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タクティクス・コンバット・オブ・オーガ  作者: トビオ
《第5章 ティグラーガ王国》
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第51話 正妻か側室か制裁か


 今、オレは本の虫だ。


 この分厚い本に喰らいつく虫だ。


 結果から言えばオレはあの狂暴女からは逃れられない。


---

 数時間前に遡る


 あの謁見のあと、ララエナの帰還を祝した宴に参加したオレ達はそのままゲストルームで一夜を過ごした。


 朝は早かった。


 何故か知らないが、昨日一緒に宴に参加していたマリンさんに起こされた。


「あっマリンさん……おはようございます」


「おはようございます、篠崎様。昨晩はお疲れ様でした。少々お酒の匂いが残っている様ですので朝食前に入浴を済ませて下さい」


 言われるがままにオレは浴室へと向かった。


 だけどな、オレは学んだ。


 今回は王族専用の浴場は使いませんよ?


 だって、また、あの狂暴女が居たら恐いもん。



 入浴を済ませた浩司は入り口に待機していたマリンに捕まった。


「では、食堂にご案内致します」


「あっわざわざすいません」

 浩司はマリンに恐縮し、連れられるがままにマリンの後ろをついて歩いた。


「(何か貴族になった気分。マリンさんもあんなに飲んでたのに流石メイドさんだ。だけど、別にオレを起こしに来るなら城にいるメイドさんで良かったんじゃないかな━━━━そういえばオレって騎士爵持ってたんだよな一応)」



「こちらになります。皆様は暖かく迎い入れてくださると思いますが最低限のマナーを守り粗相がないようにしてください。婿()()


