表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タクティクス・コンバット・オブ・オーガ  作者: トビオ
《第1章 別れと別れと再会と》
3/66

第2話 出会い

 前期教育が終わりにさしかかった頃、職種(例えば普通科か機甲科など)を何にしようかと教育班の班員で談笑していたらオレだけが記入用紙を配られなかった。


「班付き、なんで自分だけ用紙がないんでしょうか?」

 班付きとは教育係りである班長の補佐役で、新人自衛官にとっては頼れる兄貴的な存在だ。


「ん?聞いてないのか?お前空挺候補に選ばれたんだぞ!よかったな!」


「…了解しました(聞いてないし……)」




 後期教育はあっという間に終わってしまった。何が印象的だったか?それは"落下傘"訓練だ。大変ではあったが、元々スカイダイビングに興味はあったからワクワクしてたし実際楽しかった。


オレは第一空挺団の特科大隊に配属になった。つまり大砲を撃つ部隊だ。


 そんなこんなで、世界情勢もかなり変化している。"中東欧州戦争"……エネルギー事情が発端で起こった戦争である。……石油の枯渇問題から原子力にも頼らない太陽光発電エネルギーへ転換したのが引き金になり、日本も同盟国と共に集団的自衛権の行使で戦争に参加した。


 そんな現代戦争では、核兵器は廃れてしまっている。一斉に各国が放棄したのだ。


 それは、高高度ミサイル迎撃ミサイルシステムが格段に進歩したからだ。目標に着弾する前にほぼ打ち落とされてしまう。では、核爆弾ではどうか…………これは確実に目標にダメージを与えられるが違う問題が出てくる。


"太陽光発電エネルギー送電システム"


一番の要である宇宙空間にある専用衛星機から地上施設に送られるマイクロウェーブが核に汚染した塵や空気で阻害されてしまう恐れがあるため、わざわざ高価な核兵器を製造・維持しなくなった。


今はミサイルを撃ち合う時代から、有視界戦闘主流の時代に徐々に戻っていったのだ。



 そんな世界で自衛隊に入隊したオレは特科大隊配属だったが、落下傘が得意で俊敏に動けることもあり特殊作戦群と合同の日本及び同盟国の要人保護の特別落下傘部隊に配置転換することになった。

 

 特別落下傘部隊でオレは特殊作戦群出身の千葉小隊長(当時は分隊長)と知り合い、千葉分隊長の隊に配属となる。


「よう!お前が空挺の期待のルーキーだな」


「期待されているか判りませんが自分は第一空挺団出身の篠崎三曹です」


「千葉だ、一応分隊長でお前の上司だ。よろしくな!お前さんは空手と銃剣格闘が強くて、運転も上手と聞いているぞ」


「空手は小さい頃からやってまして、銃剣格闘も好きでハマりまして一昨年は全自大会一位取りました。運転はよく荒々しいと言われますが…」


「まぁ言い方だな。━━これから面倒な発足式だ、ピシッと気張って早く終わらそう」


「はい!(……マジかー発足式面倒とか部下に言っちゃうのかい……)」



『━━━━━━━━によって、我々特別落下傘部隊が設立されることになった。優秀な諸君らの活躍に期待する』


『司令官に敬礼!』




 発足式から2ヶ月後いよいよ実戦に参加することになる。


------------------------------------


 隊のブリーフィングルームには1個小隊程の人数が詰め込まれていた。


「これから参謀より同盟国の親善大使並びに関係者12名の救出作戦を説明する━━━━━━━━」



 20時間前に中東勢力に燻っている戦争強硬派の下部組織…所謂テロ集団のようなものに戦争終結に向け会話路線に変更した同盟国からの親善大使一行が拉致されてしまった。



「━━━━以上が本作戦の全貌である。後程分隊長より各隊員に各分隊ごとの作戦行動を説明してもらう。なお、出立は6時間後だ早めに準備をするように。解散!」


 ブリーフィングルームから退室し分隊控え室で千葉分隊長より作戦行動について説明を受けた。

「━━━━━っということだ!皆気合いいれろよ!」


「分隊長〜!それってうちの分隊が一番重要な役目じゃないですか〜」

緊張感が漂う控え室で一発目に口を開いたのは衛生科(衛生兵というやつ)の谷口三曹だった。


「そうだ、やりがいある役目だ!因みに親善大使様は飛びきりの美人らしいぞ!他の分隊長も悔しそうにしてたぞ!ワッハッハー」


「…(緊張感のない分隊長達だな……)」


「っと、ここからは真面目な話だ!装備は統一して89小銃30発入り弾倉とUSP9消音器付きに松ぼっくりだ!各自確認の上出庫しろ━━あと親兄弟や大切な人に電話しておけよ!……おっと作戦については話しちゃいかんぞ!4時間後集合だそれじゃぁ解散ぁん!」




