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トーラスの悲しみ

 いつも通り侍女がご飯を持って部屋にやってきた。


「トーラス様、お食事をお持ち致しました。入室してもよろしいでしょうか?」


 僕は「どうぞ」と答えた。

 すると30代くらいの侍女が入ってきた。

 記憶を探ってみると僕の唯一の専属侍女であるマアサだということがわかった。

 専属侍女といっても料理の運搬と軽めの身支度程度だ。


「トーラス様、今日はなんだかとても良い顔をされておりますね?何かいい事でもございましたか?」


 いきなりのマアサの言葉に僕は一瞬びっくりしたが思い返すとマアサだけが唯一王宮で僕の目を見てしっかりと話をしてくれる人だった。

 他の人達は僕を見てもそこにいないかのように振る舞うことが多かった。そう思うとマアサは僕を一人の人間としてそして王子として見ていてくれたんだと急に涙が溢れてきた。


「トーラス様どうなさいましたか? 体調がお悪いのですか?」

「違うんだマアサ。嬉しくて泣いてしまったんだ。今の今まで気付かなかったんだ。マアサが僕の事を見ていてくれたんだって。忘れられた王子の僕の事を見ていてくれたって」


 悔しくないわけがないじゃないか! 記憶を取り戻す前の僕はこの広い王宮でずっと一人だった。それが当たり前なんだと思うことしか出来なかった。だって誰も見てくれなかったから。実の母でさえ住まいは別で会いにくるの1ヶ月に数度だけ。その環境に慣れてしまっていたんだ。

 自分はこれからも一人なんだと。僕の事を見てくれる人なんてもういないんだと。だからマアサの存在も認められなかったんだ。

 いろんなことを考えて泣いているとマアサが僕を引き寄せ抱き締めてこう言った


「ご不敬申し訳こざいません。しかし言わせていただきます。寂しかったら泣いていいんです。殿下はこの過酷な環境の中一人でずっと耐えていらっしゃいました。まだ10歳の小さい男の子が文句1つ言わず。侍女にあたることもなく。だから私は思うのです。殿下はとても強い方です。これからどんどん成長されて素晴らしい御方になります。」


 僕はマアサの言葉が嬉しかった。まだトーラスとしての人生が曖昧であった自分だがこれから本当の意味で人生の一歩を踏み出せそうな気がする。


「マアサ、ありがとう。マアサの言葉とても嬉しかった。だからこそもう僕は泣かないよ。これからはいっぱい努力して努力していろんな人に自分を見てもらえるように頑張るよ。だから最後に少し泣かせてほしい」


 そう言うと僕はマアサに抱き締められながら泣き続けていた。 

 そうなんだ。これがトーラスとしての痛みだったんだ。前世で病と戦っていた自分と誰からも見向きもされなかった今世の自分。

 この瞬間様々な痛みを知った自分。強くなろうと、より一層深く思う自分がいた。

 マアサのように人の痛みをわかる人間になろう!


 様々な事を考えながら僕はマアサの腕の中で眠りについていた。


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