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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第二章

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64話 森の妖精

「すごいです、ステラちゃん! あんなに連携を嫌がってたのに、バッチリでしたよ!」

「ふ、ふん! 別にアリアのためじゃないのだ。タマに我が仲間と協力して戦える女だというところを見せただけなのだ!」

「ふふっ、ステラちゃんのそういうところ、可愛いですっ」


 ジャイアントエイプを連携で倒したところでアリアが褒めると、ステラはそれが恥ずかしいのか頬を染めながらそんなことを言う。

 確かに、タマを思っての行動ではあったのが、アリアに褒められたのが幾分か嬉しかったようだ。


 ――ステラ、よくやった。この調子で頼むぞ。

 ――タ、タマに褒められたのだ! よし、今後も任せるのだ!


 タマが念話を送ると、たちまちステラが目を輝かせる。

 花が咲いたかのような愛らしい笑顔を浮かべ、その様は前世がドラゴンということすら忘れてしまいそうになるほどに、乙女だった。


(むむ、またステラちゃんとタマが無言で見つめあっています。いったいあれは何なのでしょう?)


 はたから見ればただ見つめ合っているようにしか見えないタマとステラに、アリアは「むーっ」と頬を膨らませ、少々の嫉妬心に駆られる。


 まぁ、それはさておき。アリアは気持ちを切り替えて、視線を足元に転がるジャイアントエイプの死体へと向ける。


「本来なら毛皮を剥いで持って帰りたいところですが、バックパックにも容量の限界がありますし、これから先に行くのに邪魔になるかもませんから諦めるしかないでしょうね……」


 ジャイアントエイプの死体から目を逸らし、ため息を吐くアリア。


 ジャイアントエイプの毛皮はそれなりの値段で取引がされている。

 持って帰りたいところではあるが、迷宮を進むのにあまり荷物を増やしたくないし、この先にトレジャーボックスなどが眠っている可能性もある。

 アリアもステラもバックパックを背負ってきているが、今の段階で荷物を増やすのは避けたいところだ。


(ふむ、ジャイアントエイプの毛皮……確かにもったいないな。よし、ここは新たに我が輩のスキルをお披露目することにしよう。買取り依頼をするのもレイス殿であれば、このスキルのことは秘密にしてくれるであろう)