「えっなんですか?」


 浩司はピンと来なかった。


 自分が置かれている立場に。



 そう、既に王族による囲い込み作戦が始まっていた。



 マリンが開いた扉の先には浩司が想像していた光景より180度違う世界が広がっていた。


 浩司はてっきり城に住んでいる騎士達とテーブルを囲み大隊長達と朝食を摂るものだとばかり思っていた。


 しかし、今、浩司の視界には、テーブルの奥から順に王様と呼ばれる人、王妃と呼ばれる人、姫様と呼ばれる2人の計4名が席に着き、1つの大きなテーブルを囲んでいた。


「おぅ、婿殿じゃないか!ささ、早くこちらにかけなさい」


 ウェルクガイムは昨日の国王の威厳は成りを潜めフレンドリー感を浩司に出していた。


 それはそうだろう。折角、見つけた婿の機嫌を損ねて元の世界に帰られてはザネンダ執政大臣の意見を押し退けた意味もない。


 だが、ウェルクガイムは単純に娘の未来を心配しての行動である。


特に長女だ。


 長女であるリリエナを気に入ってもらったとしても義両親が王族と言うだけで尻込みされて変な壁を作られないようにとウェルクガイムは考えた。


「おっ…おはようございます!国王陛下!」


 何でこの面子の中にオレは呼ばれたんだよ……


 絶対におかしいだろこれ……


「今はそんなにかしこまらんでよいぞ。ここにはわしらしか居らんからな、はよ座りなさい」


「はい、ではお言葉に甘えて……」


 浩司はララエナの隣の席に着いた。


「おはよう、こうじ!」


 ララエナは浩司の実家で過ごしていた時のような屈託のない笑顔で迎い入れた。


「………………」


 リリエナは無言で浩司を睨み付けていた。


「おはよう、プリ…じゃなかったララエナ」


「こうじ、こっちじゃ私は"ララエナ"だからね。あっ!でも、あっちに戻ったらプリーナでもいいから」


「おぅ。何かララエナはスゴいな。やっぱり本物のお姫様だったんだなって昨日思い知らされたよ」


「私だって年相応の女の子なんだよ?でも、王族の立場があるから。ようは使い分け」


「そうだな」


「ほら、お姉さまも。こうじは未来のお婿さんなんだから何かお話したらどうですか?」


可愛い妹に促されては断れないリリエナは仏頂面で応えた。


「…………妹が世話になったな━━フン!」

リリエナはその綺麗な顔で頬を膨らませてそっぽを向いた。


「いっいえ。どう致しまして」



 やっぱ、この狂暴女は苦手だ。



 それにしてもスゲーな、椅子からして高級だ。


 庶民のオレには分かる。


この座り心地の良さ。


 うわ、しかもテーブルに並べられているスプーンにフォーク……純銀製だ。



 浩司は軽く衝撃受けたところでまた衝撃を受けた。


「それじゃぁ、婿殿がこられたから朝食をお持ちしますわ」


「えっ?!王妃様が持ってくるんですか?!」


「朝食はいつも家族だけの時間にしたいから、朝食も私が作っていますのよ。婿殿のお口にあえばよいのですが」


 他国の王族はどうかは分からないがこのバージルポーン家においては子供らの教育のため、王妃自ら料理を振舞い、娘達にきちんと家庭の味を伝授し、女子力を磨くようにカローネが毎朝行っているルーティーンだ。


「いえ、王妃様自ら調理されたものであれば美味しいに決まってます」


「フフフフ、お上手だこと。でも、食べてからきちんと感想を聞かせてくださいな」


「私も手伝います」


「ありがとう、ラーナ。それじゃお願いね」



 仲睦まじい親子だな。


 ああして観ると母さんとララエナが一緒にご飯を作っていたのを思い出すなぁ。


 何だか王妃様は母さんと何処と無く雰囲気が似ている気もする。


 王妃様って子供が居るように見えない美魔女だな。


 悔しいがあの狂暴女も王妃様の娘とあって見てくれは綺麗だし、ララエナも成長したらきっと王妃様のような綺麗な女性になるんだろう。


「…………」


 それにしても……どこにも国王様の遺伝子が感じられないのは気のせいか━━━━?


 国王様って……悪く言えば"短足チビ"だ。


 比べて王妃様はスーパーモデルのようなスタイルに出るとこがきちんと出ている8頭身美女だ。


 狂暴女とララエナはどうみても王妃様の遺伝しかないよな………


「へっっっクション!!!━━誰かわしのことを噂してるのか?」


「………………」


 どうして国王様(この人)は王妃様と結婚出来たのか不思議だ。



---



「ご馳走さまでした。王妃様、とても美味しかったです」


「あら、嬉しいわ。次も張り切って作って差し上げますわ」


「カローネの手作り料理の味を覚えてしまったら他が不味く感じてしまう」


「あらあら、貴方ったら。料理長が泣いてしまいますわよ」



 何かイチャイチャが始まった………



「━━━では、父上、母上。私は剣の稽古がありますので失礼します」


「あら、まだゆっくりしていても━━」


「いえ、母上。私には今、倒すべき者がいますゆえ、稽古の時間がおしいのです」


「まぁ、倒す相手とは婿殿のこと?」


「それは!………私にだって選ぶ権利はあります!それでは!」


リリエナはさっそうと出ていってしまった。


「今度はリーナが朝食を作るかもしれないというのに……あの子は恥ずかしがり屋さんなんだから」


「お姉さまには見た目以外の女子力が低いんだからもっと料理の勉強をされたほうがよろしいのに……ねっこうじ!」


「ブハっ!どいうことだいララエナ?」


 浩司は思わず食後の茶を吹き出してしまった。


「だって、今後はもしかしたらこうじの朝食はお姉さまが作ることになるんだよ?こうじだって、折角綺麗な女性に作ってもらうなら美味しいご飯のほうがいいでしょ?」



 オレが?━━あの狂暴女に?━━朝食を?━━作ってもらう?


 想像がつかん。いや、したくない。てか、無理。


「そのことなんですが、国王様に聞きたいことがございます」


「はて、なんじゃろか?」


「そもそもですよ?そもそも何で自分が娘さんの婿に選ばれたんですか?オレは異世界の人間で、少なくとも相手は一国の姫様ですよ?もっと、こう……上流貴族の息子と縁談を結んだりするもんじゃないんですか?」


 浩司は至極まっとうな質問をした。


「━━━婿殿よ。あのような口より手が先に出る娘を貰ってくれる男がいると思うかね?」


「……………いないと思います」


「じゃろ?」



 じゃ、なにか?


