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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第二章

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56話 暴走娘

「ステラちゃんにはドラゴニュート特有の腕力、それにメガシールドという大型防具があるニャン。だから〝タンク〟をやってほしいニャン!」

「たんく? なんなのだそれは?」

「最前衛で敵の攻撃を引きつけるパーティの要となる立ち位置のことです。ステラちゃんはグレートソードも持っているので、アタッカー――攻撃手とタンクを兼任してもらえるとありがたいのですが……」


 仲間と戦うことの良さをステラに理解してもらえたところで、ヴァルカンがポジションについての話を切り出す。

 タンク? 何それ美味しいの? 状態のステラにアリアがタンクの役回りについて説明を為すとステラは――


「グハハハハっ! それなら我に任せろなのだ! 要は一番前で大暴れすればいいのだろう? 我にはピッタリの立ち位置なのだ!!」


 最前線で戦えることに興奮した様子で笑い声をあげる。

 未知の敵に一度は臆した彼女ではあるが、タマに守ってもらえる安心感で、既に臆病風に吹かれることはなくなった。

 ローパーだろうが、何だろうが、ドンと来いといった様子だ。


「んニャー! そう言ってもらえるとありがたいニャン!」

「うちにはタンクがいませんでしたからね、ステラちゃんがチームに入ってくれて本当に助かりますっ」


 弾んだ声で喜ぶヴァルカンとアリア。


 今まで、彼女たちはタマを含め全員アタッカーであり、タンクは不在だった。

 もちろん、その気になればタマは《獅子王ノ加護》と《アイアンボディ》、それにオリハルコン合金の鎧を駆使し、タンクをこなすこともできるが、アリアたちはそれを知らない。


 そんな環境にあったパーティにドラゴニュートである(と思われている)盾持ちのステラが加わる意味は大きい。

 ヴァルカンは敵の攻撃をほとんど気にすることなくバトルハンマーを振るえることとなり、アリアも本来のナイフ使いの立ち回り、奇襲がやりやすくなる。

 今までオールラウンダーとして立ち回ってきたタマも、更に臨機応変に動くことができるだろう。


「それじゃあ、ステラちゃんを先頭に動き始め……ふふっ、ちょうどいいところに敵が現れましたね?」


 言いかけたところで、アリアが不敵な笑みを浮かべながら視線を先に固定する。


 仄暗い通路のその先から――


『ブヒィ……』


 そんな唸り声とともに、新たな敵が現れたのだ。


 声を聞けばお分かりだろう。

 敵の正体は豚人型のモンスター、オーク。


 数は五体。

 この階層でこれだけまとまった数のオークに出くわすことは珍しいが、今はちょうどいい。

 ステラというアタッカー兼タンクを入れて、どこまで楽に戦えるか試してみるいい機会だ。


「ぐはははっ! 豚ども、こっちへ来るのだ!!」


 現れたオークどもに近づきながら、ステラがグレートソードとメガシールドを打ち鳴らす。

 黒曜鉄製の剣と盾が激しい音を響かせると、それぞれ好みがあったのか、アリアとヴァルカン、それにステラをバラバラに見ていたオークどもの視線が、一気に彼女へと集まる。


「ブヒィィィィッ!!」

「ブモッ! ブモッ!」


 オークが一斉にステラに向かって駆け出してくる。


 どの個体も目が血走っている、

 どうやらステラに豚呼ばわりされたことに腹を立てたようだ。


 オークは石斧を持った個体が二体、素手で襲いかかってくる個体が三体という内訳になっている。


 まずは石斧を持った先頭の一体が、ステラに向かって斧を振り下ろす。

 オークは巨体だ。

 その膂力から繰り出される石でできた武具の一撃など喰らえばひとたまりもない……はずだが――


「ふんっ、こんなものか、豚が!!」


 ステラは涼しい顔をして、メガシールドで攻撃を受け止めてみせた。

 斧と盾がぶつかり合い、激しい音が響き渡ったというのに、その場からビクとも動かない。


 さすが、一部とはいえ体をドラゴンと化しているだけのことはある。


「今度はこっちの番なのだ!!」


 いとも簡単に攻撃を防がれたことに目を開くオークなどお構いなし。

 ステラはもう片方の腕でグレートソードを枝のように振り上げると、オークに勢いよく叩き込んだ。


「ブビャァァァァァァッ――!!??」


 オークが絶叫する。

 それとともに鮮血が舞い上がる。


 血の出所はオークの肩口だ。

 オークの腕はステラのグレートソードによって斬り飛ばされ――否、叩きちぎられたといった方がいいだろう。


 本来であれば肩から心臓まで一気に切断できたはずであるが、ステラは防御姿勢のまま無理やり攻撃を放った。

 そのため、本来よりも威力が落ち、腕を叩き斬るに留まったのだ。


 もっとも、オークからしてみれば一瞬で死ねたはずが、腕を失う地獄のような激痛に襲われることになったのだから、不幸この上ないだろう。


『ブギっ……ィィィ……!』


 肩口を襲う激痛で苦悶の表情を浮かべながら、オークが声を漏らす。

 後に続いていた四体も、あまりに剛力無比なステラの実力を目の当たりして、動きが止まる。


 ……かと思えば――


『ブヒィィィィッ!!』


 再び声をあげるオーク。

 それと同時に、腕を失ったとは思えない軽やかな動きで方向転換し、脱兎の如く逃げ出したではないか。


「なッ!? 敵前逃亡だと!? モンスターのくせに小癪なマネを! 待つのだ!!」


 自分も元モンスターであったというのに、なんてセリフを吐くのだろうか。

 逃亡を図ったオークにを追いかけ、ステラはその場を離れてしまう。


「ステラちゃん! 持ち場を離れてはダメです!」

「逃げた敵なんて放っておくニャン!!」


 アリアとヴァルカンが遠ざかっていくステラに叫ぶが、元モンスターであるステラは狩猟本能が働き制止の声など聞こえはしない。

 あっという間に迷宮の闇の中へと、消えていくのであった。


(ステラめ、やはりこうなったか!)


