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タクティクス・コンバット・オブ・オーガ  作者: トビオ
《第3章 2つの世界》
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第30話 全滅

指令室は侵入者への対応で奔走していた。

駐留基地内にある貴重な機甲戦力を取り戻すため第三戦隊(ベータチーム)が格納庫にいる足軽討伐に逐われていた時に電波障害が改善された。


「オメガ3、識別信号消失(シグナルロスト)!」


電波状況が安定したことで第一戦隊の情報が指令室に届いた。悲惨な報告という形で。


「えっ?………」

その場にいたマリアは何がどうなっているのか解らなくなっていた。


シグナルロスト。


それはタイプ:イが大破したことを意味していた。


3段階のレベル分けでは大破は一番の被害状況であり、"運"が悪ければパイロットの命も助からない状況である。


指令室にある大型モニターの横にはタートルと同じように各パイロットのバイタルデータが表示されている。


しかし、そこにはオメガ3の天道技曹のデータだけが未受信の表示になっていた。


「…うそ……うそ…嘘嘘嘘嘘よ!!!」

マリアは直立したまま現実を否定するように同じ言葉を繰り返し叫んだ。

徐々に彼女の眼には溢れんばかりの涙が溜まり今にもこぼれ落ちる寸前であった。


「輝矢ーーーー!!」

マリアは(こぼ)れてくる涙を抑えるように両手で顔を覆いその場に膝から崩れ落ちてしまった。


「そんな………」

美優紀はそんなマリアの姿を見ていたたまれなくなった。


「マリア………」

エリーは横から泣き叫んでいるマリアをそっと優しく抱き締めた。


私にはこれしかできないなんテ…


エリーはマリアの気持ちが痛いほどわかる。

それは美優紀も同じであった。


最愛の人の安否が不明になったなんて心が裂かれてしまったようなものである。


「未来ある若者が命を散らすなんて、なんと悲しいことか……」

竹田はこの光景をただ見守っていることしか出来なかった。


そんな悲しい雰囲気の指令室に無線が入る。

《こちらベータブラック1。指令室、格納庫は何とか奪取に成功。これより機甲部隊の出撃準備に取り掛かる……それとベータチームから2名の殉職がでた…………弓だけではなかった…………敵は"銃"を持っている》


---


《天道ーー!!》

オメガ1はコールサインではなく名前を叫んでいた。それだけ今目の前にある状況を否定したいのだ。


オメガ3のタイプ:イは、人間の体で丁度左鎖骨辺りから腕が千切れてそのままうつ伏せになり倒れていた。


オメガ1からの無線にも応答がない。


《寺井!その場から援護射撃しつつアルファに状況を伝えろ!》


《了解!》


オメガ1はゴルシコフを投げ捨てランスバンカーを装備した。


《よくも殺ってくれたな畜生が!!》


西曹長は普段は仏頂面であることが多いが下の者の面倒見が良くあまり汚い言葉を使う人間ではなかった。しかし、そんな彼にも我慢出来ないことがある。


"死ぬのは年寄りからと決まっている"


いつも若い隊員に口癖のように言ってきた。だから、自分より先に若者が殺られるのを見て激昂してしまったのだ。


オメガ1はランスバンカーを構え突撃した。


奴は動きが早い…出来るだけ早く懐に入らなければ………


そう西曹長は考えていた。


ただ、西曹長は知らない。目の前にいるオーガが二つの目に二つの角が生えていてそのオーガは"火の玉"を吐くことを知らなかった。


「なっ!?…………」


突如明るく光ったと思いきやモニターから映像が消えたと同時に頭部が爆発しオメガ1はその場で膝を着いた。


《曹長ーー!!逃げてー!!》


寺井二曹の言葉は叶わなかった。


近づいたオーガが金棒を横一文字に振るい無惨にもオメガ1は右肩から地面に食い込むように吹っ飛ばされた。


「くそくそくそーー!!」

オメガ2は膝撃ちの姿勢でゴルシコフを撃ち続けた。


オーガは銃撃を気にも止めないで近づいてきた。


銃弾は全て胴巻で防がれてしまっていた。


オーガは金棒をオメガ2に目掛けて投げてきた。


為す術なく両手でガードをしてはみたが両腕と頭部が千切れオメガ2はその場に崩れ落ちた。


3機のタイプ:イが瞬く間に殺られオメガチームは全滅してしまった。


---


謎のジャミング状態が改善されようやく外の情報がタートルに入ってきた。

オペレータ-はタートル内でいち早く情報を知る立場だ。戦況が有利な時はまだいい。しかし、戦況が不利になり味方部隊の被害が深刻なものだと"◯◯部隊が壊滅""◯◯が殉職した"などの報告を聞かされたときには他の部隊にも伝達しなくてはならない。その時、作戦に参加している部隊に死んだ隊員の友人が居ようものなら悲痛な叫びを聞かされる。

