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タクティクス・コンバット・オブ・オーガ  作者: トビオ
《第2章 新しい火種》
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第17話 篠崎家

 あれから数日が過ぎた。あのとき、パジェロの車体がぐちゃぐちゃに成る程の衝撃を喰らった為、不様に失神してしまった。でも、流石と言うべきか防弾チョッキにT:ASを装着していたお陰で大した怪我もなかった。

何より美優紀が無事でよかった。

後から谷口に聞いたら

「美優紀さん、めちゃくちゃ心配してましたよ、ずっと泣きながら《浩司くん浩司くん死なないで!》って。でも、僕がただの失神ですよって言ったら今度は顔を真っ赤にしてましたよ」


美優紀に恥をかかせるとは不届き者め!

っと、思ったがいつも何かあると谷口は助けに来る奴だから今回は不問にしてやる。


体もいつも通りにピンピン動くようになり、千葉隊長に経過を聞いた。


"駐屯地爆発事件"


事件の真相は、beautiful・snow・worldの担当マネージャーである端波(はたなみ)さんが中東強硬派勢力の残党組織のスパイであった。


事件当日、助けに来た谷口は控え室入り口で意気消沈している端波を見て爆発のショックかと思ったらしいが、オレと美優紀が落下したあと駆けつけようとした谷口に本人が自供してきたらしい。


千葉隊長から連絡を受けた駐屯地の警務隊が身柄を確保した。


警務隊が事情聴取をしたら直ぐに事の顛末を話してくれた。


どうやら戦場カメラマンの弟さんが中東の強硬派組織に拉致されてしまい、仕方なく諜報活動の片棒を担がされていたみたいだ。

その活動はbeautiful・snow・worldの担当マネージャーになり始めた頃からで、中々日本の重要な情報を取得してこない端波に発破をかけられていた。

それが、ユキに対する"手榴弾ストーカー"事件だ。自衛隊のPRキャラクターになり、自衛隊の駐屯地に出入り出来るようになり怪しまれず諜報活動が行える環境を作ることが出来た。


警務隊が独立戦隊の基地を捜索した所、盗聴器が一つと、谷口のPCに繋がれていた加熱式タバコに偽装されていたデータ抜き取り機が発見された。


データ抜き取り機には然程重要ではない報告書類のデータしか見つからなかったようで未然に情報漏洩は防げた。まぁ、盗聴されてはいたが。


後日、今回の爆発事件はフェスティバルの最後に打ち上げる予定であった花火の誤爆事件として情報規制されてメディアに流された。

あとは、警察機関に任せる形になり端波さんは公安に連行されていった。弟さんの身柄が保護されるのを祈るばかりだ。


衝撃的だったのがbeautiful・snow・worldの所属事務所が潰れた。そして、グループは解散となった。メディアはこぞって取り上げていたが真相は分からず。

多分、端波さんが支えになって成り立っていたんだろう。

その解散後、美優紀とは会えず連絡もつかずどうしているのか心配だ……



金曜日の夕方、唐突に父親から電話が来た。

《明日暇か?お前に会わせたい人が来るから明日の昼に帰ってこいよ》


と、要件だけ喋りオレの返事を待たず切られてしまった。

オレに会わせたい人って誰だろうか?


------------------------------------


この町には有名な家がある。家自体は昭和な感じが出ている大きな家だ。

家に対して広大すぎる土地には道場があり、毎日色んな生徒が来ては汗を流している。若者から年寄りまでだ。そんな土地を囲むように塀があるが、一角に私が勤めているお店がある。

"カフェ・シベリア"だ。

カフェ・シベリアの朝は早い。7時半にはマスター達と一緒に出勤する。

私は店に入るとまず匂いを嗅ぎ異常がなかったか確認する、異常がなければ入り口の外で門番をする。その間にマスター達は仕込みを始め、朝から来る常連客のために準備をしている。

8時位になると小学生が登校し始め日課を行う。


「あっ!ハーちゃんだ!」

「ハーちゃんおはよう!」


私を見つけた小学生達は皆寄って集まって来る。皆好きなように私の頭を撫でまわしていく。もちろん、大人の対応をする。


「じゃぁハーちゃん行ってきまーす!」


健気に手を振って行く。私もきちんといってらっしゃいの挨拶は忘れない。


「ワン!」


これはいってらっしゃいの私なりの挨拶だ。

何?何故"ワン"と言ったのか?

