83話 妖精娘のたちの油断とドラゴン娘の一人勝ち
「次はどんな敵が出てくるのでしょう〜?」
「ふふんっ、ちょっとやそっとの敵じゃ負けたりしないわよ!」
タマを抱っこしながら歩くフェリ。
それと抱っこされたタマの背中に貼りつきモフモフしているリリがワクワクした様子でやり取りする。
やはり二人とも、自分たちが住んでいたのとはだいぶ雰囲気の違うこの迷宮を冒険することに、楽しさを見出しているようだ。
後ろに続くヴァルカンはもちろん、すでに気を引き締め直したアリアとステラも周囲を警戒しながら進んでいく。
(ふむ。リリとフェリの素の実力も確認できたことだ、ここらで皆に加護を授けることにしよう)
フェリに抱かれたタマが「にゃん!」と可愛らしく鳴く。
次の瞬間、皆の体が優しい黄金色の輝きに包まれた。
タマの固有スキル、《獅子王ノ加護》を皆に与えたのだ。
「な、何これ!?」
「攻撃力に防御力……いろんなステータスが強化されていきます〜!」
突然体が輝きに包まれたこと、そしてあらゆるステータスが向上していくことに、リリもフェリも驚きを露わにする。
「ふふっ、リリちゃんもフェリちゃんも驚いてますね?」
「ぐはははは! 我も最初はびっくりしたのだ!」
「リリちゃん、フェリちゃん、これはタマちゃんがバフスキルを使って与えてくれた力にゃん!」
驚くリリとフェリに、アリアは小さく笑い、ステラは同意、ヴァルカンが説明を為す。
「すごいわ! タマは可愛くて強いだけじゃなくて、こんなこともできるのね!」
「こんなにちっちゃいのに、タマはいい子いいこなのです〜!」
自分たちのためにバフスキルを使ってくれたのだとわかり、嬉しくなったようだ。
リリはタマをさらにモフモフして、フェリはわしゃわしゃとタマの頭を撫でる。
「にゃ〜〜〜!?」
二人の妖精にもみくちゃにされ、タマは困ったような鳴き声を上げるのだった。
「……ッ! 何か足音が聞こえます!」
「ホントにゃ! リリちゃん、フェリちゃん、戦闘準備にゃん!」
「了解よ!」
「次もお任せください〜!」
アリアが敵の足音を聞き取った。
ヴァルカンがタマにじゃれつくリリとフェリに指示を出す。
ステラは「なんだ、まだ我は戦えないのか……」と少々不安を露わにする。
『モォォォォ……ッ』
そんな鳴き声とともに現れたのは、牛人型のモンスター……C+ランクのミノタウロスだった。
数は今度も二体だ。
二体とも戦斧を手にし、ギラついた目でアリアたちを見据えている。
美味そうな獲物だと思っているのか、あるいは美しい美少女たちの姿に興奮を覚えたのか……。
「二人とも気をつけてください! ミノタウロスはゴブリンやオークよりも知恵が回ります!」
「たまに魔法スキルを放ってくる個体もいるから注意するにゃん!」
戦闘態勢に入った妖精二人に、アリアとヴァルカンが注意を促す。
「だったら先手必勝よ、フェリ!」
「やっちゃいましょう〜!」
リリとフェリ、二人の妖精族が同時にスキルを発動する。
「《フェアリーバレット》っ!」
「《ブランチュウィップ》〜っ!」
リリとフェリが発動したのは、先ほどと同じ光弾と木の鞭だった。
ドパン――ッ!
