第48話 捕虜になりました
「おい、アリエ、前の時みたくオレの力を引き出すことは出来るか?」
《出来るわ》
「前よりも強く引き出してくれるか?」
《出来なくはないけど、今の貴方の状態なら一瞬しか出せないけどそれでもいい?》
「あぁ、頼む!」
《それなら人気がない森の中が丁度いいわ》
「わかった!ならあいつを森の中に誘導する」
先ずは奴の矛先をオレに向けさせないと彩菜三尉達を撤退させることも出来ないだろ。奴の気を惹き付ける手段はコレしかないか。
浩司は脳内をフル回転させ素早く作戦を立案した。他の者からしたら作戦とは呼べる物ではない。
「岸本!寺井二曹!オレの合図でスモークを投下。その後は谷口と彩菜三尉を車両に乗せて撤退!あとは西曹長の判断でデルクさんと行動しろ!」
浩司は二人に捲し立てるように指示を出した。
『了解!』
『了解ッス!』
「よし、あとは任せたぞ」
浩司は最後にそう告げオーガの元へ走り去って行った。
浩司はオーガへ一直線に向かって走った。心の中では火の玉を撃ってこないよう祈りながら。
「(そろそろか…)」
オーガとの距離は既に50メートル圏内に入っている。
浩司の手には手榴弾が二つ握られていた。手榴弾は安全ピンを抜いたあと相手に投げた直後に安全装置が外れ数秒後に爆発する個人携行の中でも火力が高い装備品だ。
「今だ!スモーク投下!」
浩司の合図で本来は軽装甲機動車には取り付けられていない射出装置から煙幕弾が射出された。発射された煙幕弾は直ぐに破裂し辺り一面を直ぐに煙で覆い隠した。
その破裂音と同時に浩司はオーガに向けて二つの手榴弾を投げ込んだ。
浩司はその場でうつ伏せになり爆発に備えた。
投げ込まれた手榴弾は見事にオーガの足元近くで爆発した。
手榴弾の破片が刺さったのかオーガはその場に片膝をついてもがいていた。
「(これで奴の視界には彩菜三尉達は見えなくなってるだろ、あとは森の中に誘導させて対決だ)」
浩司はMINIMIを構え引き金を引いた。
「おらおらおらぁぁーー!こっちに来いよオーガ!」
全弾オーガに命中したがどれもかすり傷程度しかダメージを与えれてないようだ。
オーガは立ち上がり浩司を捉えた。
「おし!こっちに来い━っ!うぉ!?」
オーガが近くにあった岩を浩司に目掛けて投げつけてきた。浩司は咄嗟に避けるもMINIMIが岩の餌食になってしまった。
「おいおい、マジか……でもな、こっちには秘策があるんだよ!オレを殺したかったらついてきな!」
浩司は理解出来るわのか分からないがオーガに悪態をついて森の中へと全力で走り去っていった。オーガも浩司の存在しか頭にはいっていないのか無我夢中でその後を追って森の中へと入っていった。
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しばらく走り続けた。もし走っている最中に後ろから火球を撃たれないようにジグザグに走りなるべく見失われないよう適度な距離を保って走り続けた。でも、それも長くは続かない。
いくらT:ASを装着していても体力には限度がある。まして、最後に止めを刺さなければならないのだ。ある程度体力は温存しなくてはいけない。そんなことを考えていたら既に追い付かれてしまった。
