今、何時?
「今日、何日だっけ?」
転校したきたばかりのクラスメイトである女の子、ミツルがスマホをいじりながらそう聞いてきた。
「……今日は七月六日だよ。明日は七夕だね」
僕がそう答えると、彼女は一瞬目を丸くして──
「あ、ホントだ。明日は晴れたらいいね」
──そう言って、嬉しそうに顔を綻ばせた。
その後も、ミツルはことあるごとにスマホをいじりながら、
「今日、何日だっけ?」「今、何時だっけ?」と、僕を含めた数人のクラスメイト達に聞いてきた。
たなは「スマホ見れば分かるだろ」と答え、
デヴィは、そもそもミツルを無視した。
天然のツバメは「ふにゃー。分からない、今何時だっけ?」と僕に振ってきた。
その度に僕は内心「スマホを見れば分かるだろうに」と思いながらも教えてあげた。「二時だよ。メシの後だから眠くなるけど我慢しろよ。夏休み補習になったら目も当てられない」といった具合に。
やがてミツルは、ツバメと僕にしかその質問をしなくなった。
ツバメは、ニヒっと笑って同じ質問をそのまま僕にパスしてくるだけなので、必然的に僕が教えるのが恒例となっていた。
さらに時間が経ち、いつものように、ミツルが僕に質問をするのを見ていたたなが、彼女に食ってかかった。
「何故スマホを見れば済むのに、何度も他人に聞くんだ」と。
ミツルはこう答えた。
自分は以前いじめられていた。
自分はボーっとしているし、マイペースで、相性の悪い人には好かれないことを理解している。
だから最初の質問で、友達になれる人を選抜した。
さらにその後も、同じ質問を続けて選抜を続けた。
そして今、最後の選抜をしている、と。
「ふざけるな! 友達を選抜とか何様のつもりだ!」
たなは憤慨した。話を聞いていたらしいデヴィも、軽蔑した目でミツルを見ていた。
僕はというとだ。
腹を立てるでもなく「なるほど。こいつ賢いし、したたかだな」と感心していた。
同時に理解した。コレが選抜とやらの結果か。
答え合わせをするように、ミツルが少し頬を赤くしながら、前に見た時以上に顔を綻ばせて僕を見ながら言った。
「キミは時間を教えるだけで100%なのに、120%を返してくれたね。そして、今も怒るワケでもなく、感心した目をあたしに向けてくれてる。だからキミが好き。大好き」
「……は?」
僕は予想外の言葉に目を丸くした。
「100%なら友達になれると思ってたら、120%を返してくれたんだもん。あたしも120%をあげたいよ」
熱っぽい目で僕を見るミツルをよそに、ツバメが爆笑し、僕の背中をバシバシと叩いてきた。
「モテモテじゃん! いやぁ~、思ったより計算高い子だったんだねぇ!」
痛。痛ててて。
……モテモテ? 本気か冗談かはまだ窺い知れないが、現時点ではミツルにしかモテてないのに何を言ってるんだこいつは?
「お、おぉ、お前も相手してたから友達になれるんじゃないか?」
僕の言葉に、ツバメは──天然で何を考えているか分からないヤツだと思っていた、目の前の女の子は、ニヤリと目を細め、口元を歪めた。
そして怪しい笑みを湛えたまま、彼女は僕の耳元に唇を寄せ、囁いた。
「なれるワケないじゃん。あたしだってあんたに話し掛ける為に、あの子を利用してただけだし」
終わり
お粗末さまでした。