58話 指名依頼
むにゅんっむにゅんっ! ぽよんっぽよんっ!
(ふぁ……ご主人の胸の中、相変わらず落ち着く……)
迷宮からの帰り道。今日も今日とて、タマはアリアの胸の谷間に挟まれる。歩くたびにアリアの胸が揺れ、その柔らかさと振動に、タマは安心感を覚えるのだった。
「ニャ〜! タマちゃんの安心しきった顔、可愛いニャン!」
「く……っ! いつか我がその表情を手に入れてみせるのだ!」
アリアの温もりと柔らかさに母性を感じ、トロンとした表情を浮かべるタマを見て、ヴァルカンは胸をキュンキュンさせる。
その横では、第一次タマ争奪戦において、アリアに敗れたステラが悔しげな顔で言葉を吐く。
どうやら、タマの子種を欲するだけではなく、アリアのように彼を甘やかしたいという欲求も出てきたようだ。
だが、そんなステラの声も、今のアリアには聞こえていない。彼女は甘え、安心しきったタマの表情に夢中なのだ。
そうこうするうちに、一行は都市の中央区に位置する冒険者ギルドへと辿り着いた。回収することができたモンスターの素材は僅かだが、それでも収入にはなる。
得られるものはキッチリ得なければ。それに、ギルドに寄ったのは今日はあと二つほど目的があるからだ。
一つは実際にモンスターの素材を買い取る場面をステラに見てもらい、金銭を得るということを学ばせるためだ。
もう一つは、ステラ自身を冒険者として登録するためだ。彼女自身、これからも冒険者として活動する意志もあるし、何より冒険者タグは身分証にもなる。
記憶がない (ということになっている)ステラにとって、ひとり立ちする時に役に立つだろう。
アリアがギルドの扉を開ける。夕刻前ということもあり、掲示板前や受付カウンター、待合に使うテーブルの周り、それに奥の酒場は人でごった返していた。
掲示板の前は明日の分のクエストを見繕っている冒険者が主に集まっている。仕事熱心な者は前の日の準備を怠らない。
そうでない者は仕事が終わり報酬が入ると、真っ先に奥の酒場に駆け込みツマミをエールで流し込む。
今も酔った冒険者が皿運びをしている女性職員に、セクハラまがいのちょっかいを出して引っ叩かれている。
「おおっ! ここが冒険者ギルドか!」
そんな冒険者ギルドの中に、興奮した声が響き渡る。声のでどころはアリアの横に並ぶステラだ。
迷宮都市は活気に満ちた都市だ。だが、冒険者ギルドの中はさらに活気に溢れている。その様子が楽しいのか、ステラは目を爛々とさせている。
「おい、なんだあの子! メチャクチャ美人じゃねーか!」
「新入りか? それにあの体と服装、下乳丸出しなうえに半ケツとか……たまんねーぜ!」
はしゃいだステラの声に、冒険者たちの視線が集まる。男どもはすぐさまステラの美貌に見惚れ、彼女の刺激的な服装に感嘆の声を上げる。
彼女のずば抜けた顔のつくり、たわわに実った二つの果実とほどよく丸みを帯びたヒップラインと腰のくびれ。
それらを包み込むのはサラシのような胸当てと、臀部の上半分を露出したホットパンツ。……そんな反応も当然であろう。
「いや待て、あの子も可愛いが、アリアちゃんを見てみろ! ビキニアーマーを着ているぞ……! 前の冒険者衣装も良かったが、それ以上に谷間全開だぜ……!」
「何言ってんだ、谷間より横乳だろ! 俺はヴァルカンちゃん一筋だね!」
ステラに集まっていた視線が、一人の冒険者の発した言葉によって、アリアとヴァルカンにも注がれる。
彼らの言った通り、アリアは以前の冒険者衣装以上に露出の多いビキニアーマーを纏っている。
メロンでできた谷間はもちろん。ウェスト、背中、太もも……と綺麗な白い肌が大サービス状態だ。
そのうえ、ビキニアーマーの下部分はこれでもかと言うほどに面積が少ない。いわゆるローライズと言うやつだ。
