貿易が上手く循環させるため、町の構造は複雑に効率的な造りとなっている。


 まずは居住区については城壁側から一般市民、下級貴族、中級貴族、上級貴族となっており有事の際は伝令が行き渡るような仕組みをとり、重要な王国運営に携わる貴族らが国王からの召集にいち早く駆けつけられるように配慮がされている。


 逆に、一般市民が外側であればあるほど、外との交流する機会が多くなり経済が上手く回る。


 商業区と貿易区は隣り合わせとなっており城下町で一番の賑わいをみせている。


 この2つの区は城壁と居住区の間に位置し、往来の利便性が高い。


 これにも理由がある。


 外から来た者を王都の中心には近づけさせ過ぎない防犯効果もある中、一般市民との接点を作り、売買の機会を増やすことにも繋がっている。




 浩司達一行は城下町の大通りを歩いて移動していた。


 居住区から商業区に近くなったためか人気も多くなり賑わいをみせている。


 歩きながらララエナによる浩司達『異世界人』への勉強会がなされ、上記のように王都の仕組みを説明していた。


 歩きながらララエナの講義を聞きつつ周りをキョロキョロと視線を移せばあっちには犬耳獣人、そっちには猫耳獣人、こっちにはタヌキ耳獣人と沢山の獣人が行き来していた。


 大きなリュックを背負っている者、露店を開いている者、如何にもな顔で大剣や杖を装備している集団、親子で手を繋いで歩く町民風の者であったりと様々である。


 彩菜三尉が気になったのは大剣の集団だった。

「ねぇ、ララエナ。あいつらは何者?まさか……王国騎士団じゃないわよね?」


 ララエナは彩菜三尉が指差した方を見て答えた。


「あの人達はね"冒険者"だよ」


「冒険……者?」


 彩菜三尉には聞き慣れない単語であった。


「そっ!日本の職業で例えて言うなら何でも屋さんかな?冒険者ギルドっていう組合に登録して組合に来るお仕事依頼を引き受けて、見事仕事を達成したら依頼主から報償金が貰えるの。若者に人気が高い職業の1つね」


「へぇ〜━━どうして人気が高いの?」


「こっちの世界じゃ15歳で成人扱いされるの。殆どの職業は成人していないと雇ってくれないんだけど、冒険者はね他の仕事と違って12歳から仕事に就けるの。だから、独り立ち思考が強くて一攫千金のロマンを求める若者から絶大な人気があるって訳」



 若者が若者を語るか。


 と、浩司は思った。


「他にはどんな仕事にがあるんだい?」

 今度は谷口が口を開いた。


「えっとね〜、農家に船乗りに行商人だったり役人とか〜、あとは職人系かな?」


 そう話していたララエナの鼻が何かをキャッチした。


 クン…クン…いい匂い………あっ!良いこと思いついた。


「では、ここで問題です」

 彩菜三尉と手を繋いでいたララエナが急に立ち止まり後ろに居た浩司と谷口に振り向いた。



 ダダン……


 クイズならこのリズムだろ?



「それでは、ここ、王都の弱点とは一体何でしょ〜か?!」


「唐突だね」


「今の話から推測するの?」


 彩菜三尉らはしばし考えた。


「物価が高い?」


「ブブー!ハズレ」


「攻め落とされやすい?」


「またまたハズレ」


 浩司はすぐに答えなかった。


 いや、先に頭に思い浮かんだものが次々と不正解であったからだ。



 物価でも地形でもなければあとは食糧……



「自給自足?」


「正解!」


「おー」

「おー」


「三大国家の王都なら同じことが言えなくもないんだけど、特にティグラーガの王都は貿易に頼っている面が強いの。だから、何かのキッカケでこの貿易バランスが崩れたら他国の王都と比べて人口が多い分、自給率が低いから被害は大きいの」


「って、言うことはララエナは━━━」


「そっ!城下町を見てまわれば今の王都の状況が一目瞭然。民達の顔を見て、笑顔で生活している姿が多ければ生活が安定してるってこと。つまり、私は王都の経済状況を見にも来たってわけ」



 たかだか10歳程の子供から"経済状況"っなんて言葉が出てくるとは思わなかったな。


 流石、王位継承1位だ。


 ララエナは賢いな。

 


 あの狂暴女と違って。



 一行は一軒のパン屋の前で足を止めた。


 先程から甘い良い匂いを漂わせていたのはこのパン屋からであった。



「おばさん、いつもの5個頂戴!」


 おいおい、一国の姫様が普通に買い物して大丈夫なんか?