 タマはそう決めると、アリアの足元に寄って「にゃーん」と彼女に呼びかける。


「どうしたのですかタマ?」

「にゃあ(ご主人、見ているのだ。《収納》 スキル発動)!」

「ッ――!? ジ、ジャイアントエイプの死体が消えてしまいました!」

「いったいどういうことなのだ!?」


 タマがスキル《収納》を発動したことで、ジャイアントエイプの死体がパッと消え失せた。

 そのことにアリアとステラは目を見開く。

 だが、アリアはすぐにハッとした様子で「タマ、まさかあなたが……」と、タマに視線を戻す。


「にゃん(そういうことだ、ご主人)!」


 頷きながらタマは一声鳴くと、再び《収納》を発動する。

 すると今度はさっき格納したジャイアントエイプの死体がその場に現れる。


「こ、こんなスキルを隠し持っていたなんて、タマ……あらためてとんでもない猫ちゃんです」

「すごいのだ! さすがは我のつがいとなるオスなのだ!」


 収納系のスキルを持つのは万人に一人と言われているほどのレアスキルだ。

 それも収納系スキルには容量の差があり、通常は小物を出し入れするのが限界のものがほとんどであるとアリアは聞いたことがある。

 それをまさか巨大なジャイアントエイプの死体を二体分丸ごと仕舞えてしまうとは……。


 アリアは引きつった顔でタマを見つめ、ステラは単純にすごいと喜びの声を上げるのだった。


「ですが、タマのこのスキルがあれば素材の回収を諦める必要はなさそうです! タマ、まだそのスキルには容量に余裕はありますか?」

「にゃーん(安心しろ、たっぷりあるぞ、ご主人)!」

「では、先に進みましょう!」

「アリアはなんでそんなに嬉しそうなのだ?」

「ステラちゃん、モンスターの死体は売るとお金になります。お金が増えると美味しい食べ物がいっぱい食べられるのです」

「なんだと!? アリア、それを早く言うのだ! よし、たくさんモンスターを倒していっぱい美味いものを食べるのだ!」


 アリアがステラに分かりやすく伝えると、ステラはまたもや瞳をキラキラさせる。

 ここ数日で食べた料理の数々で頭の中がいっぱいの様子だ。

 そんなステラを引き連れ、アリアたちは迷宮の奥へと進んでゆく――





「タマ! 風の咆哮をお願いします!」

「にゃん(任せろご主人、《エーテルハウリング》ッ!」


 アリアに要請され、タマは属性咆哮が一つ、《エーテルハウリング》を発動する。


 狙う先はアリアたちの頭上から鋭い針を向けて襲いかかろうとする二体の蜂の姿をした人間の頭ほどの大きさを持つモンスター〝ポイズンビー〟だ。

 危険度ランクはCランク。

 その名の通り、尻から生えた針には毒があり、徐々に命を奪うだけではなく錯乱効果もあって非常に厄介だ。


 タマに授けられた《獅子王ノ加護》の効果もあり、アリアたちに毒は効かないが、それでも針が急所に当たれば危険なのには変わりない。


 アリアのスローイングナイフでは飛び回るポイズンビーに当てるのは至難の技だ。

 だからこそ、ワイドレンジなタマの《エーテルハウリング》で迎撃しようというわけである。


 轟――ッッ!


 タマが可愛らしい声で鳴くと、アリアとステラの頭上に暴風が吹き荒れる。

 今まさに二人に襲いかかろうとしていたポイズンビーたちはバランスを崩し、そのまま吹き飛ぶとともに地に落ちていく。


「今です、《アクセラレーション》ッ!」

「負けてられないのだ!」


 すかさずアリアは《アクセラレーション》で加速し、ポイズンビーを追う。

 タマの《獅子王ノ加護》との合わせ技により、まるで弾丸のような加速ぶりだ。

 ステラもドラゴニュート形態の体を駆使して、アリアほどではないがそれでも十分な速度で追随する。


 ジジッ……と翅を鳴らし飛び立とうとするポイズンビー。

 しかし、地面に叩きつけられたダメージで二体とも上手く飛び立つことができずにいる。


 斬――ッッ!


 鋭い音が鳴り響く。

 アリアがポイズンビーの頭をナイフで横一文字に両断したのだ。

 玉鋼とオリハルコン合金でできたナイフの切れ味と、アリアのスピードがあれば造作もないことだ。


「逃がさんのだ!」


 ようやく飛び立つことに成功するかに思えたもう一体のポイズンビーを、今度はステラがグレートソードの腹で、ベチャッ! と叩き潰した。


 その光景を見てアリアが「ああっ、もったいない!」と、声を上げる。

 ポイズンビーの翅や針も売ればちょっとした小遣い稼ぎになる。

 それをペシャンコにされればそんな反応も無理はない。


(む? この気配――)


 アリアが残念そうな表情を浮かべる中、タマが何者かの気配を感じ取る。


「あそこの茂みに何かいるのだ!」

「どうやらそのようですね。ステラちゃん、わたしがスローイングナイフで仕掛けます。敵が驚いて出てきたところをタマと二人で攻撃してください!」


 どうやらステラとアリアも、茂みの奥から漂う気配を感じ取ったようだ。

 アリアはステラとタマに指示を出し、自分は太もものベルトからスローイングナイフを取り出し、投擲する――はずだったのだが……。


「うわ〜ッ! 待ちなさいよ人間! 私たちは敵じゃないわよッ!」

「そうです〜、攻撃しないでください〜!」


 茂みの中からなんとも可愛らしい声が、二つほど聞こえる。


「誰ですか、姿を現しなさい!」

「い、今出るわよ!」

「あわ〜待ってください、私を置いてかないで〜」


 アリアの呼びかけに、そんな声が返ってくるとともに、茂みの奥から声の主が姿を現した。


「え……ま、まさか〝ピクシー〟?」

「にゃん(それにもう一体は〝ドライアド〟か)!?」


 アリアとタマがにわかには信じられないといった様子で驚きを露わにする。


 現れたのは人間の手のひらに収まってしまいそうなほどに小さな体と、その背中に羽根を生やした桃色の髪の少女。

 それと、小さな子供ほどの身長を持つ深緑色の髪と瞳に、淡い緑の肌を持つ少女だった。


「そうよっ、私はピクシーの〝リリ〟っていうの!」

「私はドライアドの〝フェリ〟といいます〜、お見知り置きを」


 羽根の少女は「ふふんっ」と得意げに笑いながら、緑の少女はおっとりした様子で、アリアたちにそう告げるのだった。


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