第9話 和平への道
オレ達は第一シェルターで普通装備の敵兵5名を倒し、シェルターには誰も居ないことを確認した。時間稼ぎの布石だったのだろう。
これでタルーム王子は第二シェルターにいることが判明した。
時間がとられた。急いで救援に向かう。
この通りの次の角を曲がれば第二シェルター入り口だ。
「隊長!銃声が聞こえます!」
「篠崎、壁に付け!………確認しろ」
チラッと角から右目だけを出して状況を確認した。
最後の隔壁が開かれて、タルーム王子派と強硬派が銃撃戦を繰り広げている。
早く!王子を殺せ!!お前、前に出ろ!
リーダー格風の男が何やら大声で指示しているようだ。
アシストスーツは2着確認できた。
「隊長、アシストスーツ着用者2名とその他に3名の敵を確認。尚、アシストスーツはどちらもさっきの盾持ちタイプです」
「よし、まだ俺達には気付いていないようだ。スタンを投げて一気に片付けるぞ」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
「谷口、スタン用意」
「スタンよし」
「投下!」
投下の号令と同時に谷口は閃光手榴弾を投げ込み、千葉隊長の後ろに戻った。
これが今日最後の戦いにしたい………
そう篠崎が考えているときに、一瞬にして目を背けたくなるぐらいの閃光が発生した。
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タルーム王子一派 第三隔壁にて
アイシェはもう諦めていた。先ほどの閃光を見るまでは。
第二隔壁が解錠された時には皆第三隔壁の内側へ避難していた。タルーム王子の指示で。
しかし、第三隔壁はロック機能がないただの分厚い扉だったため、第三隔壁の中で立て籠ることは出来なかった。
私は、戦闘訓練はあまり得意じゃなかった。人を傷つけるのはどうしても……出来なかった。
自分で原因はわかっている…
まだ小さかった頃に内戦で父が目の前で殺されたのを見てしまったから……撃たれた父の側に駆け付け必死に傷を押さえたのを覚えている。だけど、私の小さな手からは次から次へと血が出てくるのを止められなかった。
……逃げ…な………さ………………
父の最後の言葉だった。
たまたま、母と弟は従姉のシャリー姉様の実家に行っていたから難を逃れることができた。
私は必死で父の出血を止めようとシーツを持ってきて傷口に押し当てた。
じわじわと血で真っ赤に滲んでいった。
父は既に息はしていなかったと思う。
どのくらいの時間が経ったか何て分からなかった。必死で止血をしていたのだ。
そしたら、家の外が騒がしくなった。
あぁ、誰かが銃を撃っているんだって。
急に静かになった。途端に人の大声が沢山飛び交ってきた。
家のドアが開いた。
そこにはシャリー姉様が銃を持って立っていた。メイド服を着て。
一瞬何で?って思った。思っていたら、急に涙が溢れ出できた。
シャリー姉様の姿を見たら安心して緊張の糸が切れたんだと思う。
涙が出てくると同時に大声で泣いてしまった。
シャリー姉様が私を強く優しく抱き締めてくれていた。
…ごめんね…ごめんね…遅くなってごめんね…
シャリー姉様はそう謝りながら私を抱き締めながら泣いていたと思う。
あとからムハド執事長から聞いた話だと、シャリー姉様は反政府部隊がタルーム王子の領土に侵入してくる情報を得て、王子に相談したところ当時の親衛隊を派遣したとのこと。
ムハド執事長は最後に、後にも先にもシャリー姉様が血相を変え部隊の先陣を切って戦いに赴いたのはあれだけだと言っていた。
私は昔からシャリー姉様のことが大好きでいつも後ろにくっついていた。
シャリー姉様は何でも知っていて、頭も良くて将来の夢は「宮殿で勤めることよ」って聞いたときは、嬉しかったけど姉様が遠くに行ってしまうと思い不安になったことがあった。
よし、私も宮殿で勤めたい!!