最前線から離れた安全な位置にいるオペレーターにとっては辛い場面である。


それを教官から聞かされた若菜三曹は味方の被害が最小限になるよう戦況の分析、戦術の策定を誰よりも早くこなそうと決意した。

いつか一緒の作戦に参加したときに大切な姉や仲間を守るために。


しかし、そんな彼女にも太刀打ち出来ないことがある。

"ジャミング"といわれる電波障害である。ある特殊な機材が装備されていれば解決は出来たかも知れない。しかし、このタートルには余分に積載出来る余裕も少なかった。ただ、一番の理由は相手が人間ではないということだ。

"ジャミング"は電子戦であり、電子兵装を持っていないと思われた対オーガ戦には不要と判断されていた。


「そんな……山田三尉……オメガチームが…」

若菜三曹が信じられないかのように報告をした。


オメガ1・2についてはバイタルデータが送られてくるからパイロットの生存は確認出来たがオメガ3の天道技曹のみシグナルロストである。


この状況に危機を感じた山田三尉は何とか戦力を集中させ戦線を縮小させなければならないと悟った。

「岸本!再度ドローンを射出して現場状況のデータを集める!」


「了解!」


「山岸!ここにいては目の前の戦闘に巻き込まれる!一旦駐留基地内に戻るぞ!」


「それが駐留基地内で戦闘が発生し、味方も混乱状態のようです」


「ならアルファチームのサポートに向かう!何としてもあのオーガを倒すにはタイプ:イが必要だ。山岸、全速力だ。楠木三曹はドローンの情報をまとめてアルファの戦術サポートをしろ!」


