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タクティクス・コンバット・オブ・オーガ  作者: トビオ
《第1章 別れと別れと再会と》
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4話 運命の出逢い

 竹田は人生で初めてヘリコプターに乗った。

始めは少年心が沸いて楽しかったが、10分もしたら段々具合が悪くなってきた。正直、人生の折り返し地点をとっくに過ぎている身には辛いものがあるだろう。搭乗したさいに隊員から渡されたヘッドホンから声が聞こえた。


『教授、そろそろ目標地点に到着します。……我慢出来ますか??』


『あっあぁ…大丈夫だとも。』


『……教授!あの村です!』



 村には先発隊が着陸地点を確保していたため、ヘリはスムーズに着地できた。


「…お手洗いはどこかな?…」


「彼方の角に仮設トイレがあります」


「…ありがとう…」

もう限界であった。競歩の選手並みに早歩きをしてトイレに駆け込んだ。


おェー………



「……では、参るとしようか」


「………彼方です。足元気をつけて下さい。」


多分嗚咽を聴かれたであろう隊員に案内をしてもらう。



この村は人口300名程で、特産物は"松茸"が採れるみたいだ。あと、観光地としても隠れたパワースポットがあるとのこと。竹田はあまり詳しくはない。

 

 案内されたのは村にある唯一の診療所である。建物の周りには銃を所持した隊員が警戒している。


「……(何から警戒しているのだ?)」

と、考えていたら……


「教授お待ちしておりました。私、事務次官の渡辺と申します。」


竹田に挨拶をしてきた渡辺は端整な顔立ちにスーツがとても似合う男だった。一言でいったら知略家という印象をもった。


「歴史学者の竹田と申します。…私に見て欲しい"モノ"とはなんですかな?」


「教授、これから見るものは他言無用にお願いします」


「そんなに重要な"代物"ですかな?」


「見てもらえたらわかります」


診療室の奥に通された。部屋に入ったとたん竹田の視界に入った"モノ"に絶句した。


「…………ニネップ…ヤー………オチカ……オチカ……」

そう何度も繰り返し喋る女の子がいた。


「………これは……歴史が変わるぞ……」

竹田の心の声が漏れてしまった。


竹田の目線の先にいる女の子には"犬のような耳"と"尻尾"がついていたのだ。



------------------------------------


 エリーが帰国してから半年が経った。オレは体が回復したあと昇級をして実戦に3回程参加した。

大きな怪我もなく、分隊も一人も欠けることなく全員が生きて帰ってこれている。

 

「シナナイデネ…」


初めて女性から心配されたあの言葉。

あれから実戦にでてはエリーの言葉を思い出す。誰かに家族以外に本気で想われたことはない………と思う。

あれからエリーからの連絡はない。まぁオレは連絡先を知らないが彼方の方が知っているだろう。何せ一国の副大統領の娘さんだ。勝手に親父達と電話したぐらいだ。一国の情報網は侮れない。


 病院での一件以来、美優紀とは何となく気不味い感じもして居ずらくなるなぁと考えていたら、美優紀の出勤日数が急に減っていたのだ。多分あの事とは関係ないと思うが少し気になった。


「なぁ谷口暇だなぁ…」


「先輩、それは贅沢な悩みですね…あれから美優紀ちゃんと話しは出来たんですか?」


「いやぁ何となく避けられてる感じで、部屋担当にも着くことなかったしなぁ…避けられてる?」


「それはもう避けられてますね。御愁傷様です」


「お前は他人事だと思って……」


「いやいや、自分先輩に尽くしましたよね!?まだドクターストップかかってるなか筋トレメニュー考えて、屋上で人目を避けて一緒にメニューやりましたよね!?将来の"義弟"のためと思って、休みの日は必ず見舞いにも行きましたよね!?」


「通い妻みたいに尽くしてくれて入院生活は楽できたぞ!ご苦労さん!」


「全くです」


谷口とはこういう男なのだ。仲間思いで優しい奴なのだ。彼女より友達を大切にするのだ。だから、一番信頼出来る仲間だとオレは思っている。女より仲間を優先するから彼女が出来ないのでは?と考えたが本人には内緒にしておく。


「姉ちゃんとはどうなったの?」


「仲良くさせてもらってますよ♪もしかしたらホントに先輩と家族になっちゃうかも♪」


「頼むからあんまりノロけるな。相手は血の繋がった姉ちゃんだ。あんまり想像したくない…」


「じゃぁ聞かなきゃいいじゃないですか」


「弟しては一応姉ちゃんの事は心配してるんだよ」


「そこは安心して下さい!美咲さんは自分が守りますから!この前だって軟派野郎をぶっ倒しま……先輩!対象が出てきました!行きましょう!」


「下手こくなよ谷口!」


「了解!」


二人同時にミニバンから降りた。降りたった二人はいつもの迷彩柄の戦闘服ではなく"礼服"を着ていた。ただ、左脇にはUSP9を身に着けていた。




 配置転換の辞令を貰ったのはつい一週間前だった。駐屯地の食堂で谷口と西曹長と昼食を食べていた。寺井ニ曹は風邪でダウンし、千葉分隊長は方面総監本部に出頭命令があり、この三人で食べに来ていた。