フフ、それは………犬だからだ。

ただの犬ではない、誇り高きシベリアンハスキーのハーちゃんなのだ。


「ハーちゃん、戻ってらっしゃい」


と、私に優しく声をかけてくる母マスターに従いお店の中へと戻る。

コレが"カフェ・シベリア"の朝だ。



------------------------------------


オレは久々に実家に戻ってきた。たぶん、父さん達は店に居るだろう。車を停めて店に入った。


「ワン!ワン!」


「おぅ!ハー助、元気か?」


「ワン!ペロペロペロッ」


「わかったわかった、またあとでな!」


「あら、浩司お帰りなさい」


「っ!ただいま母さん」


オレの母さん"篠崎(あめ)"はたまに気配を感じさせないで現れる。今も厨房から何の気配も感じなかった。現役自衛官でも気付かない。

そんな篠崎雨は、50歳近いのに息子のオレから見ても若い。妖艶な雰囲気を出している。稀に姉弟と間違われた事だってある。

カフェ・シベリアの調理担当で近所では美魔女として名物ママでもある。


「みんな揃ってるから母屋に行きましょうか」

雨は、お店に"クローズ"の札を掛けた。


居間の引き戸を開けた……急に視界が何かに奪われた。


「コウジ〜〜!会いたかったワ〜!」


急に金髪美女が飛びついてきた。

反射的に抱き締めてしまった。

この香り、この感触…オレが会いたくても会えないと諦めていた女性だ。


「エリー?!どうしてここに?」

抱き締めながら聞いた。


「もちろん、未来の旦那様に会いに来ましたワ!」

エリーの眼差し……心から惹かれてしまう……その唇に唇が引かれていく……


「…浩司くん!」


「篠崎様…」


「コホン、あんまり人前イチャつくなよ」


ハッ!!父さんの一言で我に返った。

"2つのお山"のお触りはしないようにエリーを引き離して居間に集まっている人物を見渡した。


一家の重鎮のじいちゃん、バリスタの父さん、女王様気質の姉ちゃん、後輩の谷口……谷口!?何でいる?…そしてエリーに美優紀!?とアイシェちゃん!?シャリーさんまで!?


何なんだ、この人選は……これから何が始まるんだよ……意味わからん…


口を開いたのは父さん。篠崎浩樹(こうき)だった。父さんはカフェ・シベリアのバリスタ兼マスターである。この町では一番旨いコーヒーを淹れると有名バリスタであり、作る飯は不味いと評判である。あと、じいちゃんから引き継いだ"篠崎神源流"剣術道場の師範でもある。

剣術はピカいちでオレは今までに一度も勝てたことがない。


「お前、久々に帰って来て親に見せる態度がそれかい」


「…ただいま」

恥ずかしい……


「え〜…金曜日に会わせたい人がいると言ったが……ちと状況が変わった……」


何とも歯切れが悪い。一体どうしたと言うのか。


「まぁあれだ、報告しやすい件からいくか。隆くん」


呼ばれた谷口はオレの方に体を向けた。

そう思ったら姉ちゃんと一回見つめ合った。


ナニ人前でイチャついてんだよ…自分の事は棚にあげるが。


真剣な表情で話し出した。

「…先輩、この度自分は美咲さんと…婚約致しました!」


……?コンニャクしました?何言ってんだ。

うん?婚約……婚約!?


「マジでか谷口!?」


「はい!」


「こんな暴力女のどこがいい……ゴフ」

正拳が飛んで来た。


「あれ〜〜誰が"暴力女"ですってぇ??」


姉ちゃんの素早い動作は今でも見切れない……


「美咲さん……」


「ごめん、隆くん」


谷口の言うことは聞くんかい?!


「と、いう事で今はここで住まわせてもらってます」


何と!同棲場所はオレの実家だったか!?


「とっとりあえずおめでとう。谷口が幸せなら良かったよ…姉ちゃんもね」


「ありがとうございます!」


「フフ、ありがとう浩司」


「まぁ隆くんと美咲については平和なもんだ。ただ、問題はお前だ浩司」


「え!?」


オレの何が問題があるのだ?そりゃこの歳で彼女居なくて仕事に生きる人間だが、結婚願望はきちんともってるぞ!?


「いいか、浩司……実はな……今、お前には"許嫁"がいるんだよ」


「ッブーー!!ゲホゲホっはい?」

茶を吐き出してしまった。


「……しかもな、3人もいる……」


「はいぃ!?」


3人て誰だよ!!てか許嫁って複数人数オッケーなの?!


「いやぁ良かったなー、これで篠崎家は丸く収まるし安泰だし、浩司よ3人だぞ3人!ハーレムだな!ワッハッハー」


「……あなた」

雨の妖艶なドスの効いた声が聞こえてきた。


「!?……すいません」


父の威厳はないのか?!


「参ったはねぇどうする浩司?」


「参ったもどうもこうも…一体どうしてそうなったの?てか許嫁って誰だよ?」


「お前なぁ空気読めないよなぁ、エリーさんに美優紀ちゃんにアイシェちゃんに決まってるだろ?」


「へ?」


別に決まってるなんて知らないし、KYでもねーよ!


「ちゃんと説明しないと伝わらないわよ、あなた」


「そうだな、順を追って説明するぞ」


まず、今回の主催者は父さんである。

父さんの元にエリーから連絡があり、以前"福田衣料店(副大統領)"の社長から話があった娘さんの件だと思い出した。この時に顔合わせをするのに母さんとじいちゃんにも相談したらしい。

そしたら、母さんが待ったを掛けた。

"浩司には昔から決めている許嫁がいる"と。


それが美優紀だ。


何やらオレの母さんと美優紀のお母さんが二人で"この子達が大人になったら結婚させましょ"って話しをしていて母親間では許嫁が成立しているらしい。


そんな話しを3人で話していたら偶然玄関前で遭遇した姉ちゃんとシャリーさんとアイシェちゃんが加わり、

"待って!浩司にはこのアイシェちゃんが許嫁で私オッケー出しちゃったわよ!"