 電話室の前に足を運ぶが実際電話をしようか迷いに迷った結果立ち去ろうとしたら後ろから散々聞き飽きた声で呼び止められた。


「先ぱ〜いっ!ちょっと待ってくださいよ〜」


「どうしたグッチ?」

グッチとは"谷口"の愛称だ。


「先輩は誰にも電話しないんっスか??」


「いやなぁ━━両親はあんまり━━オレには関心ないからなぁ」 


「マジですか!?こんなスゲー先輩に関心ないとか考えられない」


「入隊することを応援してくれた2コ上に姉ちゃんがいるんだけど………」


「だけど?」


「性格に難があってなぁ……見た目は美人で自慢の姉ちゃんなんだが口がうるさいんだ……」


「自分が先輩に替わって電話しますよ!ニヤニヤ」


「………お前……美人に反応したな?」


「いやいや、ただ日頃からお世話になっている先輩のお力に少しでもなれたらと思い!、決してお姉さまにお近づきになり、あわよくばお付き合いしたいだなんてこれっぽっちも考えてませんよ!ハッハッハ」


大袈裟な身振りで必死に誤魔化す谷口を観てて少し考えた。コイツはチャランポランの様に明るく振る舞っているが、根はイイやつで周りに気を使えて嘘はつかない、最近では滅多に見かけない"お人好し"だ……………………ピッタリだ…………姉ちゃんの"下僕"候補に………。姉ちゃんは見た目はお姫様タイプだが、中身が女王様タイプで男を顎で使い少しでも気に入らなければ即男を捨てる。まぁ谷口なら大丈夫だろ。


「いいのか?顔も知らないのに……」


「大丈夫です!!お姉さまを悲しませるようなことは、"男"谷口!一切いたしません!」


今まででの谷口の敬礼でさまになっていた。


「まぁ頑張れや、ホレこれが姉ちゃんの番号」


「やっと、俺に春がきたーーーーー!」


早速電話の前に走り去って行く。


「(……ようこそ下僕の仲間にいらっしゃい)」





 作戦区域間近の上空を輸送機が飛んでいる。地上から地対空ミサイルを撃たれても今時代は"フレア"が装備されている。フレアとは、一言でいうと囮だ。ミサイルがこの輸送機に近づいてくるとフレアを射出し、バカなミサイルはそちらに気をとられるという物だ。

 100%の保証はないが"ない"よりましだと思う。輸送機の塗装もスカイブルーのような塗装が施され、見慣れたオリーブ・ドライ色はどこにもなかった。


 あのあと時間がなくて谷口にどうなったのか聞けていない。斜め向かえに谷口の顔があるが何やら渋い顔をしている。あの表情からは結果を読み取れない。結局は作戦が終了したら聞くしかないか。


 今オレの手元には89小銃ではなく、親善大使一行さまと関係者の写真を持っている。

 千葉分隊長曰く

「お前は物覚えがイイから、要人の顔を覚えてくれ!間違って関係ない奴まで保護したら大変だ、国際問題になるからな!ワッハッハー」


出発10分前の出来事だった。


『作戦空域到達5分前!降下準備開始!』

機長よりアナウンスが入った。


人生で初めての"実戦"に飛び込んでいく。


------------------------------------


地上に着地した。

周りを見渡すと3個分隊全員が着地に成功したことを確認できた。


 直ぐに集合場所に移動を開始する。その途中上空では輸送機のエンジンの片側から煙が出ていることに気づいた。………被弾したのは明らかだった。でも、今は作戦に集中しなければならない。輸送機の無事を祈りつつ89小銃を持ち戦場を駆け抜ける。


 地上部隊との連携が上手くいったのか、目標の建物まで遭遇した敵勢力は極少数でしかなかった。オレは3人程撃ち倒した。


 今は一列に並び目標がいる階を目指して2階に駆け上がっている。オレが先鋒、フォワードに千葉分隊長、センターに谷口、バックスに寺井二曹、殿に西曹長で他の3名で出口を確保している。


