81話 妖精たちの実力
「へ〜、ここがこの都市の迷宮なのね!」
「私たちが住んでいた迷宮とはかなり違います〜」
依頼をこなすため、迷宮へとやってきたアリアたち。
中へ足を踏み入れると、リリとフェリが物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回している。
二人とも森林型の迷宮の出身なので、こうしたオーソドックスな迷宮が逆に新鮮に感じるようだ。
「リリちゃん、フェリちゃん、気を引き締めてください。恐らくここのモンスターには二人の〝加護〟も通用しません」
「分かってるわ、アリア」
「油断はしないです〜」
二人に注意を促すアリア。
ところで彼女が言った〝加護〟という言葉だが……。
リリとフェリの二人には、加護と呼ばれる特殊な力が備わっている。
その能力は、迷宮の中ではこちらから攻撃しない限り、モンスターの攻撃対象にならないというものだ。
二人がそれなりの戦闘力を有していることと、この加護があったからこそ、前の迷宮で生き延びてこられたわけである。
しかし、ここは彼女たちの生まれたのとは別の迷宮だ。
ここでは加護も機能しないと考えた方が良さそうだ。
「それにしても、装備を着ると気分が上がるわね!」
「私たちにまで装備を揃えてくださって感謝します〜!」
リリとフェリが自分たちの格好を見ながら、キャッキャとはしゃぐ。
これから一緒に冒険者活動をするのであればと、アリアはヴァルカンに頼み、妖精二人の装備をオーダーメイドでこしらえてもらったのだ。
リリもフェリも、動きやすい格好がいいと軽装備を所望したので、二人の装備は革製だ。
もちろん、リリの装備には背中に穴が開けてあり、飛行に問題がない仕様となっている。
アリアの装備はいつも通りビキニアーマーだ。
動きやすさを重視し、通常のものよりも肌を覆う面積が少ない。
だが、使われているのはオリハルコン合金であり、普通の鉄よりも頑丈で軽い。
ガントレットやレギンスも装備しているので、加速スキル《アクセラレーション》を持つアリアであれば、その軽さと防御力を最大限に活かすことができる。
武器もいつも通り二本のナイフと八本のスローイングナイフだ。
ヴァルカンは素肌にオーバーオール、それにアリアと同じくオリハルコン合金製のガントレットとレギンスを装備。
武器はこちらも同じくオリハルコン合金のバトルハンマーだ。
ステラはアリアよりも動きやすさを重視したサラシにホットパンツ。
それに言うまでもないがオリハルコン合金のガントレットとレギンス。
武器は超重量の金属、黒鉄製のグレートソードと同じく黒鉄製の超大型盾メガシールドだ。
そして最後にタマ、彼はオリハルコン合金の猫用騎士装備を纏っている。
「にゃん(来るぞ、ご主人)!」
真剣な声音で、タマが鳴き声を上げる。
すると、迷宮の奥から『グギャッ!』という声とともに、ヒタヒタと足音が聞こえてくる。
「ゴブリン……と、ホブゴブリンですか」
「普通、ホブは一層目では現れないにゃ。やっぱり迷宮で異常が起きてるにゃん!」
アリアとヴァルカンも敵の存在に気づく。
現れたのはゴブリンとその進化種ホブゴブリンだ。
二体とも棍棒を掲げ、こちらへと駆けてくる。
見目麗しく、そのうえ露出度が高い乙女がこれだけの人数いるとなれば、己が欲望に忠実なゴブリンどもは我慢ならないだろう。
「ふんっ、脳天から叩き割ってやるのだ」
駆けてくるゴブリンどもに、ステラは舌なめずりをしながら口を吊り上げる。
ドラゴンの本能、殺戮衝動に火が点いたようだ。
「ここは私たちに任せて!」
「妖精族の力をお見せするのです〜!」
ステラが今まさに飛び出そうとしたその瞬間だった。
リリとフェリが明るい声を上げる。
まずは自分たちがどれくらい戦えるのかを、アリアたちに確認してもらいたいようだ。
「分かりました。リリちゃん、フェリちゃん、でも無理は禁物ですよ?」
「もちろんよ!」
「任せてください〜!」