と、大きな目標を掲げた。それからは町の診療所の先生の所に医学を教えて貰うのに通い詰めた。
そんな時に町は反政府部隊に侵攻された。
先生から学んだ知識を小さいながら圧迫止血法を実践できた。
数年後、私は宮殿の医療スタッフとして就職できた。
どうやらタルーム王子もあの場に居たらしく、幼い私が泣かずに止血法を実践していて大変驚いていたとのこと。
でも、本当の所は民を守りきれなかった後悔の念もあったんだと思う。
だってタルーム王子はその時の犠牲者の慰霊碑を作ってくれたんだもん。
だから、そんな優しいタルーム王子の宮殿でシャリー姉様と一緒に働けたことは私にとって誇りです。
だから…もう思い残すことはありません。
そう思い覚悟を決めていたら。急に目の前が光ったと思ったら同盟国軍が助けにきてくれたのです。
その中に白馬には乗っていない王子様が居たのです。
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閃光が止むと同時に戦闘を開始した。
オレは敵から鹵獲した防弾シールドを前面に構えながら突入した。俺の後ろには千葉隊長に谷口が続く。
背中を任せられる2人が続いてくれる。
何て心強いことか。
まず、手前にいたASに仕掛けた。
閃光でもがいているが、防弾シールドを持っているマニュピレータがセンサーで反応してきたら銃弾を防がれてしまう。
オレは防弾シールドを敵の頭に向かって投げつけた。
投げつけた後もオレは敵に向かって走った。
敵は防弾シールドを構えれてはいなく、投げられたシールドはそのまま頭に直撃した。一応腕と足を撃ち抵抗力を奪った。
もう一人のASはこちらに気付いていた。
こちらに仕掛けてくると思ったら、タルーム王子側へと突撃をし出した。
タルーム王子側の銃撃は防弾シールドで防がれている。
奴を撃とうにもUSP9が丁度弾切れにになってしまった。
千葉隊長達は他の敵を制圧中だ。
「…!」
オレは咄嗟に走りながらUSP9を敵の足に投げつけた。
…さっきから物を投げつけてばっかりだな。
よく小さい頃は"物を投げたらいけません"って怒られていたな。両親に。
敵のASは膝から急に倒れこんだ。
それでも上半身だけを起こしてきた。
タフな奴だ。
奴は腰から拳銃を引き抜いた。目の前にいるメイドを狙うつもりだ。
今のオレには銃がない。
他の連中も対応が遅い。
…またあれだ。体を張るときがきた。誰も好き好んでするわけではないが、今危機にある女性を守るためだ。覚悟を決めた……銃に撃たれる覚悟を。
「うおぉぉ!」
オレは勢いよく飛び込んだ。
人間、危機に瀕した時ってスローモーションのように視界がゆっくり動いて見えるっていうのは本当だった。
飛び込んだとき世界がゆっくり動いて見えた。メイドの女性と目があった…女性…ではなく少女だろうか?まだ幼さはあるが大人になったら美人になる顔だなって…考えていた。
今、その少女を助けるべく少女の元へ飛び込んだ。少女はなんとなく顔が赤らめていたように見えた。
オレは少女を守るように抱き締めた。
そのまま転がるように。
背中にドンドン…と何かが当たる感触があった。
多分撃たれたのだろう。
一瞬息が止まったように感じた。
少女の顔越しに顔が整った青年が銃を発砲していた。
オレは後ろを振り向いた。
後ろにいるはずの敵が血を流し絶命していた。
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やっと、戦闘が終わった…これで日本に帰って美咲さんに会える。
今回の出撃前、美咲さん心配してたもんなぁ。
早く帰って会いに行かなくちゃ。
…ただ…その前にまた撃たれにいった先輩の看病をしなくちゃ。このラッキースケベな先輩の。
谷口の心の言葉であった。
オレ達は無事、タルーム王子を救出できた。
さっきの激しい戦いと比べたら、あまりにも呆気なかった。
まぁ、今回は奇襲する形になったためだろう。
他に残っていた敵兵は殺さずに無力化できたようだ。
先程第二シェルターに向かっている道中、寺井二曹からの話でオレ達はあることに気付いた。
《スミルノフ主任が話していたアシストスーツと外見が違いすぎる。》
聞いていたアシストスーツは下半身部分のみの試作アシストスーツだったはず。
しかし、オレ達が遭遇したアシストスーツは外見がまるで蜘蛛のようだった。
仮説は2つ。
①強硬派が持ち込んできた。
②試作アシストスーツを改造した。
この仮説を比較したら①は可能性が低い感じがする。
ブリーフィングで、世界でT:ASと同レベルのアシストスーツは存在しないと説明があった。
だから可能性としては②が濃厚である。
そうなれば今回の強硬派メンバーにそれなりの知識を持った人間がいることになる。
"軍事産業側の人間"が紛れている。
オレ達は全員一致で敵を無力化し、"軍事産業側の人間"を拘束することを選んだ。
スミルノフ主任のアシストスーツの技術が流出しないようにするために。
敵兵を全て無力化した千葉隊長はタルーム王子と思われる人物まで近寄った。
「同盟国軍日本より派遣されました独立戦闘大隊第一戦隊、隊長の千葉です。お怪我はありませんか?」
うん?日本語通じるの?
タルーム王子は…
「私はアスローム国、第三王子タルームだ。よく来てくれた。同盟国並びに日本に感謝の意を表する」
「千葉隊長、何分急病人がいる手前…王子…礼は後程ということで」
年配の執事が横から告げてきた。
二人とも日本語がペラペラだ…
いつから日本語は世界共通語になったのだ??
「寺井!HQに連絡!救護班を直ちに送るように!あと、陽動部隊にも手が空いているんなら周囲の警戒を要請!谷口は篠崎の様子を看てくれ!曹長は周囲を警戒しつつ無力化した敵の監視だ」
「ムハド、急病人の受け入れ出来る医療施設を探せ。シャリーは4名程連れて宮殿の様子を確認、アイシェは第一シェルターから輸血パックを。その他の者は負傷した仲間の手当てに回れ」
それぞれの長は的確に指示を出していたら。
オレは未だに地べたに転がっている。
メイド少女に手を握られながら。