 その口より先に手が出て、親もお手上げな娘をオレが貰わなくちゃいけないの?押し付けじゃん。


 完璧被害者ですよオレ。


「いやいやいや、こう言っては失礼かもしれないですが、オレには既に3人も許嫁がいるんですよ?無理ですよ!」



「?……こちらは何も問題ないが?」


 浩司達のやり取りを聞いていたララエナは補足をしてきた。


「こうじ、あのね、こっちの世界じゃ一夫多妻は珍しいことじゃないんだよ?たまたま、お父様はお母様しか娶らなかっただけで他の王族や貴族にとっては至って普通のことなの」


「マジ?!」


「大マジじゃ」


「婿殿、性格に多少の難があるのは認めましょう。ですが、長女の容姿は母の私が言うのはあれですが……肌は雪のように白く透き通り美しく、とても戦場に立っているとは思えない綺麗な顔立ちをしています。体つきなんかも私と大差ない殿方が好むような豊満なバスト━━毎晩、あの顔を、あの体を好きなように貪ることが出来るのですよ?まぁ、一部の殿方には貧乳を好まれる方はいると存じ上げますが婿殿は豊満な方がお好きでしょ?」



 狂暴女のあの豊満な………好きなように………



 いやいや、貪る前に殺されるでしょ絶対。



 オレは善良な自衛官なの。


 今分かったがこの両親………ある意味"毒親"だ。



「それじゃぁ、このあと一緒に書庫に行ってこの国の文化について学びましょ?これからこうじ達がこの国で色々するのには損じゃないはずだよ」



 そういうことでオレは朝食を済ませた後、ララエナと共に場内にある書庫に赴いた。



---


 現在に戻る



"ティグラーガ王国憲法全集②"より抜粋。


"この国における婚姻には前段階に以下の約束事の一つを守ること"


"一つ、互いの両親が子らの諸事情を鑑み、互いの子らの能力が釣り合っていると判断されれば見合いを行うこと"


"一つ、男性が女性に好意を打ち明ける際には、女性の尾を掴み、その意思を伝える。そして、意中の女性が騎士及び騎士に準ずる者であれば決闘において男性が優れていることを証明すること"


"例外:女性から好意を打ち明けた際にはその限りではない。"


「━━━マジか………」


「大マジだよ」


 開いた口が塞がらない浩司に机を挟んで向かえに座っていたララエナが応えた。


「これはね、過去、ティグラーガで離婚ラッシュが起きたことが発端で、離婚率を減らすための当時の国王が出した苦肉の策なんだって」


「でも、ほらオレって一般市民で、ただの平民だよ?」


「こうじは騎士爵をもってるってアイシェお姉ちゃんが言ってたわよ?」


「そうでした………」


「それに、こうじ………」


「うん?」


「お姉さまの"裸"、見たでしょ?」


「━━━あれは事故………」


「それでも、ここにね"如何なる事情があろうとも、嫁入り前の女性の裸を見た者はその責任を果たすべき。もし、責任を取らないのであれば重い制裁を与える"って書いてあるの。これで本当に責任を取らないならこうじはただのゲスだよ?」


「………………詰んだ」


 浩司はここティグラーガ王国の法律に定められている決闘からは逃れられないことに絶望し、頭を抱えた。



 しかし、ララエナは浩司に嘘をついていた。



 最後の文面は真っ赤な嘘であった。


 ララエナは形はどうあれ自分の姉であるリリエナをどうしても浩司と婚姻を結ばせたいがため嘘をついた。


「だから、エリー達とお姉さまの誰かからきちんと正妻と側室を選ばないとね、こうじ」


 ララエナは浩司にバレないように舌をだして茶目っ気な表情をしていた。


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