60話 勝手に復活するドラゴン娘
「これは……見事に骨だけになっていますね」
「一流の解体職人たちによって剥ぎ取りがされましたから、骨格には傷ひとつついてませんよ」
二日後――
レナードの町へとやってきたアリア達。
骨格だけになったアースドラゴン――ステラの転生前の遺体を見て、アリアと今回の依頼人であるレイスがそんな会話を交わす。
「…………」
――ステラよ、大丈夫であるか……?
アリアとレイスの横で、無言でかつての自分の遺体を見上げるステラに、タマは遠慮がちに念話を送る。
あらかじめ、タマは今回の護衛対象がステラの転生前の遺体であることを伝えてあった。
そして、やはり心の傷は大きかったようだ。
この二日間、ステラの気分は見るからに落ち込んでいた。
あれだけ大食らいだったというのに、食事の量も常人並に落ちていた。
突然の変化に、アリアはステラをヴァルカンのもとに置いてこようとも考えたが「タマから離れたくないのだ……」という本人たっての希望で連れてきている。
レナードに来るまでの間、モンスターに襲われもしたが、ステラは戦闘に参加することはせず、全てタマが《属性咆哮》で蹴散らした。
――タマ……。
――どうしたステラ?
――おかしいのだ。我の死体を見た途端、お前に殺された時のことを思い出したのだが……なぜか、お腹の下あたりが〝きゅんきゅん〟するのだ!
――…………。
タマは沈黙を貫いた。
「ところでレイスさん、どうやってこの巨大な骨格を運ぶのですか? 馬では無理なような気がするのですが……」
「アリアさん、それでしたらご心配なく。〝リザードキャリア〟を六体用意してますから、それに馬車もオリハルコン合金を使った特製のものを用意してますので、重さに耐えられます」
「なるほど、それでしたら安心ですね」
リザードキャリアとは二メートルほどの蜥蜴型の希少生物だ。
馬程度の知能があり、体は丈夫で凄まじい膂力を持っている。
重い荷物を運ぶ長旅にはもってこいの生物なのだ。
「これはこれは、アリアさんとタマちゃんではないですか!」
会話を交わすアリアとレイスの耳に、そんな声が聞こえてくる。
「村長さん! お久しぶりです!」
「にゃ〜ん!」
現れたのは以前、魔族ベリルの討伐を依頼した、この村の村長だった。
その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
当然だ。なにせ、アリアとタマはこの町を救った英雄のようなものなのだから。
「アリアさんもタマちゃんもすっかり元気になったようで何よりですぞ! もしかして、このドラゴンの骨格を護衛する冒険者というのはアリアさんたちだったのですかな?」
「はい、その通りです。実はこちらのレイスさんに指名依頼を受けまして……」
「ほほう、それは素晴らしい。それにどうやら冒険者ランクも上がっている様子。まぁ、魔族を倒したとあっては当然かもしれませんな」
アリアの胸もとを見て、村長が言う。
彼の言う通り、アリアの冒険者タグは銀色から金――即ちCランクからBランクへと上がっていた。
ヴァルカンとの連携とはいえ、魔族を倒した実力、それにタマがトロールを一匹で四体も倒した功績が認められ旅立つタイミングで昇格となった。
もちろん、それと同時にヴァルカンもBランクへと昇格済みだ。
(む、村長め。ご主人のタグを見るフリをして胸の谷間を凝視しておるな。これは少々お仕置きが必要だ)
村長のいやらしい視線に気づいたタマが地面からジャンプし、アリアの胸元に、ぽよんっ! と収まると、村長に向かって愛らしい瞳を鋭く細める。
いくら愛らしい見た目をしていても、相手はAランクモンスターを単騎で屠るほどの強力なエレメンタルキャットだ。
村長は、小さく「ひぇっ」という声を漏らすと、視線をアリアの胸から外すのだった。
「そ、それはさておき……そちらで息を荒くしている、お嬢さんは……?」
話題を変えようと、村長はステラの方を見てアリアに尋ねる。
見ればステラは頬を染め、なにやら興奮した様子で息を「はぁはぁ」させている。
(こ、こいつ! やはり我が輩に殺められた時のことを思い出して興奮しておるのか!?)
アリアをいやらしい視線から守ることに注力していたタマは、ステラの様子に気づき驚愕に目を見開く。
いくらなんでも、殺された時のことを思い出し興奮できてしまうのはレベルが高すぎるというものだ。
まぁ……実のところ、殺された事実に対して興奮しているのではなく、タマの強さを改めて思い出し「あの〝べひーもす〟の姿で襲いかかられたら、我はどうなってしまうのだ……? きっと一発で孕んでしまうのだ……」などと、考えていたりするのだが……。
それはタマが知るところではない。
(まぁ良いか、形はどうあれトラウマは克服できたようだ。これであれば食欲も回復するであろうし、戦闘にも復帰できるであろう)
タマは無理やり自分を納得させるのだった。
村長の誘いで、アリアたちはこの町の宿で一晩世話になることにした。
美味しい料理に露天風呂、旅の疲れを癒し、明日の旅立ちへと備えるのだった。