激しい音が鳴り響く。
そして次の瞬間、一体のミノタウロスが『モォォォォォォ……ッ!?』と苦悶の声を上げる。
見れば腹を押さえ、その指の間から鮮血が漏れているではないか。
「す、すごい! 《フェアリーバレット》で、あんなに頑丈そうなモンスターのお腹を貫いちゃった!」
リリが驚きの声を漏らす。
当たり前だ。
もともと《フェアリーバレット》には強力な打撃を与えるくらいの威力しかない。
にもかかわらず、筋肉の鎧で覆われたミノタウロスの腹を貫いた。
「これがタマちゃんのバフスキルの力……私もいきますよ〜!」
リリの強化された力を目の当たりにしたフェリが、今度は自分の番だと《ブランチュウィップ》を操作する。
大きくうねって天井付近まで伸びると、そのままもう一体のミノタウロスの脳天目がけて振り下ろす。
『ブモ……ッ!』
ミノタウロスは避ける――かと思いきや戦斧を腰だめに構えた。
そのまま迫りくる《ブランチュウィップ》に向かって力いっぱい振り上げる。
攻撃力が強化されているとはいえ、《ブランチュウィップ》は木の鞭だ。
鉄製の戦斧、そしてミノタウロスの膂力によって叩き切られてしまう……。
この場にいる誰もがそう思った。
ただ一人、フェリを除いて……。
「ふふ〜ん、今のはフェイントです〜! もう一本、《ブランチュウィップ》〜!」
ミノタウロスに《ブランチュウィップ》を切られてしまうその直前、フェリはニヤリと笑うと、足もとからさらにもう一本、《ブランチュウィップ》を召喚した。
《ブランチュウィップ》は、シュバッ! と鋭い音を立てて飛び出した。
大技を放ったミノタウロスは体勢的に対応することができない。
そのまま一気に、《ブランチュウィップ》の鋭い先端に左胸を貫かれてしまう。
『ブ……モ……ッ!?』
声とともに血を吐くミノタウロス。
瞳の輝きが失われるとともに、その場に静かに崩れ落ちるのだった。
それとほぼ同じタイミングで、リリが相手にしていたミノタウロスも地に崩れ落ちる。
「やったわね、フェリ!」
「やりましたリリちゃん! これもタマちゃんのおかげですね〜!」
二体のミノタウロスが倒れたところで、リリがパタパタとフェリのもとに飛んでいき、二人でハイタッチを交わす。
そんな時であった……。
――ステラ!
――わかっているのだ!
タマがステラに念話を飛ばす。
それにステラはそれに頷くと、メガシールドを構えて、リリとフェリの前に飛び出した。
そして次の瞬間――
ドゴォォォォォンッッ!
と轟音が鳴り響いた。
ステラのメガシールドと、敵の放った《ファイアーボール》が衝突したのだ。
「まったく、油断するなと言われてたはずなのだ!」
そう言って、ステラが今度はグレートソードを振りかぶり、前方へと加速する。
ドラゴニュート化はしてないが、タマに授けられた《獅子王ノ加護》の効果で尋常じゃないスピードだ。
「トドメなのだ!」
狙いはリリが相手をし、地面に倒れたミノタウロスだ。
そしてその首に、ステラは勢いよくグレートソードを振り下ろした。
そして今度こそ、ミノタウロスを倒しきる。
「そ、そんな……死んだフリをしてたの……?」
「ステラさん、ありがとうございます〜!」
リリが驚いた声を漏らす、フェリがステラに感謝の言葉を伝える。
リリの言った通り、一体のミノタウロスは死んだフリをしていた。
そしてリリたちが油断した瞬間を狙って、魔法スキル《ファイアーボール》を放ったのだ。
「すごいです、ステラちゃん!」
「んにゃ! 私たちよりも反応が速かったにゃん!」
後方から飛び出そうとしていたアリアとヴァルカンも、ステラに称賛の言葉を送る。
無論、二人ともミノタウロスの動きに反応できていたが、ステラの対応はそれよりも速かった。
グラッドストーンでの激闘を経て、ステラは優秀なタンクとして成長しているのである。
「ふんっ、リリとフェリの戦い方がなってなくて、見てられなかっただけなのだ!」
皆に褒められたのが恥ずかしいのか、ステラはそんなことを言いながら頬を染める。
――ステラ、よくやったぞ。
――……っ! タマが褒めてくれたのだ!
皆にチヤホヤされる中、タマがこっそりと念話を送ると、ステラはパッと表情を輝かせる。
愛する異性――タマに褒められれば、素直になれないステラも一発ノックアウトである。
急に機嫌良さそうに笑みを浮かべ、タマを見つめるステラ。
そしてそれにコクリと頷くタマに、アリアたち四人は「「「「…………?」」」」と不思議そうにその光景を見つめるのだった。