 なんとなくこのような事態が起きるのではないかと予想していたタマは、内心悪態を吐く。


 それと同時に、「にゃんっ!」と短く鳴き声を上げる。

 すると、タマとアリア、それにヴァルカンの体が黄金色の輝きに包まれた。

 そう、バフスキル《獅子王ノ加護》を発動したのだ。


『ブヒヒヒヒ……ッ!!』


 その直後、残りのオークどもがイヤらしい笑みを浮かべながら、アリアたちに視線を注ぐ。

 ステラという強敵がいなくなったことで、気兼ねなくアリア達を陵辱できると思い込んでいるのだ。


「仕方ないニャン、ここは私たちで片付けるニャン!」

「はい、ヴァルカンさん! タマ、危ない時は更に援護をお願いします!」

「にゃあ(任せろ、ご主人)!」


 オーク四体……。通常であれば苦戦しそうなものだが、《獅子王ノ加護》による恩恵を受けたアリアたちにかかれば、容易い……とまではいかないだろうが、無理なく勝利を収めることができるはずだ。


 それをアリアたち自身も理解したうえで、二人で片付けようと判断したのだ。

 そんなことをしなくても、タマが《属性咆哮》を発動すればそれまでなのだが、これは修行の一環でもある。


 不測の事態であってもそれは変わらない。

 むしろこんな状況だからこそ高みを目指せる。

 アリアもヴァルカンも、ただ楽に勝つことを望んではいない。

 ゆえに今のような指示をタマに出したわけである。


「いくニャン!!」


 耳障りな雄叫びを上げて迫るオークに向かって、ヴァルカンがバトルハンマーを大振りに構えながら突撃する。


 その振り上げの動作は以前とは比べものにならないぐらい軽やかだ。

 それもそのはず、今の彼女にはタマの《獅子王ノ加護》が授けられている。

 その効果の中には筋力増加の恩恵もある。


 とんでもない速度でヴァルカンがバトルハンマーを振り抜く。

 あまりの速さにオークは驚いた表情をするも対応することができない。

 そのまま頭を、ドパンッ! 脳天から潰されることとなった。


『ブギギャァァァァァ――!?』


 さらにその奥で、別のオークが悲鳴を上げる。

 そしてその目の前には、アリアが突きの姿勢で静かに立っていた。

 その手から伸びるナイフの刀身がオークの目玉に深く突き刺さっている。


 アリアは《アクセラレーション》と《獅子王ノ加護》で強化された脚力で、超神速の移動術を手に入れた。

 ヴァルカンの後方からだというのに、オークが対応できない速さで近づき、その眼球を貫いたのだ。


 直後、オークの体が仰向けに崩れ大きな音を立てて地面に激突する。

 ナイフによる一撃は、オークの脳天にまで達していたのだ。


 タンッ――!!


 オークを倒したその瞬間、アリアは軽やかなステップで後方へと離脱する。

 残った最後の一体が彼女に向かって石斧による一撃を繰り出してきたからだ。


 オークの石斧が空を切る。

 大きく空振りバランスを崩したところで――バキッ!! 

 鈍い音が響く。


 ヴァルカンがオークの脇にバトルハンマーを叩き込んだのだ。

 音からするに、肋骨が数本砕かれたのだろう。


「アリアちゃん!」


 バトルハンマーを叩き込むと同時にヴァルカンが叫ぶ。

 アリアはというと、既にクラウチングスタートのような体勢を取っており、ヴァルカンの声に応じて飛び出した。


 やはり速い。


 文字通り、あっという間にオークとの距離をゼロにする。

 両手のナイフを交差し、バターのようにオークの頭を刎ね飛ばした。

 速さ、そして玉鋼とオリハルコン合金でできたナイフが合わさったからこそできる芸当だ。


「まったく、持ち場を離れるなんてダメですよ、ステラちゃん!」


 残りのオークを片付けたところで、アリアが迷宮の奥へ向かって声を上げる。


 ステラが戻ってきたのだ。

 少量の返り血を浴びているのを見るに、逃げ出したオークを片付けてきたようだ。


「なぜだ? なぜ獲物を逃すようなマネをしなければならないのだ?」


 アリアの質問に対し、ステラはキョトンとした表情を浮かべる。


 彼女にとって、モンスターを討伐するのは狩りと同じ感覚だ。

 それに、アリアとヴァルカンのことを、この上ない強者と勘違いしている。

 ゆえに、自分が抜けたところで問題になるとすら思っていないのだ。


「今回は大丈夫でしたが、敵対したモンスターがもっと上位だったら、こうはいかなかったニャン! だから勝手な行動はやめて――って、どこ行くニャン!?」


 ヴァルカンがチームワークの重要性を再度説明しようとするも、ステラはまたもや、勝手に駆け出してしまう。

 見れば遠くの方でオークが歩いているのが確認できる。


(ふぅ……。あのお転婆娘をどう御したらいいものか……)


 タマは頭を悩ませるのだった。


【お知らせ】

以前よりお知らせしていた漫画版の連載が本日(2/2)より開始となります!

書籍版の詳細などと合わせて活動報告に記載しましたので、ぜひご確認下さい!

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