 

『ニュースです。昨日、━━方面所属の陸上自衛隊の部隊が演習中に誤射をしました。被害は演習地域付近の━━村の家屋に被害が出た模様です。幸いにも2日前に廃村し住民も既に退去していたことで人損はありませんでした。……この事件に防衛省から"再発防止に徹底して努めていきます。"とコメントをだしています。……次のニュースです━━━━━』


「また、下手こいた部隊もいるもんだ」


「谷口、次は自分がやらかすかもしれん。他人事だと思っていたら足元すくわれるぞ」


「曹長は心配し過ぎですよ!このメンバーで死線を潜り抜けたじゃないですか、このメンバーなら大丈夫ですって!」


「そういう奴が早死にする……」


「まぁまぁその辺にしましょう、西曹長。谷口も人生の先輩の忠告はきちんと聞くこと」


「すいませんでした。以後気を付けます」


「謝るな、年寄りの戯れ言だと思え。死ぬ順番は昔から年寄りからって決まっているからな、儂より先に死ぬことは許さん」


「了解です!」


あれ?何かいい話になっちゃった。昼食を食べ終わり分隊控え室に帰ったら千葉分隊長が帰ってきていた。


「皆揃ったな!うん?寺井は風邪でダウンしてたな。まぁいいや。聞いてくれ!」


「…(寺井ニ曹の扱い雑だな)」


「今日でこの分隊は解散となる!新たな辞令を貰った!今から呼ばれた奴は新設の部署に配置転換となる!それ以外は他の分隊に配置される。じゃぁ呼ぶぞ!西曹長!…篠崎ニ曹!…谷口三曹!以上三名はこのあとオレと一緒にドライブだ!私物は追って郵送される手筈だ!それじゃみんな今まで一緒になれて誇りに想う!この分隊は最高だった!また新しい最高の仲間と出会え!解散ぁん!!」




 今オレたちは陸上総隊の直轄部隊として所属している。ただ、部隊名は"独立戦闘大隊"と大それた名前が付いたが大隊規模の人員を見た事がない………ただ千葉"隊長"が曰く、「何でも屋」だとのこと。上層部のご都合に振り回される部隊ということだ。


 今は作戦の都合で都心に来ている。オレと谷口、千葉隊長と西曹長のバディを組みある目標を"護衛"している。


『キャー!ユキさまー!こっち向いてー!』

パシャ!パシャ!キャー!

『アッコちゃ〜ん可愛いー!』

『リミさーん!!カッコいい!!』

パシャ!パシャ!


三人が歩く度々にシャッターオンが鳴る。


その音とフラッシュの中、三人に近づく篠崎と谷口。


「お疲れ様です、お早く車へ。セーフハウスまで移動します」

篠崎が三人を車へエスコートした。


「のっしーありがとう!」

「ご苦労様です」

最後にユキが乗り込む、

「……ども」


「…?」

篠崎は3人が乗り込んだのをみて助席に乗り込み、谷口がそそくさと運転席に滑り込み車を発進させた。



セーフハウスは近かった。元々は自衛隊員の保養所を改修しセキュリティ設備を充実させた建物となった。

今回の保護対象はどこぞの国の要人…とかではなく、日本の国民的アイドル?的な存在のガールズバンドの"beautiful・snow・world"だ。

なぜ、このガールズバンドを保護しているかというと、最近中東欧州戦争が平和路線に向かいつつあるが、まだまだ戦闘は続いている。

 

 戦時下にこのガールズバンドの歌が前線で戦っている自衛官達からラジオでリクエストがバンバン届いているとの話だ。また、テレビ出演が続き一躍スターになった。

 防衛省がこれを聞きつけ『前線で戦う自衛官の気持ちを鼓舞してくれる歌だ』とのことで、自衛隊PRキャラクターに任命されて応援歌の作成依頼をしているという流れだ。

 

保護している理由?それは"ストーカー"だ。


特にメインボーカル"ユキ"のストーカーが一番タチが悪い。その他の"アッコ"と"リミ"のストーカーは警察で対象出来た。ユキのストーカーを警察が対象出来ないかというと、自衛隊PRキャラ任命後事務所にユキ宛てのプレゼントに"手榴弾"が入っていたのだ。また、嫌がらせのメールが海外のそれも中東のサーバー経由で送られていたこともあり、戦時下という状況からオレ達が駆り出された…ということだ。



「マネージャー、ホントに自分達で良かったのですか?女性自衛官なら沢山いますよ?」


「心配いりません。本人達からの希望ですので」


「誰も知り合いではありませんよ?」


「あら?篠崎さんと谷口さんはあの子達のファンだと聞いていますが?」


「ファンですが、顔すら知らないんですよ?」


それもそのはず。三人ともレース状のマスクを顔を隠すように被っているからである。なんで指名されたかはわからない。


「あなた方は要人保護のスペシャリストだと聞いています。実戦経験も豊富で、あのアルマン大使誘拐事件で大使を救出したというじゃないですか。これ以上の頼もしい人材はいません!」