と、なりまして三つ巴の状態が出来上がったわけだ。福田衣料店って…どんな聞き間違いしてるんだよ。しかもじいちゃんは終始無言だ。


「マジかぁ」


「……羨ましいのぅ」

ボソッと本音を漏らしたじいちゃん。


「……お義父さん」


「すいません」


祖父の威厳は何処にいった。


「大真面目です、どうしましょうねあなた」


「俺は3人共嫁になってもいいんじゃないかと思うが」


「そんな無責任な……でも私もそれでいいわ。この3人なら嫁姑関係は良好になると思うし…でも、3人はそうはいかないわよねぇどうしましょ」


「そうですワねぇ私はコウジと結婚出来ればそれでいいワ!」


「…私も譲れません」


「あ…あの…私も篠崎様と添い遂げたいです」


何なんだこのハーレム状態は!!

そんなにオレは魅力的なのか!?


「話しを変えて申し訳ないが我が主のタルーム王子からの伝言をお伝えしてもよろしいでしょうか?」


ナイス!シャリーさん!ここで話しを逸らしてくれ!


「では、読み上げます。《救出に出向いてくれた第一戦隊の篠崎に此度の褒美を授けることにした。①我が国にある余の別宅を譲渡する。利用する際には世話係りとして兵団から数名派遣することを約束する。②我が国と日本が国交が樹立したため、こちらに来る際はプライベートジェットを無料で貸し出す。これについては要予約だ。最後に目玉となる③だがアイシェが正式に日本国籍を取得した。よって余の友人である浩司にはアイシェを娶らせることを許そう。もし、他に想い人がいるのならまとめて我が国で婚姻を結ぶとよいだろう。我が国は一夫多妻制である。どんな形にせよ、アイシェを幸せにしてやって欲しい…挙式は心配せずともこちらで用意しよう…ps.アイシェはしっかり者だがまだまだ世間知らずで幼い部分がある…大人の階段を昇るときも色々とリードしてやるのだぞ?あと、アイシェの母君も孫を楽しみにしているぞ!》とのことです」


話しが全然逸れなかったー!!

てか、狙ってただろシャリーさんよ!

ほら!何だその視線!ドヤ顔的でウィンクしてくるなよ!未成年を嫁にするのは日本じゃまだまだ白い目で見られるんですよ!

しかも何なんだよあのエロ王子は!!


「あらまぁアイシェちゃんの保護者から凄いお墨付きを貰ったわね浩司」


谷口と姉ちゃんからの視線が痛い。


「そしたら一度ね、浩司とみんなはどこまで距離を縮めているのか聞かせて欲しいわね」


「それなら私からネ!私とコウジとの距離は……コウジは私の胸を鷲掴みにする程の親密さですワ!」


エリーさんや…下の話しは止めましょう。

2名程からの視線が刺さる。


「じゃぁ次、美優紀ちゃん」


何故か母さんはそのまま話しを進行させてる。

母親に自分の下ネタが知られるのはとても恥ずかしい……


「私と浩司くんとの距離は…私の秘密を共有する仲です(本当は谷口さんにもバレてるけど、嘘ではないもん)」


「あらあら、これも中々な親密度だわねぇ。最後にアイシェちゃん」


「私は……篠崎様とは……」


頼むアイシェちゃん!まともなストーリーを!頼む!!


「……下のお世話をした仲です!!!」


「………………………………………(居間)」


終わった………オレの人生……オワタ。


「先輩……ゲスですね…」


グサッ!


「変態、鬼畜、ロリコン」


グサグサッ!


「コウジ…あなた…いくら愛人を作ってもいいと言いましたケド……」


グサグサグサッ!


「……浩司くん…流石に…最低」


グサグサグサグサッ!

ここは何とか反撃しなくては……

「ねっ姉ちゃんだって未だに高校生に間違われて補導されてるじゃんか!だったら谷口だってロリコ…グハっ!」


今度は横顔面に手刀が飛んで来た。

手刀はダメですって…

と、いうかあれは珍事件でオレは被害者です。


「隆くんはいいの!私は見た目が童顔でも年上のお姉さんだから大丈夫なの!」


そんなとき神の声が聞こえた。


「し〜のざ〜きく〜ん!あ〜そ〜ぼ〜!」


玄関から聞き慣れた声がした。


一般的に言えばKYなんだろうがオレにとっては救いの声だ。


あの居ずらい居間から抜け出した。誰かは見当がついているなか玄関を開けた。

「千葉隊長、オレの実家にまで来るなんてどうしたんですか?」


千葉隊長の隣には天道先生がいた。


「よっ!これから隊の皆でバーベキューに行くぞ!」


「へっ?」


「先輩、何か隊長の声がした気が…」


「谷口も居たか!探す手間が省けた!」


「どういうことですか?」


「簡単に言ったら親睦会よ」

と、天道先生が補足してくれた。


「行きます!」


オレは迷わず返事をした。現実逃避行へ出発するために。


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