アリアの綺麗なヒップラインはもちろん、下腹部は脚の付け根まで堪能することができる。
最後にヴァルカンだが――ステラやアリアよりは露出は少ない。だがしかし、彼女の服装は素肌にオーバーオール。
健康的な小麦色の脇やオーバーオールの横から覗く程よく育った果実が、スケベ心をがっしり掴む。
誰もがスタイル抜群の美少女三人。そんな光景を目にした男どもの中には、何やら股間を押さえ前屈みになっている者まで確認できる。
「むぅ? なんだか人間のオスどもに見られている気がするのだ。それになんだか不愉快なのだ」
「うぅ……。前よりも男性冒険者の視線が多い気がします……」
「ニャ〜、仕方ないニャン。ステラちゃんも加わったし、アリアちゃんの服装も変わったから……」
男どもの反応を見て、ステラはイヤラシイ目で見られていることを本能的に気づいたのか不機嫌そうな表情を浮かべる。
人間の男が苦手なアリアも同様に、引き攣った顔をしながら、胸の中に抱いたタマを思わずギュッと抱きしめる。
ヴァルカンはこうなることを予想していたので、諦めたかのようなセリフを吐いて、自慢のトラ耳をペタンと畳んでしまう。
そんな中――
「ふしゃぁぁぁぁッッ!」
「「「ひぃぃぃッ!?」」」
タマがアリアの胸の中で毛を逆立て、下卑た視線でアリアたちを見る冒険者どもに向かって威嚇の声を上げる。
可愛い容姿をしているとはいえ、その正体はSランクモンスターだ。身に秘めた実力――それによる威圧力は凄まじい。
そして、このギルドの冒険者たちは皆、タマの実力……その片鱗を垣間見ている。そして彼がアリアの害となる者を決して許さないことも――
(ふむ、これでいい。ご主人を汚れた目で見る輩は許さんぞ)
男どもの怯えた様子を見て、タマは満足げな表情で「にゃおん」と鳴くのだった。
「ふふっ、タマ、ありがとうございます」
「ニャ〜、タマちゃんはホントにいい子ニャン」
「すごいぞ! 一声鳴いただけでこれとは……! さすが我の夫だ!」
タマの行動に、アリアにヴァルカン、それにステラは嬉しそうな声で彼を称賛する。
ステラも元ドラゴンなので、やろうと思えば同じことをできるような気もするが……それはさておく。
「あらん、アリアちゃんたちじゃない。それに……その娘は新しいお仲間かしらん?」
男どもの視線から救ってくれたタマにアリアが頬ずりしていたところで、そんな声が聞こえてくる。その瞬間、冒険者の男たちが更に引き攣ったものとなる。
当然だ。声とともに現れたのは――一九〇センチはあろう筋骨隆々の肉体、それをボンデージファッションで包み込んだスキンヘッドの男(乙女)だったのだから。
このギルドの受付嬢(混沌)アナさんこと、アーナルド・ホズィルズネッガーさんの登場である。
「こんにちはアナさんっ、この子はステラちゃんと言って、今日から一緒に冒険者活動を始めたんです!」
「アナさん、ステラちゃんの冒険者登録をお願いしたいニャン!」
アーナルドの登場に、アリアとヴァルカンはさらに表情を綻ばせながら言う。
アリアは自分に良くしてくれるアナのことを姉のように慕っており、ヴァルカンもアーナルドの人に良さを知っているからだ。
「その前に、アリアちゃんにお話があるんだけど、いいかしらん?」
「……? わたしに話ですか、なんでしょう?」
ステラの紹介や彼女の冒険者登録を差し置いて、話があるというアーナルド。いったいなんだろうと、アリアが不思議そうな顔をする。
「それについては、私の方から説明いたしましょう」
と、そこへ。そんな声がアーナルドの背後から聞こえる。そこには一人の男が立っていた。
「初めましてアリアさん。私の名は〝レイス〟と申します。今回は貴女に指名の依頼をお願いしたくて参りました」




