29話 祝杯
「あらん? ヴァルカンちゃんにアリアちゃんじゃないの〜、おかえりなさ〜いん♪」
ミノタウロスの討伐成功後――
ギルドへと戻ってきたアリアたちへ、アーナルドが声をかける。
その際に、バチンッとウィンクを飛ばし、気色の悪さでタマは内心、(おえっ)と悪態を吐く。
「アナさん、さっそくだけど鑑定を頼むにゃん。よっと……」
ヴァルカンは背負っていたバックパックをズシンとおろすと、中身を取り出しカウンターへと並べていく。
腕に脚……解体、そして血抜きをされたミノタウロスのもの。
そして、ローパーの触手やゴブリンの耳などだ。
ミノタウロスのツノや爪は剥いである。
ヴァルカンが自分の店の商品の加工に使うからだ。
「あら、この傷……ヴァルカンちゃんの攻撃によるものじゃないわね?」
「んにゃあ。それはアリアちゃんの新しいスキルでつけた傷にゃん。実はクエスト中に派生スキルに目覚めたにゃ」
「まぁ、派生スキルに? すごいじゃない。やったわねアリアちゃん♪」
ヴァルカンの話を聞き、アーナルドが再びウィンクを飛ばす。
アリアはそれに笑顔で応えた。
「それじゃあ、鑑定してくるからいつもどおり時間を潰しててちょうだいな」
「了解にゃ! アリアちゃん、この後は何か予定はあるにゃ?」
「いえ、特には。強いて言うならタマとにゃんにゃ……こほんっ、夕飯の買い出しくらいでしょうか?」
(ああ……これは、あの噂は本当っぽいにゃね……)
言い淀むアリアに。
ヴァルカンは近頃耳にした噂を思い出す。
実はアリアの趣味は……というアレだ。
だが仮にそうだったとして、ヴァルカンにアリアを非難するつもりは毛頭ない。
そもそも、彼女自身が先祖に虎の血を引いている亜人なのだし。
稀ではあるが、あえて同じ人間ではなく、異種交配可能な動物と子を儲ける者もいるのだ。
「それならせっかくパーティを組んだんだから、打ち上げも兼ねて酒場で一緒に軽く飲まにゃい? 今日は店も休業日だし、ヒマなのにゃ」
「あ、いいですね、それ」
ヴァルカンの提案を聞き、アリアのエルフ耳がぴこぴこと上下する。
ギルドの酒場の料理はアリアのお気に入りだし、誰かと一緒であれば、1人の時みたいにナンパで食事どころではない……ということにもならなそうだから嬉しいのだ。
「んじゃ、さっそくいくにゃん」
◆
「ん〜〜! やっぱりここのお料理は美味しいです!」
「んにゃあ。ほんと、ギルドの料理とは思えない出来にゃ〜!」
運ばれてきた料理の品々を口にし、アリアもヴァルカンも喜びの声を上げる。
タマもアリアの手もとで無心に料理にかぶりついている。
メニューは主に海鮮類が多い。
至るところに水路が張り巡らされたこの都市は、近くに海がある。
ゆえに新鮮な魚介が食卓に並ぶことが多いのだ。
白身魚のカルパッチョ、いくつもの魚介を使ったブイヤベース、貝類のスープパスタ……どれも実に美味。
そんな中でも、アリアたちが特に気に入っているのが、“ホバール海老”の姿焼だ。
ホバール海老とは、この地域の名産の海老のことだ。大きさは成長すれば大人の腕ほどにもなり、形は地球で言うところのロブスターに近い。ただ少し違うのは、色は青で少々エッジの利いたフォルムをしているところだ。
そして、味は芳醇。独特の甘さがあり、身はプリプリとした歯ごたえがある。
そんなホバール海老をこの酒場では半身に切り分け、グリルして提供している。
一緒にバターソースやチリソース、ガーリックソースもついてくるので、色々な楽しみ方ができるのだ。
余談だが――料理が運ばれてきた時に、アリアがバターソースとタマを交互に見て、若干息を荒くしていたのだが……タマもヴァルカンも、気づかなかったことにした。
(それにしても……実に良い風景だ)
アリアにフォークで「あ〜ん」されながら、タマは思う。
清楚系美少女エルフのアリア。
活発系ケモ耳美少女のヴァルカン。
以前にも思ったことだが、この2人が仲睦まじくしていると、それだけで絵になる。
加えて今日は2人ともアルコールが入り、頬が紅潮していて可愛さ倍増だ。
アリアが気にしていたナンパも今日は声がかからない。
ヴァルカンという一緒に飲む相手がいるというのもあるが、近づいてくる男どもを見ると、タマがテーブルの上から威嚇するからだ。
先日のカスマンとの決闘で、タマの秘めた力は噂になっていた。
触らぬ神になんとやら……というヤツだ。
「んにゃ〜なんだか気分がよくなってきちゃったにゃ! もう一杯飲んじゃうにゃん♪」
「ふふ〜、ではわたしも……」
ヴァルカンもアリアも酒を追加する。
(どうやら、今夜は長くなりそうだな……)
酒を追加しながら、愛おしげに自分の頭を撫でてくるアリアに。
タマは内心、苦笑する。




