97話 ドラゴン娘と妖精たちのアーティファクト
迷宮五層目――
騎士たちの力を借りて、ここまで大きな消耗をすることなく辿り着いたアリアたちの前に「ブモォォォ……ッ」と、唸り声を上げる一体のモンスターが現れた。牛人型の中級モンスター、ミノタウロスだ。
「よし、あいつだったら丁度いいだろう、ステラ出番だ」
「やったのだ! やっと我の武具を試せるのだ!」
ジュリウス皇子に指示を出され、ステラが獰猛な笑みを浮かべながら嬉しげな声を漏らす。
その声を聞き、ミノタウロスが「ブモォォォォ――ッ!」と雄叫びを上げ、こちらへと突っ込んでくる。
ステラは皆の前に躍り出ると、新たな武具……巨大装飾盾型のアーティファクト、〝カラドボルグ〟を構える。
ミノタウロスは獲物である金属製の棍棒をステラのカラドボルグに叩きつけ、派手な音を響かせる――……はずだった。
しかしどういうことだろうか。かなりの力を込めて放たれた一撃だったというのに、衝撃音はほとんど鳴らなかった。まるでステラの持つ盾――カラドボルグが全ての衝撃を吸収してしまったかのようだ。
ニヤリ……ステラがしてやったりといった表情で口元を歪める。
そして反対の……右手にした装飾大剣型のアーティファクト、〝クラウソラス〟の切っ先をミノタウロスに向けた――次の瞬間だった。
ドゴォォォォウ――ッッ!
轟音とともに、ミノタウロスの体が後方へと吹き飛んだではないか。そのまま壁へと叩きつけられるミノタウロスにステラは急接近し、装飾大剣――クラウソラスで心臓を貫くのだった。
――よし、ご主人と同様に、ちゃんとアーティファクトを使いこなしているな、ステラ。
――やったのだ! タマに褒められたのだ!
念話でタマが褒めてやると、ステラは喜びを露わにする。
ステラのアーテファクトには今まで使っていた黒曜鉄の他にヴィブラウムという希少金属が合金されている。
ヴィブラウムは受けた衝撃を吸収し、ある程度であれば無効化することができるという特性を持っている。
ステラがカラドボルグでミノタウロスの攻撃を受けた際に微動だにせず、衝撃音が鳴らなかったのは全ての衝撃を吸収してしまったからだ。
そして次に……ステラがクラウソラスの切っ先を向けた瞬間に、ミノタウロスが吹き飛んだわけだが――
アーティファクトスミスであるヴァルカンは、ヴィブラウムの衝撃を吸収し無効化するという特性に、さらに吸収した衝撃を別の媒介を使って収束して放つという性能を加える技術を持っている。
つまり盾のアーテファクト、カラドボルグで吸収した衝撃を、大剣のアーティファクト、クラウソラスから放つことを可能にしたのだ。
クラウソラスから放たれた衝撃を喰らい、ミノタウロスは後方へと吹き飛んでいったわけである。
これによりパワーファイターであり、タンクであるステラの防御力・攻撃力・そして手数が大幅にアップしたのだ。
「む……どうやら増援が来たようであるな」
周囲の警戒に当たっていたハワードがいち早く新たな敵の接近に気付く。今度はミノタウロスが四体だ。
「ねぇ、皇子様。そろそろ私たちも戦いたいわ!」
「ですね〜。ここはお任せください〜!」
新たな敵を前に、リリとフェリが戦いたいと言い出す。ジュリウス皇子は「いいだろう、アリアたちと上手く連携するんだぞ」と言って、彼女たちに戦闘を任せる。
ちなみにだが、ジュリウス皇子は全盛期に無茶をしたツケで消耗が激しい体になってしまっているため、四魔族が現れるまでは一切戦闘をしない方針だ。
「わ〜い! 私たちの特訓の成果を見せてあげるわ!」
「しっかりアリアさんたちを援護してみせます〜!」
リリとフェリが嬉しそうな声を上げながらアリアとステラの後ろで構える。
「いきますよ、ステラちゃん!」
「ふんっ! 数が集まろうと我の敵ではないのだ!」
