毛操作と毛質変換
僕の目の前には、レッドローチと幽霧がいる。
前者はゴキブリ型の巨大モンスターの変種で、後者は実体と生命を持たない不死の存在。
どちらか一方だけでも僕には強敵で、特に幽霧の方は倒せる手段を思いつかない。
とりあえず、レッドローチの方が危険だ。
僕は身体強化魔法を自分自身にかけた後、火魔法で攻撃した。
それから、鉄剣で切りかかる。
僕がレッドローチと戦っている間、幽霧は僕を攻撃してきた。
幽霧の攻撃は物質的なものではなく、直接、心を削る。
どうしたらいいんだ?
無意識のうちに自身のステータスを確認すると、才能として『毛操作』が追加されていた。
守備固めのため、『高速育毛』で僕自身の頭髪を伸ばした。
育毛と同時に『毛質変換』で髪を強化しておく。
次に『毛操作』を使い、頭髪を螺旋状に回転させて全身を覆った。
レッドローチに対して、少しは有効な防御かもしれない。
でも、幽霧にする防御としては役に立っていない。
頭髪で全身を覆っている状態でも、幽霧の攻撃は僕の心を削っている。
これでは駄目だ。
僕は、自身の全身を覆っていた頭髪をレッドローチに向けて放出し、レッドローチの全身を覆った。
そして、すぐに頭髪を『高速脱毛』で切り離した。
幽霧の移動速度は、僕の全力疾走に近い。
レッドローチを足止めできている現在、逃げてみることも選択肢の一つだが、逃げ切ることが出来るかどうかは分からない。
『毛質変換』で、幽霧を足止めできる形質を付与できないだろうか?
僕は回復魔法を使うことはできない。
けれど、『毛質変換』で回復魔法と同様の効果を持つ毛を作ることは出来るかもしれない。
レベル5の回復魔法とレベル4の回復魔法の違いは、高次元界からのエネルギーを利用しているか否かだ。
高次元界からのエネルギーを取り入れながら、『毛質変換』してみよう。
僕は『高速育毛』で頭髪を伸ばし、それから『毛質変換』を使った。
ダメもとだったが、試みは成功し、幽霧が水として実体化した。
さっそく、火魔法で幽霧を倒し、次にレッドローチも火魔法で退治した。
助かった!
安心したら、力が抜けて座り込んでしまった。
『毛質変換』は、思っていた以上に役立つ能力だった。
ただ、あらゆる敵に対して通用する程のものではないから、秘密にしておく方が良さそうだ。
火魔法で周辺を焼き払い、証拠隠滅。
髪の長さは『高速脱毛』と『高速育毛』で調節したが、急いでいたので長さは適当だ。
僕はダンジョンの入り口を目指して移動しはじめた。
しばらくして、セレナと護衛たちに遭遇した。
意識を回復したセレナが、護衛たちと共に僕の救出に向かっていたのだった。
「ウスゲ、無事だったのね!」
「なんとか、逃げてきた」
「髪の毛、短くない?」
「ああ、レッドローチに食われたかも」
結局、もう一度、地下三階の一番奥のところまで皆で移動し、この日のダンジョンでの訓練を終えた。
王宮に戻った後、ステータスを確認すると、『勇者』としてのレベルが上がっていた。
現在の僕の主なステータスは以下の通り。
名前: 臼井健
種族: 人間
性別: 男
称号: 勇者 レベル3
才能: 『高速育毛』『高速脱毛』『毛根移動』『毛質変換』『毛操作』
『ステータス隠蔽』『言語翻訳』
技能: 『剣技 レベル4』『身体強化魔法 レベル2』
『鑑定 レベル1』『火魔法 レベル2』