「あいよ!いつものだね━━━そういえば暫く見かけなかったけど元気にしてたかい?」


「ちょっと旅に出てたの」


「そうかい、そんな年で偉いね〜。じゃおばさんから無事に帰って来たお祝いとして1個おまけだよ!」


 そう言われて小さな紙袋に一杯に詰められたパンを受け取ったララエナは銅貨5枚を女店主に渡した。


「ごめんね、お嬢ちゃん。最近、小麦粉の仕入値が上がっちゃってね、あと小銅貨5枚なんだよ」


「そうなの?じゃ、これで丁度ね」


「まいど!また来てよ」


「うん、ありがとうおばさん!」



 何だかあの女店主。ララエナのこと姫様って気付いていない様子だったけど……


「はい、こうじ。彩菜お姉ちゃん、谷口さん、マリン」



「おぅ、ありがとう」

「ありがとう、ララエナ」

「頂きます」

「頂戴致します」


 浩司がパンを一口食べた矢先にアリエが脳に直接語りかけてきた。


 《……浩司、誰かに見られてるわ》


「(力使ってからあんまり時間経ってないのに今回は早かったな)」


 《こっちの世界ならそこら中に呪素が溢れているから力を取り戻すのが早かったみたい……それよりも浩司━━お城を出てからずっと監視されてるわ》


「(相手はどこにいるか分かるか?)」


 《多分、さっき曲がってきた角に隠れているわ━━あっ!こっちに来るみたい》


「彩菜三尉、谷口」


 浩司はハンドサインを二人に送り、パンに噛りつきながら彩菜三尉と谷口は腰に携帯しているUSP9のホルスターに手をかけた。


 《浩司、あのマントを被った奴!あと10歩の距離よ━━あいつ……殺意を持ってる》


 折角、楽しく下町見学に来ていたのにと浩司は思っていたが、見学だけではなく護衛も兼ねていたと考えを改めていた。


 ここは"異世界"


 平和な日本ではない。



 不自然にならないよう3人はララエナとマリンを三角になるように囲む形で守りを固め、いつでも引き抜けるようUSP9の握把を握った。


 3人に緊張が走る。


 マントの敵があと5歩の距離に迫ったその時、予想外な展開になった。


「……グランド・ピラー」


 その言葉が発せられるとマントの敵の足元が地面が急に盛り上がり、土で出来た拳がマントの敵のボディーに見事ヒットした。


「ぐはっ!」


 マントのフードがめくり上がり、強面な獣人男性の顔が見えた。


 そのまま男は地面に倒れこみ、お腹を押さえながら悶絶していた。


 マリンが呪術を発動させたのだ。


 周囲にいた人達がざわめき出し初めた。


「隊長、これどうする?」


「一応、これって正当防衛?」


「姫様の護衛、これは立派な正当防衛です」


 マリンさんや、本当にそう?


 だって野次馬がウジャウジャ何か言ってますよ?


 しばらく浩司達がたじろいでいると周囲の野次馬をかき分けて2人の巨漢が現れた。


 オークである。


 2人のオークの腕には見覚えのある腕章があった。それは、ポルータ村にいたデルクが着けていた憲兵団を表す腕章である。


 厳ついオークの2人は倒れているマントの男と浩司達を交互に見ては何やら思考している。



 えっ?……まさか、また牢屋にいれられる?


 嫌ですよ、あんなアンモニア臭が漂うプライバシーの欠片もない所になんて……


「町中での喧嘩で呪術の発動は御法度ですが、何やらこの男はあなた方に危害を加えようとしていたようですな」


 あなたはどこぞのオークと違って見る目がありますね。


「この男は我々が連行していきますのでご安心して下さい」


 2人のオークは両脇から小人を抱えるように軽々とマントの男を連行していこうとした。


 片割れのオークが浩司に振り向きこう告げた。


「"人族"の方ですよね?最近、人拐いの事件がありますので町中を歩くときは必ず冒険者を雇って下さいね、それでは」


 それだけを告げて去っていくオーク達を見送った浩司達にパンを食べ終えたララエナはなにがなんだか分からないようであった。


「浩司達が狙われてたの?」


「いや……」


 どう考えても狙われてたのはララエナ……だろうか……?


「かもな……」


 人拐いだったら殺気なんて感じるものだろうか?何が目的だったんだ……


 答えが見つからず立ち尽くしている浩司達は先程まで群がっていた野次馬達もいつの間にか居なくなっていたことに気付きもせず、辺りには通行人しかいなかった。


「それじゃ気を取り直して今日はね、城下町の見学だけじゃなくて、浩司達を私の先生に紹介しようと思うの。」


「ララエナの先生?」


「"賢者マルクス"━━私の専属教師よ」



 ---



 そこは居住区の中でも外れにある1つの大きな屋敷である。


 如何にもな佇まいで、変わり者が住んでいると巷では有名な話であまり人が立ち寄るような雰囲気はなかった。


 ララエナはドアノックを元気よく叩くと返事を待たずに玄関ドアを開けた。



「マルクス先生ー!ララエナです!ララエナが参りました!」



 ……留守?



「なぁララエナちゃん。ここに"賢者"って呼ばれるような大層な人が住んでいるなんて思えないんだけど……」


「右に同じく。大丈夫なの?」


「大丈夫だよ、彩菜お姉ちゃん。マルクス先生はちょっと変た……変わり者で近隣の民からは………まぁ、あの人の知識は本物だから━━━」



 ララエナ……今、変態って言おうとした?



 建物の奥から何かが走ってくる足音が段々とこちらに近づいてくる。


 この屋敷の佇まいから本当に何かが出るんではないかと浩司達は少し身構えた。


 玄関の作りから光があまり差し込まないため中の様子がよく見えなかった。


 足音が直ぐそこまで聞こえてきたと思ったら足音が途絶えた。


 その瞬間何かが彩菜三尉の方に目掛けて飛んで来た。



「ラ・ラ・エ・ナ様ーーー!!よくぞご無ずぃブハっ!?」



 咄嗟の判断でその飛んで来る物体を彩菜三尉は右拳で思いっきり叩き落とした。



 一行の目の前には流血して倒れている老人。



 その老人は賢者マルクス。


 知る人ぞ知る、多岐に渡る分野の知識を備えた生きる辞典と呼ばれた男……


 そんな老人は女性自衛官による撲殺でその生涯を終えようとしていた。

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