「飛んでくるとか反則だろ」
浩司は息を切らしながらそう呟いた。
二つ目オーガを以前の戦闘でも驚異的な跳躍を見せていた。きっと、事前のドローンによる偵察で確認できなかったのはリザードマン達よりも後方で待機していたからに違いない。
「って油断しすぎなんだよ!」
浩司は左腰にあるマチェットを鞘から引き抜くとそのままオーガに投げつけた。
油断していたオーガは防ぐことも出来ずマチェットはそのまま左目にヒット、片目の視力を奪うことに成功した。
「っしゃぁ!」
だが、オーガを激昂させる結果に繋がった。
「オオォーー!!」
オーガが雄叫びを上げた瞬間、周りの木々達は薙ぎ倒され、浩司も風圧に耐えきれず吹き飛ばされた。
「ってぇ……叫んだだけでコレかよ……」
《ちょっ浩司!!危ない!》
「へっ?」
今度は浩司が油断仕切っていた。オーガが未だあの場所に留まっているものと思い込んでいた。しかし、オーガは雄叫びを上げたあと吹き飛ばされた浩司を追いかけ全力で息の根を止めに右手を振りかざしていた。
「(死ぬっ!)」
浩司は死を覚悟し、目を瞑っていた。
ここからオーガの右手の拳が浩司を叩き潰すまでほんの数秒である。だが、浩司にはそれが数分にも感じられる一瞬であった。
「(オレの力を出す前にこんな所で死じまうのかよ…オレにはまだまだやることがあるのに……やることが……やることが……、どうせなら結婚して自分の子供をこの世に残して死にたかったなぁ。エリーとの子供ならやっぱり金髪ハーフで可愛くなりそうだな……美優紀となら純日本人だけど、美優紀に似たらモテるだろうな……アイシェちゃんとなら………いやいや、そもそもアイシェちゃんはまだ高校生だし!何を考えてるんだオレは!うぅ、それよりなんだよ、急に肌寒くなってきたな。コレって死ぬときの感覚なのか?いや、どんどん冷えてきた。どうなってるんだ?)」
数秒の間に起きた浩司の脳内会議であった。
目を開けた浩司の目の前には信じられない光景が広がる。
氷の結晶と共に空から人影が落ちてきた。
「神の代行者たる我に力を与えん、"アイス・ブレード"!!」
なんと中二病なセリフか。
空から落ちてくる女性がそう叫ぶ姿を見て浩司は思った。女性は着地と同時に太刀を鞘に収め、長い髪を揺らし浩司へと振り向いた。
浩司は目を奪われた。
何て綺麗な人なんだ。白?いや、銀髪?に猫耳。白く透き通るような肌にしなやかに長く、パンツが見えるかどうかギリギリまで捲し上げられて見える太もも。そして顔を下半分覆い隠す虎の口を象った面具をつけていたため顔はよく分からないが目がとても綺麗だ。全体的にそこそこボン・キュ・ボンなスタイル、どことなくララエナを大きくしたような容姿で気品を感じる。
「って、オーガは!?」
女性で隠れていてオーガの様子は確認できなかったのがオーガの腕が力なくぶら下がり血吹雪が見えた。
「(この人が殺ったのか……)」
そうっと視線を女性に戻したら目が合った。
「ハハハ、助かりました……ありがとうございます」
ここは普通に当たり障りのない会話から始めるのがベターだろ?ここから"あなたは命の恩人です""安全な所まで送りましょう"って流れになって村に無事帰還になるのがオチだろ?