 手信号とアイコンタクトで目標の部屋前に到着したことを後ろにいる分隊長に伝えると、順次後ろにいる隊員に伝わる。

 何とも言えない緊張感をオレを支配する。


 先程の戦闘でオレは敵を2名を撃ち倒したが、一人を撃ち漏らしてしまっていた。そこをオレのフォロー役の千葉分隊長が一発で仕留めた。そして、サイドから敵が2名現れたのを谷口と西曹長が応戦し撃ち倒した。こんな小さな弾一つで人一人の人生が終わってしまう状況に誰も違和感を感じていなかった。ただ、オレたち側に大義があると信じ戦争を早期に終戦に導くためと信念を持っているからだろう。


 そうでなければこんな狂気に満ちた戦場に正気を保って立っては要られないだろう。


 ドアの前にて突入カウント0を待っている。

屋上から第一分隊がロープを使い窓から閃光手榴弾を投げ込み、敵が混乱している隙に突入し制圧する流れだ。


5…4…3…2…1…今!


ガシャ―ン  何だ!敵だ!外にいる!撃て撃て!…


 敵が混乱している声が聞こえる。一拍置き……

閃光とかん高い音がドアの隙間から漏れる。

 肩を叩かれた。突入の合図だ。


オレがドアを勢いよく開けながら突入し、急かさず千葉分隊長、谷口、寺井二曹が入ってくる。


パパン…パパパン……パン…パン………


敵を瞬く間に制圧した。


 見渡すと武装した男が5名が倒れていて、14名が手足を縛られて猿轡までされていた。要人の命の無事を確認できてオレは少し気が緩んだ。

 

 一人ジタバタもがいている女性がいた。金髪ストレートで目はキレイな青色で顔立ちが整っていて…縛られているロープの効果で胸の大きさが強調されている。

 おっと、普段ならガン見してしまうがこの状況下ではそんな気にはなれない。

 

 オレはこの"美人"が誰か知っている。ついさっきまで見ていた写真の内の一人。親善大使のエリザベス・メル・アルマン大使だ。


 オレは片膝を付き猿轡を外すと予想外の言葉が放たれる。


「ソルジャー!ウシロ!!」


この言葉で一瞬時が止まったように感じ、瞬時に理解した。━━━━要人が13名の筈なのに一人多い━━━敵が紛れていたのだと。


気がついたときにはオレの右手がUSP9の引き金を引き、左腕にはエリザベス大使を守る形で抱き締めていた。


男は座ったまま横に倒れ、手からはピンを抜く前の手榴弾が転がっていた。


「先輩!先輩大丈夫ですか?!」


谷口の声で我に返る。


「おぅ。」


「状況クリア!!HQに連絡!要人は全員保護した、ランデブーポイントに回収ヘリを回せと伝えろ!」

千葉分隊長が寺井二曹に指示していた。寺井二曹は指示通りに無線機で本部に連絡している。


谷口と西曹長が要人のロープを切り解放している。皆安堵し抱きしめあい無事を喜んでいる。


……抱き締めている??………オレの左上半身からイイ匂いがする。防弾アーマ―を着ていなかったら柔らかい"2つのお山"の感触を味わうことが出来たかもしれない……瞬時に脳内で妄想した。


「ソルジャー……ソロソロ…ハナシテクダサイ」


左に顔向けたら、頬を赤くして青い瞳を真っ直ぐこちらに向けている金髪美女がいた。


「…御無礼をお許し下さい、お怪我はないですかアルマン大使?」


「ソルジャーガマモッテクレタノデダイジョブ…デス…………」

アルマン大使は目を反らしながら答えた。


「そこのラッキー助平、撤退するぞ!ニヤ」

ニヤついた千葉分隊長がそう告げてくる。その言葉でオレも気合いを入れ直した。


「アルマン大使ここから撤退します、側から離れずに付いてきて下さい。必ずお守りします。」


「ハイ………ヨロシクオネガイシマス」

また、目を反らしながら答えてきた。


「…(…オレ何か気に障ること言ったかな?)」



 気合いが入ったことで建物から脱出するまでは順調だった。残敵も廊下の曲がり角で2名程と出くわしたが、至近距離で89小銃を構えるには無理があったので首に回し蹴りをいれて一人をダウンさせ、そのまま回転の反動を使い後ろ回し蹴りを鳩尾に入れ、勢いで敵は壁に勢いよく吹っ飛んだ。どちらも白目を向いて口から泡がでていた。