「…(そういうことか)マネージャー、一応大使誘拐事件はマル秘事項ですので、他言しないで下さいね」


「わかってますわ、お国のご都合なのね」


「すいません」

などとマネージャーと話していたら2階から声をかけられる。


「ね〜マネージャー、明日のスケジュール確認したいんだけど〜」

アッコの声だ。


「はいはい、今行きますね!あの子達、仕事への情熱は本物なのよね」


「だからファンが増えるわけだ」


「篠崎さんそれではまた明日」



 セーフハウスの1階で篠崎と谷口が待機して、千葉隊長と西曹長が周囲を警戒している。

普通は若者が外で警戒にあたる筈だが、隊長達は「若い娘達には若者で対応してくれ」とのこと。


「谷口どう思う?」


「ユキちゃんの顔を観たいですね」


「そうじゃなくて、それはあるが、今回のストーカーだよ!」


「うぅ〜ん、なぜ手榴弾?って感じですよね〜」


「普通のストーカーじゃないよな、あと何でユキちゃんは俺たちにも顔を見せない?あとコミュニケーション!…"ども"…しか聞いてないぞ」


「何か話したく無いんでしょうね…」


「そんなもんかぁ」


「まだ起きてた!!」

と大きな声で姿を現したのはドラム担当のアッコだ。


「アッコさん、休まなくて大丈夫ですか?明日はPRポスターの撮影と伺っていますが……」


「うん、大丈夫だよ!それより!さっきユキちゃんの話ししてたでしょ?」


「何でオレたちには顔を見せてくれないんですか?アッコさんとリミさんは素顔を見せてくれているのに…」


「それはね〜ユキちゃんはボーカルだけじゃなくて他にも普通にお仕事してるからだよ!」


「…?アルバイトしないと食べていけないんですか?」と、堪らず谷口が質問した。


「違うよグッチ〜。ユキちゃんはボーカルと同じぐらいそのお仕事が大好きでしてるんだよ!」


「どんなお仕事でしょうか?」


「のっし〜達の仕事と同じで"人の役に立つ"お仕事だよ!!これ以上は言えませ〜ん!」


「…(気になる)」


「それじゃおやすみなさい!のっしー、グッチー!今日もありがとね!」



アッコが階段を駆け上がりドアを閉めた音が聞こえた。

「何だかユキちゃんが謎めいてきたな」


「ですね、でもイイ人そうでよかっです」


「よしっ2時間置きに仮眠をとるぞ!先に谷口が休め」


「了解です」



 それから一向にストーカーからのコンタクトがなく、ただ"ボディーガード"と化した仕事をこなした。谷口は姉ちゃんとここ三週間デートが出来ず愚痴っている。姉ちゃんの彼氏から恋愛相談されるのは何とも言えない……

 そう谷口は正式にお付き合いが出来たのだ。何とあの"女王様"気質の姉ちゃんから告白したようだ。……自分の姉ちゃんが告白とか考えられない。まぁ谷口と上手くいっているならいいことだ。両親も早くに孫の姿を見る日が近いかも知れない………オレの方はさっぱりだ。エリーからも連絡はないし、"アイジン"なんて作る暇もないしそんな都合のイイ人はいない。オレは真っ当な自衛官だからな。


ある日、本部に呼び出しがあった。保護の任務が終了したのだ。


任務終了が告げられてオレは今日非番で何も予定のない日だ。本部から官舎に帰る前に喫煙所でタバコを吸い始めた。

喫煙所は全体がガラス張りで外からは丸見えだ。本部の入口が見通せる場所にあり、色々なな業者が出入りしていた。


「…(今日は帰ったら何しようか)」

と、考えていたらガラスをコンコン叩く音が聞こえた。振り向くとそこにはbeautiful・snow・worldのユキちゃんが居た。勿論、レース状の覆面をしていた。


「ユキさん、どうかされましたか?マネージャーとはぐれたとか?」

本部は広い。最近配属されたオレも迷子になりかけることがある。


「………タバコ…………体に悪い………」

小さい声で話しかけてきた。この三週間で聞いたユキちゃんとのコミュニケーションで一番長い言葉だった。


「…わかってはいるんですけどね。どうしても辞めれなくてね。前にも注意されたことあったんだけど、その人が居なくなったらつい吸いたい衝動にかられて結局辞めれなかったよ」


「…………」


「…(ヤバい、何か変なこと言ったかな?)」


「オレ、ユキさん達の曲好きで、昔から聞いていたんですよ。仕事で不安なときとか結構勇気貰いました。これから顔を会わす機会は無くなると思いますが、体には気をつけて下さい。あと、まだストーカーの件は解決された訳ではないので何かありましたらいつでも相談に入らしてください」


「………うん」

また小さい声だった。心なしか下をうつ向いている様に見えた。


「ユキさーん!もう次の現場に出発しますよ!」とマネージャーが遠くから声をかけてきた。


ぺこっとユキちゃんがお辞儀をして駆け足で去っていった。


「……(もっとファンアピールしたかったなぁ)」と篠崎は心の中で思った。



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