アリアの言葉に応えたところで、リリとフェリは戦闘態勢に入る。
ヴァルカンは「んにゃ〜! 妖精族の二人がどんな戦い方をするのか楽しみだにゃん!」と瞳を爛々とさせる。
ステラは「むぅ……暴れたいところだが、新入りの戦い方を理解するのも大事なのだ」と渋々といった様子でリリとフェリに獲物を譲る。
そんな彼女に、ヴァルカンは(んにゃ!? あのステラちゃんが……!?)と、驚きを隠せない様子だ。
当然である。
何せ、ヴァルカンはグラッドストーンに行き、成長する前のステラしか知らないのだから。
「タマ、万一の時は二人のサポートをお願いしますね?」
「にゃあ(任せろ、ご主人)〜!」
アリアの言葉に、タマは可愛らしい声で応えると、いつでもスキルを繰り出せるように身を屈める。
「いくわよ! 《フェアリーバレット》ッ!」
先頭を走るゴブリンに向かって、リリが両手を突き出し叫ぶ。
すると、彼女の目の前の空間からピンク色の光弾のようなものが飛び出した。
光弾はとてつもない速さでゴブリンへと加速する。
低能なゴブリンに避ける術はなし。
そのまま、パァンッ! と弾けるような音が響いたかと思えば、『グギャァァァァァァ――ッ!?』という絶叫が上がる。
ゴブリンは棍棒を地面に落とし、光弾が直撃した方の腕を押さえている。
押さえられた腕は力なくダランと下がっている。
どうやら関節が外れたか、骨が折れたらしい。
『グギャアッ……!?』
思わぬ反撃に仲間がやられたことに、後方から続いていたホブゴブリンが驚愕の声を上げる。
そして僅かに後退するのだが――
「遅いです〜! 《ブランチュウィップ》ッ!」
今度はフェリが叫ぶ。
その瞬間、彼女の足元に緑色の魔法陣のようなものが展開し、その中から……シュバッ
! と風切り音を立てて、太い木の枝のようなものが飛び出した。
木の枝のような見た目でありながら、長く、そしてしなやかだ。
そして木の枝――《ブランチュウィップ》は頭上へと大きくしなり――バチィィィィィンッッ! と、ホブゴブリンの肩に打撃を与えた。
『ガギャァァァァァァッッ!?』
ホブゴブリンの絶叫が響き渡る。
《ブランチュウィップ》はしなやかな見た目に反し、かなりの質量を持っていたようだ。
見ればホブゴブリンの肩が陥没しているではないか。
「すごいです! これだけ距離が離れているというのに、リリちゃんもフェリちゃんも大打撃に成功しました!」
「これなら即戦力間違いなしにゃん!」
「ほう、なかなか見どころがあるのだ」
リリとフェリの闘いぶりに、アリアにヴァルカン、それにステラがそれぞれ感想を口にする。
その間にもリリが《フェアリーバレット》を射出し、ゴブリンにダメージを負わせていく。フェリも《ブランチュウィップ》を振るい、ホブゴブリンを滅多打ちにして、戦闘不能に追い込んでいくのだった。
(中距離から光弾を放つリリ、それに同じく中距離から木の鞭を振るうフェリ。なるほど……威力もなかなかのようだし、我が輩たちのパーティには打って付けの戦力だな)
二人の戦闘スタイルに、タマも感心する。
通常、妖精族は人を驚かせるくらいの技しか持っていない。
タマ自身もそう思っていた。
しかし蓋を開けてみれば、二人とも優秀なスキルを有していた。
ハイピクシーとハイドライアドである二人は、通常の妖精族と一線を画するというわけだ。
そして……アリア、ヴァルカン、ステラはいずれも近接型の戦闘スタイルだ。
アリアのスローイングナイフを除けば、タマ以外は中距離以上の攻撃手段を持っていなかったのである。
しかし、リリとフェリが加われば中距離からの攻撃が可能となる。
後方からの攻撃の手数が増えれば、アリアたちも動きやすくなり、何よりタマ自身が前衛のサポートをしやすくなるというものだ。
「ふっふ〜ん、これが私たちの実力よ!」
「これくらいの敵ならチョチョイのチョイです〜!」
アリアたちの反応を見て満足したのか、リリとフェリは二人揃って「えっへん!」と胸を張るのだった。