「クリア!」

振り向いて告げるとアルマン大使と目があった。オレは直ぐさま前を向き安全確認する。


「……(なんてカッコいい人なの!!強くて男らしくて紳士的でステキすぎるわ!これって運命よ!そうよ、絶対そうよ!キャーまた熱い眼差しを私に!…)」

アルマン大使が心の中で流暢な日本語を喋る。


そんなアルマン大使の様子を横から見ていた者が二人いた。


「…(惚れたな。)ニヤ」

「…(先輩スゲー!出会って数分で金髪美女を自然な流れで落としたー!)」


千葉分隊長と谷口の心の声であった。



建物を出て今は廃墟を横切っている。あと100メートルもしないでランデブーポイントに到着するところで篠崎は違和感を感じた。


「……(静か過ぎる)」

と思ったとき、左の廃墟の2階から銃口が出て来て敵がAK47を構えているのが見えたのだ。


敵の方が狙い打つには分があることを判断した篠崎の行動は早かった。


「……ッ(間に合え!!)」



パパン!!   …パン!、パン!


篠崎は走ってアルマン大使と敵の射線の間に入り……撃たれてそのまま仰向けに倒れた。


「ゥ……っ」

うめき声にもならなかった。


いくら防弾アーマーを着ていても着弾した際の"衝撃"は防いではくれない。



丁度左胸に一発と、左肩に一発もらってしまった。幸い"レベルⅣ"のセラミックプレートを前面には入れていた。しかし、左肩は鉛等の防弾素材だったため衝撃も凄かった。


「………(あっこれ、折れてるだろうな)」

衝撃でぼんやりした思考でオレはあまり動かない方がいいだろうと思った。


「ソルジャー!!ソルジャー!?シッカリシテ!!!」


「先輩!!しっかり!今看ます!!」


「………敵は?」


「分隊長と西曹長が倒しました!それより先輩!痛む箇所は?!」


「左…胸部と……左肩だけだ」

頭がスッキリしてきた。


「ソルジャーハタスカリマスカ!?ドウデスカ!?」


「…アルマン大使落ち着いて下さい。自分は…大丈夫です…」


「………弾はきちんと防げてます!出血はなし!だけど肋骨が骨折してる可能性あり!肺に刺さったら死ぬ危険があるため担架を使いましょう!」


「…お前今……さらっと死ぬとか言ったな……」


「ソルジャーヲシナセナイデ!!」

と叫びながら谷口に掴みかかるアルマン大使。


「大使?!肺にッ刺さらなッかったら大丈夫ッですから離してッ下さい……」

この時谷口は金髪美女に絞められながら逝くのも悪くないなと考え始めた。


「大使、大丈夫です。うちの隊員はこんなんでは死にはしません」

横から千葉分隊長が根拠がない説得をしだした。"オレって信頼されてる?"って思った。


「ホントデスカ?!」

アルマン大使が落ち着き、担架に篠崎三曹を載せ回収ヘリへと向かう。



無事、回収ヘリに親善大使一行と関係者並びに3個分隊の一人も欠けることなく乗り込むことが出来た。作戦については、ほぼ完勝であった。


 地上部隊と航空隊の連携が迅速に戦線を広げ敵部隊を追いやったが……勝因を決定的にしたものは"無人戦闘機"の存在だ。今の戦争はボタン1つで相手陣営に致命傷を与えることが出来る。それはあまりにも大きな力であり、少しでも投下した爆弾の落下地点がずれたら民間人を巻き込み多数の死者をだしてしまうだろう。


 オレたちはそんな力を持っても人の道を踏み外さず"正義のため"に使えるのだろうか。


 新型のチヌーク2機に護衛のアパッチ・ロングボウが3機と凄いお出迎えだった。

 ヘリに乗り込むと回収ヘリに乗ってきていた同盟国の偉いさんがアルマン大使を取り囲み無事を確認していた。同盟国の基地に戻る途中も戻った後も篠崎三曹とアルマン大使は顔を会わせる機会は来なかった。━━━━━━━━━━



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