85話 休息は大事
「んにゃ! アリアちゃん、〝安全地帯〟を見つけたにゃん。今日はこの辺で休むとするにゃん!」
「そうですね、迷宮に入ってからかなりの時間が経ちましたし、そうしましょう」
迷宮十層目――
ヴァルカンがとある道を指差して立ち止まる。
迷宮には、安全地帯という場所に繋がる道が出現することがある。
安全地帯とは、その名の通りモンスターが近寄らない、人間にとって安全が確保されたエリアの名前だ。
なぜそのような場所が迷宮にあるのか、そして道が現れたりそうでなかったりするのか、その仕組みは解明されていない。
だが、冒険者にとって迷宮の中で休息を取れるのは大きな利点だ。
それを利用しない手はない。
安全地帯への道が現れたら、ひとまず休んでおく。
それが迷宮攻略の大きな鍵となっている。
「へ〜! こんな場所、私たちのいた迷宮にはなかったわ!」
「モンスターが現れない場所があるなんて便利です〜!」
アリアたちの会話を聞き、リリとフェリが笑顔になる。
彼女たちもここまで戦い続けで疲れてきていたというのもあるが、それよりも安全地帯に興味津々といった様子だ。
それもそのはず。
リリたちのいた森林型の迷宮には安全地帯は存在しなかった。
いくつか存在する迷宮にも、安全地帯が存在するものとそうでないものがある。
傾向としては、迷宮都市のような洞窟型の迷宮は、比較的安全地帯が存在することが多いようだ。
「へ〜! 結構広いじゃない!」
「水も湧いてますし、休憩にはぴったりです〜!」
道を進み安全地帯へと入ると、リリとフェリがはしゃいだ様子でエリア内を駆け回る。
安全地帯はそれなりに広い空間が広がっていた。
そしてエリアの中央に、フェリの言う通り水が湧き出し、泉のようなものを作っている。
(ふむ……念のために確かめてみたが、水自体に問題はないようだ)
泉に近づき、タマは匂いを嗅いでそう判断する。
安全地帯に湧く泉の水を飲んで、体に異常を訴えたものは過去に存在しない。
けれども念には念を入れ、一応確かめることにしたのだ。
タマの優れた嗅覚であれば、毒を嗅ぎ分けることなど朝飯前なのだ。
……もっとも、アリアたちには既にタマによって《獅子王ノ加護》が授けられているので、毒水を飲もうと問題ないのだが……タマがいかにアリアたちを思っているかがわかる行動である。
「アリア、我はお腹が減ったのだ!」
「そうですね、ひと休みする前にご飯を作るとしましょう」
「やったのだ! 我は肉が食べたいのだ! ステーキがいいのだ!」
戦い続きで腹をすかせたステラは、アリアの言葉を聞き大喜びだ。
迷宮内で肉――それもステーキなどと無茶なことを言うステラ。
だが、彼女たちのパーティであればそれも可能である。
「タマ、アイテムボックスから食材を出してもらえますか?」
「にゃん(了解だ、ご主人)!」
アリアに言われ、タマはスキル《収納》を発動する。
すると、アリアたちの目の前に肉や野菜、パンなどといった食材がパッと現れる。
迷宮に赴く前に、あらかじめタマの《収納》スキルによって格納しておいたのだ。
その他にも調理台や包丁、フライパンや料理網なども用意してある。
「んにゃ〜、《収納》スキルは本当に便利にゃん! タマちゃんのおかげで、迷宮内で温かいご飯が食べられるにゃ〜」
泉で手を洗った後、瞳を爛々とさせながら、ヴァルカンが肉に手を伸ばし、調理台で捌き始める。
彼女の言う通り、迷宮で長時間の攻略をする際は、干し肉や小麦粉を煮固めた味気ない保存食を常備して臨むことがほとんどだ。
味気ない食事はモチベーションにも大きく影響する。
特に、感性の豊かなステラやリリとフェリはそれが顕著に現れるだろう。
だが、タマの《収納》スキルがあれば、好きな食材を好きなだけ持ち込むことができる。
彼女たちの好きな肉や甘いものなど、よりどりみどりだ。
「まずはステラちゃんの要望通り、ステーキを焼くとしましょう。せっかくだし直火で♪」
ヴァルカンが切り分けた牛肉に、アリアが塩と胡椒をかけていく。
肉を切り終えたヴァルカンが、今度はタマが《収納》スキルから一緒に出した薪を使って、火を起こす。
ヴァルカンが木の筒を使って「フーフー」と火の勢いを調整しているのを見て、フェリが「面白そうです〜!」と言って、一緒に手伝いを始める。
ステラとリリは、アリアたちが料理する様子をワクワクしながら眺める。
タマはそんな皆の様子を微笑ましい表情で見守るのだった。
ジュワッ! と、鉄の網の上で肉が焼ける音がする。
少しすると、肉と香辛料が放つ香ばしい匂いが皆の鼻をつく。
薪の直火で焼いているので、その上に垂れた肉汁がさらにいい匂いを放つのだ。
「アリア! 焼き加減はレアが良いのだ!」
「了解です、ステラちゃん♪」
さすがは元ドラゴンというべきか、ステラは肉の焼き加減はレアを好む。
アリアはステラに応え、トングで肉をひっくり返す。
ステラに合わせ、皆も焼き加減をレアにすることにした。
それぞれの皿に焼いた肉を載せる。
仕上げに、アリアはバターを切り分け、それぞれの肉の上に置けば完成だ。
「それではいただきましょう!」
「いただきますなのだ!」
「わ〜い! 甘いのも好きだけどお肉も好きなのよね〜!」
「アリアさんの作る料理はどれも美味しいのです〜!」
アリアのかけ声で、ステラにリリ、フェリも待ってましたとばかりに肉にかぶりつく。
直火で焼いた肉はいつも以上に香ばしく、バターの甘さも合わさりシンプルだが最高の味わいに仕上がっている。
「にゃ〜! やっぱりステーキは最高にゃん!」
虎耳族であるヴァルカンも肉は大好物、迷宮で温かく美味しいご飯が食べられたことに大満足といった様子だ。
「はい、タマ。あ〜んです♡」
「にゃ〜ん!」
アリアはタマのためにステーキを小さく切り分けると、フォークで彼の口元に運んでやる。
タマも可愛らしい口を大きく開けながら、口いっぱいに頬張っていく。
(ふむ、やはりご主人の料理の腕前は最高だ!)
直火焼きのステーキ……タマも納得の味わいだ。
この後も、皆でワイワイとやりながら、迷宮の中とは思えぬほど楽しい時を過ごすのだった。
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