「了解!」

「了解!」


「(………お姉ちゃん……死なないでね……)」


タートルがイカズチから遠退いていく中、若菜三曹は片腕がないイカズチに乗っている彩菜三尉の無事を祈っていた。


---


今、アルファチームはオメガチームの救援のため全速力で向かっている。


《オメガから応答がありません!尚、オメガ3はシグナルロストです!》


《アルファ3、オメガの位置は?》


《あともう少しです!》


《アルファ1、駐留基地の方角から救援信号を確認!》


《見事にやられたな。どうやら、オーガ勢は俺達を分散させて各個に撃破し基地を襲撃する作戦のようだ。オメガと合流し戻るぞ!》


《了解!》

《了解!》


オレ達は走った。急がなければ仲間の命が危ない。


《この森を抜けたら目の前です!》


《ゴルシコフを構えろ!オーガを確認したら即銃撃する》


タイプ:イは走りながら両手に持っているゴルシコフを構えた。


《レーダーに反応あり!会敵します!》



谷口の報告で手に力が入る。直ぐ目の前にオーガがいるんだ。


大丈夫、今回も倒してやる。


アルファチームは森を抜け、視界に入った光景を見て愕然とした。


「………嘘…だろ……」


両腕と頭がないタイプ:イ。頭と左腕がなく薙ぎ倒されているタイプ:イ。

最後にほぼ左半身を切られたかのように倒れているタイプ:イ。


辺りには漏れ出たオイルが撒かれていて、これが人間なら"血の海"のような惨状であった。


「っオーガは何処だ!?」

レーダーには今この場にいる反応を示している。


《対空警報!?全機散開!!》


アルファ1の指示ですぐさま3機のタイプ:イは三方向に散らばった。


先程までアルファチームが居たところにオーガが降ってきた。

金棒を地面に打ちつけるように空から落ちてきたのだ。


金棒が打ちつけられた地面が窪み、周囲の土が盛り上がっている。

明らかに落下による運動エネルギーを利用して上から攻撃を仕掛けてきたのだ。単純に攻撃力が増し強力な一撃である。


オーガが立ち上がりこちらを見てきた。


「舐めたマネをして!」


浩司はゴルシコフでオーガを撃った。


全弾命中したがオーガはびくともしなかった。

不意にオーガは口を開いた。


「?………!?」


オーガの口が光った瞬間、浩司は回避行動をとった。"直感"というのだろうか。ただ反射的に動いたのだ。

空手の組手で上段の回し蹴りを避けるときに上半身横に捻りかわす癖がでたのだ。


《先輩!奴の口から火の玉が!》


《あっあぁ》


危機一髪だった。あれを受けたらタイプ:イも無事ではいられない。


《アルファ各機、足を止めたらいい的だ。奴の周りを周りながら射撃しろ!隙をついてランスバンカーで仕留める!》


千葉隊長から指示がきた。


流石、特戦群出身だと浩司は思った。


《了解!》

《了解!》


3機のタイプ:イはオーガを中心として銃撃を開始した。

このフォーメーションは簡単そうにみえるが神経を使う。

なぜなら、オーガから外れ逸れた銃弾が前方にいる味方に当たる可能性があるからだ。


この3人ならこなす自信があった。

今までに一緒に死線を一緒にくぐり抜けてきたこの3人なら。


ただ一つ問題があった。

弾切れである。


予備弾創は所持していたが装填する際に隙が生まれる。


3機のタイプ:イのモニターの端にはゴルシコフの残弾数が表示されている。刻々と0に近づいている。


3人が焦るなか突如無線が入った。


《アルファチーム!!森を背中に一列横隊!援護射撃をする!合わせて一斉射撃用意して!》


聞き慣れた声だった。オペレーター席に座ったら性格が豹変する彼女の声だった。


オーガの足元に擲弾の雨が降り注いだ。

急かさずアルファチームはゴルシコフで一斉射撃をしオーガを後ろにある丘の向こうへ落とすことに成功した。どうやら崖になっていたようだ。


《ぼさっとしてないでトドメを!!》


若菜三曹から怒号が飛んできた。


この状況は若菜三曹がアルファチームの元へ向かっている間に導き出した地の利を活かした戦術であった。

昔からある基本戦術においては下から攻めるより上から攻める方が圧倒的に有利なのだ。


《アルファ2、ランスバンカーを装備。片をつけるぞ》


《こちらアルファ2。了解、武装をランスバンカーに切り替えます》


《アルファ3、奴が動かないように弾幕をはるぞ》


《こちらアルファ3、了解。先輩、一発かましてくださいよ!》


《任せろ!》


3機のタイプ:イはオーガにトドメを刺す為に丘の崖に近づきそれぞれが射撃体勢になるのに身を乗り出したその時だった。


アルファ3の頭部が爆発した。


《谷口ーーー!!》

大切な仲間であり、親友であり、家族である谷口をやられた浩司は叫んだ。


オーガは崖の下で足を折りその場から動けない状態ではあったが、敵が上から攻撃をしてくるであろうと火球を撃つ準備をしていたのだ。


《このヤロー!!!》


アルファ2はランスを射出した。ランスはオーガの喉に直撃し断末魔の叫びをあげることなく絶命した。


生体レーダーからは反応が消えたのを確認し浩司は谷口に無線を飛ばす。


《谷口!!大丈夫か!?生きてるなら応答しろ!谷口!!!》


《……せ…ぱ…だ……丈夫…す》


無線が途切れていて不明瞭だが谷口から応答があった。


「よかった………」

浩司は安堵した。


タイプ:イの頭部にはメインカメラ以外にも無線等の大事な通信装置の一部が内臓されているため頭部を失うと極端に通信能力が低下する。


アルファ2から谷口が脱出してきた。


「いやぁ〜死ぬかと思ったー」


気が抜ける一言だった。


《山田、谷口を拾いオメガチームの安否の確認を頼む》

決意を固めた千葉隊長から山田三尉に無線が入る。


《おい千葉。お前、まさかと思うがたった2機で駐留基地のオーガ討伐に行くつもりか!?》


《あぁそのまさかさ》


《自殺行為だ!今回のオーガとの戦力比はわかってるのか?!これから一時撤退して空自の爆撃を要請するのがセオリーだろ!》


《ダメだ。それじゃ時間がかかりすぎて基地にいる奴等が助からない》


《冷静なお前らしくないぞ!》


《それにな山田……》


《…何だ?》


《惚れてる女が危険にさらされているんだ。男なら命をかけて助けるもんだろ?》


やっぱり千葉隊長は天道先生とそういう関係だったんだ。端から見たらお似合いのカップルだ。


それにオレにも守らなければいけない大切な(ひと)達があそこにいるんだ。千葉隊長の気持ちはオレも一緒だ。なら、やるべきことは決まっている。


《隊長、行きましょ!仲間と大切な人を守るために!》


《お前も男だね〜山田そういうことだ。俺達はこれから討伐に向かう。オメガの奴らを頼む》


《わかった……だがなこれだけは言わしてくれ》

山田三尉は改まって千葉にこれだけは伝えようと思った。幹部学校からの腐れ縁の戦友に。


《死ぬなよ》


《…了解!》


アルファ1はタートルに向かって敬礼をした。


悪いなわがまま言って。


そう心の中で山田三尉に言った。


アルファ1は谷口が脱出したアルファ3が持っていたゴルシコフを回収すると2丁のゴルシコフを装備した。


《行くぞ、篠崎》


《了解!》


残りのたった2機のタイプ:イは最愛の人を助けるため駐留基地へ向かった。


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