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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第二章

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68話 商会長の過去と壮絶な笑み

「むふふ〜、タマは我のものなのだ〜……」


 グラッドストーンにある宿屋の一室――


 ステラがむにゃむにゃと寝言を言いながら幸せそうに寝息を立てている。

 彼女の豊満なバストの中には、スヤスヤと眠るタマの姿が……。


 レイスの商会で迷宮で得たモンスターの素材を売ってから少し、アリアたちは手頃な宿屋を見つけ、夕刻まで仮眠をとることにした。

 その際に、ステラはアリアに与えられた〝タマ一回抱っこ権〟を使いそのまま一緒に寝ることに成功した。


 タマはアリアが勝手に決めたことだったので、ステラに抱っこされるのを拒否しようとしたのだが……。

 タマに逃げられた途端、ステラが泣き出しそうな表情になってしまったのを見て、あえなく抱っこされることとなった。

 心優しい騎士であるタマにとって、元モンスターとはいえ乙女の涙を見過ごすことはできなかったのである。


 ステラはタマを抱っこすることに本気で憧れていたのだろう。

 アリアを真似たのか、元モンスターだというのに、タマを慈しむように優しく抱っこすると、そのまま頭を撫でて一緒にベッドに入っていくのだった。


 アリアもその姿を見て「これならタマを襲う心配はありませんね」と、警戒を解くのだった。


 そんなアリアも、今は隣のベッドで可愛らしい寝息を立てている。


 彼女の上下するメロンの上にはピクシーのリリが寝そべっている。

 そしてドライアドのフェリはアリアの横にピッタリとくっつき同じく眠りに就いている。

 どうやら気持ち良さそうに眠るアリアたちを見て、自分たちも眠くなってきてしまったらしい。


 リリもフェリも、赤ん坊のように甘えきった表情ですぴーすぴーと寝息を立てている。

 柔らかメロンと聖女のような優しさを持つアリアに、二人とも安心しきっているようだ。





 夕刻――


「お! アリアさんたちじゃないか!」

「ジョーイさん、迷宮から戻られたんですねっ」


 仮眠を終えたアリアたち、何か食べようと適当な酒場に足を運ぶと、店の一角から彼女たちを呼ぶ声が――

 迷宮から帰る途中に出会った冒険者、ジョーイたちだった。


 仲間と顔を赤く染めながら酒盛りをしている。

 その表情は誰もが満足気だ。

 アリアたちほどではないにしろ、なかなかに実入りが良かったのだろう。


「昼間の約束もあるし、せっかくだから一緒に飲まないか?」

「それではお邪魔させていただきます」


 普段であれば、アリアは男性の誘いを受けることはしないのだが、ジョーイはアリアをイヤらしい目で見ることはしないし、彼らのパーティには女性の冒険者もいたので大丈夫だろうと判断したのだ。


(とはいえ、普段は酒を嗜むご主人も今日はノンアルコールの飲み物をチョイスするあたり警戒心ゼロというわけではないようだ。我が輩は安心したぞ)


 アリアがジュースを頼むのを見て、タマはよしよしと頷くのだった。


「うわ! 何これ〜!」

「甘くてフワフワしてて美味しいです〜!」


 アリアたちが席に着いて少しした頃、運ばれてきた料理を口にしたリリとフェリが興奮した声を上げている。


 二人の目の前には、ハチミツとクリームがたっぷり乗ったパンケーキが……。

 リリもフェリも肉や野菜よりも甘いものをご所望だったので、アリアが頼んであげたのだ。


 フェリは幸せそうな顔でほっぺたを小さな手で押さえ、リリは興奮のあまりその周りを羽をパタパタと動かして飛び回っている。


「にゃ〜(こりゃたまらん)!」

「やっぱり肉は最高なのだ!」


 その横では、テーブルの上に身を乗り出したタマがアリアに切り分けてもらったロースト肉を頬張り、ステラも骨が付いたままの肉を豪快にかぶりついている。


 給仕の娘によると、果物やスパイスを使った特製ソースに漬け込んで味付けをした、この店の看板メニューだそうだ。

 迷宮都市の宿屋に引けを取らないくらい美味に仕上がっている。


「アリアさんはレイスの旦那の商会に直接素材を買い取ってもらってたのか。なるほど、どうりでギルドの職員がアリアさんたちから素材を買い取った覚えが無いって言ってたわけだ」

「はい、たまたま護衛クエストを受けていて、その縁で直接買い取ってもらえることになったんです。そういえば、先ほどレイスさんの様子がおかしかったので心配です……」


 アリアも料理に舌鼓を打ちながら、ジョーイと会話を交わす。

 その際に商会で見せたレイスの焦った様子を思い出し、あれは何だったのかと心配するのだった。


「レイスの旦那の様子がおかしい……もしかして昔のことを思い出しちまったのかな?」

「昔のこと? ジョーイさん、何のことですか?」

「うーんそうだな、この都市に滞在している以上、身の安全のために知っておいてもらった方がいいかもな……。あまりデカい声じゃ言えないが、この都市の領主〝グラッドストーン伯爵〟はとんでもない野郎なんだ。見た目の良い若い女を見つけるとあの手この手でその女を攫って自分の欲望のままに使い倒すんだ」


 周りをキョロキョロ見回しながら、ジョーイはアリアに小声でそんな風に語り出した。

 それを聞き、アリアは「領主様がそんなことを!?」と驚きつつも、何故そんなことが許されているのかをジョーイに聞く。


「別に許されてるわけじゃねーよ。ただ伯爵はやり口が上手いんだ。決定的な証拠は残さねーし、何か言おうものなら権力でそれを揉み消しちまうんだ」

「そんな人間が領主だなんて……。それとレイスさんにどんな関係が?」

「俺も人から聞いただけだから詳しいことは知らないが、昔レイスの旦那の婚約者が伯爵に攫われたらしい。そしてしばらく経ったある日……見るも無惨な死体になって、レイスの旦那のもとに帰ってきたそうだ……」

「…………」


 ジョーイが語り終わり、アリアは黙り込んでしまう。

 あの朗らかな笑みが似合うレイスに、まさかそんな壮絶な過去があったとは……。

 横で聞いていたタマも食べるのをやめて話に聞き入っていた。


「すまねーな変な話しちまって、それより飲もうぜ! 今日は俺らが全部奢ってやる!」


 気まずい雰囲気を作り出してしまったことを詫びつつ、ジョーイは仕切り直しとばかりに酒を追加注文する。


 アリアもそれに合わせて笑みを浮かべるが、やはり心のそこから宴を楽しむ気にはなれなかった。





「ふ、ふふふ…………」


 月明かりが差し込む商会の中で、レイスは一人小さく笑っていた。


 その両手の中にはとある二つのマジックアイテムが握られてる。

 右手には白銀色の鈴のような物、左手には赤黒い小さな矢が――


「長年かけて手に入れた二つのアイテム、まさかアースドラゴンの骨格が手に入るとは思っていなかったが、それ以上にこのタイミングで私の前に現れたピクシーとドライアド……」


 レイスは静かに言葉を紡ぎながら、今度は商会の奥に運び込まれたアースドラゴンの骨格に目をやる。


 そして次の瞬間、普段の朗らかな表情からは想像もできないほどの歪んだ笑みを浮かべる。


「嗚呼……〝エリザ〟――もうすぐ……もうすぐだよ」


 レイスは静かに、今は亡き女性の名を紡ぐのだった――


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