そんな浩司の考えは意図も簡単に砕かれる。
女性が急に太刀を引き抜き浩司の喉元へ剣先を突きつけてきたのだ。
「貴殿は何者だ!!何故、この"紛い者"と戦っていた?!いや、それよりもその身に付けている武具━━魔導鎧ではないか……どこの手の者だ?」
女性の眼光が鋭く浩司に突き刺さる。
「(あっれ〜、可笑しいな。何でオレは剣先を突きつけられて両手を上げてるんだぁ?この流れ、どういうこと?)」
「質問に答えろ!さもなくば!━━」
女性は急に太刀を振りかざした。
「ちょっ…ちょっと待って!オレは怪しい者じゃ━━」
浩司は焦った。
「怪しい奴に限ってそのセリフを吐く!」
浩司はさらに焦った。
「(ヤバい!この人は人の話を聞けないのかよ、このままならマジで殺られる)」
折角、繋ぎ止めれた命が次は目の前にいる美しい女性に切り殺されようとしている。
「問答無用!!」
「ひぃっ!!」
女性が浩司へと太刀を振った。
直後、浩司は太刀の斬撃を避けるように女性に抱きつき、視界に入った猫のような尻尾を思わず握って引っ張った。
「ニャー!?キっ貴様!にゃにをする!」
先程まで浩司と女性がいた場所に強烈な一撃が放たれた。その一撃を放ったのはオーガであった。
オーガは先程女性の攻撃で首の左側を切られるも致命傷にはならず、左手で傷を押さえながら一撃を放ってきた。
「ニャっ、貴様、私を助けるために…」
そう言いつつ女性は立ち上がるも先程のような強気が失せていた。おまけに乙女の大切な尻尾を握られ力が抜けてしまったのだ。
コイツ……こんな腑抜けてた顔の奴に尻尾を握られるなんて……もしかして、これってアレが成立した?っていうことは私はコイツと……嫌、絶対に嫌。絶対に誰にも知られないようにしないと。
そう考えていたら足に力が入らないことに気が付いた。
「チっ、ここまで来るのに呪力を使いすぎた」━」
女性は打つ手なしの状態で浩司の方を見ると浩司の周囲に呪力が集まりだしているのが見えた。
「アリエ、もっとだ!」
背中にマウントしていた源太郎から授かった刀を腰に当てて居合いの姿勢をとり、浩司は体が熱くなってくるのを感じていた。
《これが今の貴方の限界値よ!!あとはそのまま力を全て刀に乗せて切るイメージで放つのよ》
「おぅ!」
《技の名前は━━━━》
「斬鉄っ!!」
《斬鉄っ!!》
鞘から勢いよく引き抜いた刀の刃文全体から圧縮された呪力が刃がオーガに吸い込まれるように命中し、胴体が上下に真っ二つになりオーガは絶命した。
「はぁはぁ。どうだ!これが…オ…レのち……か…………」
浩司はその場で膝から崩れ落ちるようにた倒れ込んだ。
「何なんだこの男は………」
女性は目の前にいる男が何なのか、自分達にとって脅威になる敵なのか計りかねていた。しかし、"紛い者"を倒した。それだけは事実だ。
「リリエナ様ぁーー!!」
そう叫びながら黒装束を纏った一人の獣人女性が木から飛び降り現れた。
「遅かったな、カトレア」
リリエナと呼ばれた女性は太刀を鞘に収め、オーガの死体を確認していた。
「だって、飛燕豹脚を使ったリリエナ様に追い付く者なんて国中どこ探しても居ませんよ?」
カトレアは、息を切らしながらそんな無茶なぁっと言いたげな表情で答えた。
「黒猫団団長の名が廃るぞ。そんなことよりそこの男に手枷をつけろ、連行する」
「やはり、この紛い者も………」
リリエナの目の前にあったオーガの死体が砂のように崩れ去り、その中からは紫色に光る石が出てきた。
カトレアは浩司の手に手枷をちゃかちゃかとつけながら答えた。
「そ・れ・よ・り・も、私見ちゃいましたよ」
「何をだ?」
不気味にニヤつくカトレアに見向きもせず、石を手にとり見つめていた。
「リリエナ様ぁ〜、さっきそこに倒れている"人族"の男に尻尾掴まれてましたよね?」
「ニャっ!!見てたの?!」
思わず大声をあげてしまった。その反動で手に持っていた石を落としそうになってしまった。
「動揺してる動揺してる!これは王都に帰ったらきちんと国王様に報告しないと」
何故かカトレアはルンルン気分で言い土産話が出来たかの如く話す。
「嫌ー!絶対に"父上"には言っちゃだダメー!!」
リリエナの表情には先程までの凛々しさの欠片もなかった。
そして、浩司は眠りながら捕虜となった。