そんなやり取りを交わしながら、アリアとステラが前に出る。まずはステラがカラドボルグを突き出しミノタウロスへとチャージアタックを仕掛ける。
あまりの威力に、攻撃を受けた敵は『ブモォォォォッッ!?』という驚きの声とともに、先ほどの個体の死体のある方へと吹き飛ばされた。
隣に並んで接近してきていたもう一体が(よくも仲間を!)とでも言いたげな表情でステラへと槍を突き出……そうとしたのだが――
「ふんっ、無駄なのだ!」
と、ステラは一笑すると先ほどと同じようにクラウソラスの切っ先を敵へと向ける。凄まじい衝撃音とともに、こちらの個体も後方へと吹き飛んだ。
チャージアタックの際に発生した衝撃をカラドボルグで吸収し、クラウソラスで放ったのだ。
『ブモッ!』
『ブモモッ!』
何が起きたのか理解できないのだろう。後方に控えていた二体が狼狽えた様子を見せる。
そしてその隙にアリアが後方で立ち上がろうとしている二体にトドメを刺そうと駆け出した。
しかし、さすがはミノタウロス。何が起きたのかは気になるが、それどころではないと頭を切り替え、アリアの行く手を阻もうとそれぞれ斧を構える。
「ここよ! 《フェアリーバレット》!」
「いきます〜、《ブランチュウィップ》〜!」
この時を待っていたとばかりに、リリとフェリがそれぞれスキルを発動させる。と、ここでとんでもない現象が起きる。
リリが放った《フェアリーバレット》……。それがアリアの横を回り込むように〝曲がった〟のだ。
緩やかなカーブを描いたそれは、斧を振り上げたミノタウロスの左胸を、バスンッ! と貫いた。
それに続き、またもやとんでもない現象が起きる。フェリが発動した《ブランチュウィップ》がもう一体のミノタウロスの〝足元〟から伸び、そのまま腕や脚、首を締め上げた。
以前までは、リリは《フェアリーバレット》を直線的にしか撃てなかった。そしてフェリは《ブランチュウィップ》を自分の足元からしか放つことができなかった。
二人はベルゼビュートとの座学やトレーニングで、魔法スキルの発動方法や操作技術を必死に学んだ。それにより、リリは《フェアリーバレット》を曲げて撃つという技術を、フェリは《ブランチュウィップ》を場所を指定して発動するという技術を身につけたのだ。
さらに、二人の魔法スキルの威力がタマの《獅子王ノ加護》の恩恵を受けていないというのに明らかに上がっている点だが……。
これはヴァルカンによって与えられたアーティファクト、〝デファイヨンリング〟によるものだ。
デファイヨンリングはアダマンタイトと呼ばれる鉱石を含んだ合金製の指輪だ。アダマンタイトには術者のマナを通常の何倍も多く消費して、本来出せる以上の威力で魔法を放たせるという性質を持っている。
通常であれば普段の数倍もマナを消費してしまうデメリットが生じる装備なのだが……妖精族のマナ保有量は、グラッドストーンの一件でもわかる通り、大量のアンデッドを召喚し、その上アンデッドドラゴンを使役しても余裕があるほどに膨大だ。これくらいであればリリとフェリにはマナを使った内には入らないので問題ないのだ。
「終わりです!」
そんな台詞とともに、アリアが後方で起き上がろうとしていた二体にトドメを刺し、《ブランチュウィップ》に締め上げられていた個体も絶命した。
「んにゃ〜! 初めての実戦運用なのに、みんな連携までバッチリにゃん!」
四人の連携を見て改めてヴァルカンが興奮した声を上げる。まさか四人がここまで早くアーティファクトを使いこなし、無駄のない連携をこなせるようになるとは思わなかったのだ。
もちろん、四魔族が待っているであろう階層に着く頃には、この四人であれば大丈夫だろうと予測はしていたのだが……大したものである。




